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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
13/40

終局へのオーヴァチュア2


「……ふう……」


 凪は一つ大きく息を吐くと、くるりとこちらを振り向き、にこりと笑みを浮かべた。


「終わったよ」


 その声その表情からは、今あったこの出来事と、それを引き起こしたのがこの凪だと云う事実を結び付けることは難しい。実はさっきの死霊達は特殊映像で、凪がいたずらであたし達にあれを見せたんじゃないかと疑ってしまいたくなるほどだ。


 しかし、あたしははっきりと見えたのだ……死霊達が恐怖で打ち震えている感情を……。


「相変わらず、身も蓋もない能力……」


 そう呟いた朱美さんの声は心なしか震えているように思える。


 あたしは朱美さんの顔をチラリと盗み見た。見た目には全くの無表情で、何ら感慨を覚えているようには見えない。しかしほんの一瞬、朱美の心の波動が揺れ動いたことにあたしは気付いた。これは……この感情は悲しみ?


 あたしは、見てはいけない物を……知ってはいけないものを見てしまった様な気がして、慌てて視線を逸らした。


「凪っち凄ぉ~い!」


 そう声を上げながら、凪のもとに走り寄るのは言わずと知れたミオちゃんだ。その姿に、あたしは何故かほっとする。


 もう一度盗み見ると、朱美さんも苦笑を浮かべていた。


「さて……どうしようか?このまま虱潰しに探して行く?」


 凪のその言葉に、朱美さんは少し考え込んで口を開いた。


「そうね……まずは的場宗政が表向き所属していた研究室から当たって……後はそうね……あんたの言うとおり虱潰しに行くしかないかな……」


「あ、それならミオが羽根妖精(ピスキー)達に聞いてみますか?」


「ピスキー?ここにいるの?とてもじゃないけど、妖精達がまともでいれる環境じゃないと思うんだけど……」


「さっき、遠くでチラッと見えたんです。好奇心旺盛な彼らのことだから、きっと今の騒ぎを聞きつけて、ここまで来たんだと思いますよ?凪っちが浄化してくれたお陰で完全じゃないにしても、霊的にも元に戻ったみたいだし」


「……羽根妖精(ピスキー)?」


羽根妖精(ピスキー)って言うのは、体長が10cmくらいの羽根が生えた悪戯好きな妖精のことだよ。 好奇心旺盛で、自分のテリトリーの中のことは、なんでも知っていないと気が済まないって連中さ。ミオちゃんは、彼らととても仲が良いんだ」


「妖精!? そんなもんホントに居るの?!」


 驚いてるあたしに苦笑を向けてくる凪。言いたいことは直ぐ分かった。


「……悪かったわね、幽霊の癖に何も知らなくて……」


「いや……よく考えれば、アキはずうっとあの部屋に居たんだしね。知らなくて当たり前さ。 羽根妖精(ピスキー)に限らず妖精達は好奇心旺盛な代わりに警戒心も強いからね。アキみたいにどっちつかずな存在が相手だと、きっと姿は見せないだろうし」


「あ!来た来た」


 ミオちゃんが上げたその楽しげな声に、あたしは彼女の視線の先を追う。


「っ! …………」


「アキ?どうしたの?」


「か……」


「か?」


「可愛い~!!」


 だって現れたのは、羽根の生えた小人さんなんだよ?!ホント10cm位しかないんだよ?!なのにしっかり男の子の顔してるの!!


 悪戯が好きそうなあの微笑みも可愛いし……あ!こっちを警戒してる!身振り手振りで仲間に危険を知らせてるあの姿もめっちゃ可愛いぃぃぃ!


「……」


呆れた様子の凪の事は放っておいて、あたしはミオちゃんのもとへと急いで駆け寄った。


「ね、ね、ミオちゃん!あの子達が羽根妖精(ピスキー)なの?!」


「そうですよー。可愛いっしょ?」


「うんうん!めっちゃ可愛い!」


妖精さん達はミオちゃんのもとに飛びよって来たんだけど、隣にいるあたしを警戒してのことだろうか、5mほど手前でピタリと止まり、つつ~っと迂回しながらミオちゃんの背後へと回り込んだ。


「キャァァァ!めっちゃ可愛いぃぃぃ!」


「でしょー?あははははは。じゃあ早速聞いてみますね?」


 そう言うとみおちゃんは、妖精さん達に向かってにこやかな笑顔を見せながら問い掛ける。


あ~、この子達……ポケットに入れて連れて帰りたい……。


「ねぇみんな……ここが『こう』なる前の事、聞きたいんだけど……」


 みおちゃんがそう尋ねると、妖精さん達が口々に手振り身振りを交えながら状況を説明して……くれていると思う。


 残念ながら、彼らの言葉は声となってはあたしの耳には届いてこないのでホントのところは分かんないけど。口をパクパク一生懸命お話してくれているし、ミオちゃんは相槌を入れながら、時折質問したりしているので彼らとみおちゃんの間ではきちんとコミュニケーションは取れているんだろうけど……残念。あー!あたしも妖精さん達とお話してみたい!


 よっぽど物欲しそうな目でもしてたんだろうか、朱美さんがクスクス笑いながら彼らについて、補足を入れてくれる。


「彼らは『念話』で相手の脳に直接話しかけるの。だから、話しかけられた当人にしか彼らの声は聞こえないのよ。あと、彼らの姿が視れるのも限られた者だけよ。アキさんみたいな霊体であれば視れるけど、生身の人間であればその手の能力者か、ミオちゃんみたいな特別な目を持ってる人間だけね。まぁそれも、彼らが本気になれば、どんな存在からもその姿を隠し通す事が出来るんだけどね」


 へぇー。あんなちっちゃくても凄い能力持ってんだ……。


「あ~あ……あたしもあの子達とお話してみたい……」


「アキさんなら、いずれあの子達の方から話しかけてくるわよ。妖精達は好奇心旺盛だから、危険がないと分かれば貴女のような特殊な存在に、興味を示さないわけないもの」


 それがホントなら嬉しい。今はじっと我慢して、彼らに認めてもらえるのを待つとしよう。


 あたしが心の中で誓いを立ててる間に、話は終わったようで、ミオちゃんがくるりとこちらに向き直る。その後ろから5人の妖精達が警戒しつつもチラチラとこちらを覗き見ている。


「ビンゴです!どうも、あの建物の中に、一カ所だけ彼らにも入り込めない場所があるみたいです!きっとそこに手掛かりがあるんじゃないですか、朱美さん?」


「そうね……入り込めないと言うと?」


「何か結界みたいなものが張り巡らされていて、中を覗き見ることも出来なかったんですって。怪しくないですか?」


 ミオちゃんの言葉に、後ろの妖精さん達が5人並んで、真面目な顔でうんうんと相槌を打っている。か、可愛い……あれ?その内一人が、あたしの顔を驚いたように見つめてる……どうしたんだろ?取り敢えず、そんな彼の視線に、満面の笑みを返してみた。


「……」


驚いて他の妖精さんの陰に隠れちゃったよ……あたしの笑顔ってそんなに恐い?


「……あれ?」


 些かハートブレイクに陥ったあたしだったんだけど、その妖精さんの態度が、別にあたしを恐れての事ではないってことに気が付いた。どうも、あたしの顔を見て驚いてるみたいだ。誰か知人に似てる人でもいたんだろうか?これをきっかけに仲良くなれないかなぁ……。


「それじゃ、そこを当たってみましょう」


 あっと、あたしが妄想に耽っていた間に、話はまとまったみたいだ。


「妖精を遮断出来るほどの結界を張れるとなると……僕らは的場宗政の認識を少し改める必要があるかもね」


「ええ、そうね。魂の生成に妖精を遮断できる程の結界術……どちらか一方ならともかく、両方となると只の三流能力者では荷が重いわ。もしかしたらどこかで正式な訓練を受けてるかもしれない……ミオちゃん……」


「だめですよー!ここまで来たら、ミオも最後までつき合わせてもらいます!」


「ミオちゃん……成り行きで貴女もここまで連れて来ちゃったけど、本当だったら私は貴女を巻き込みたくはないの。命の危険は勿論だけど……この世界は、一度足を踏み入れてしまったら、抜け出そうと思ってもなかなか抜け出す事は出来ないわ。今ならまだ……」


「いやです!」


 そう言ってほっぺを膨らませ、ラブリーにそっぽを向くミオちゃん。


「朱美……」


 凪が朱美さんに声を掛け、意外なほどに真面目な顔でゆっくりと首を振ってみせる。


「……はぁ……分かったわ。でも約束して。危険があったら何よりもまず逃げる事を優先すること。例え、私や凪を見捨てなくちゃいけなくなっても……」


「……分かりました」


 見ているこっちが切なくなる程の真摯さで紡がれた朱美さんその一言に、ミオちゃんは一瞬上げ掛けた抗議の言葉を呑み込み、やや蹴落とされたようになりながらコクンと頷いてそう返事を返した。


 朱美さんはそれを見て複雑な表情を浮かべると、ミオちゃんちゃんを引き寄せて、ギュッと抱きしめた。


「朱美……さん?」


 朱美さんのその突然の行動に驚き、ミオちゃんはされるがままに唖然とその場に立ち尽くす。


 あたしも、朱美さんの行動に驚いて声もなく立ち尽くしてしまっていた。


 時間にしてほんの数秒の事だっただろうか、気付くと朱美さんはミオちゃんから離れ、建物に向かって歩き始めていた。


 いつもなら、朱美さんの行動を茶化すであろう凪は、何も言わずに、しかもいつものにやけ顔を引っ込めて彼女の後を黙って付いて歩き始めている。


「凪……」


 あたしの呼びかけに、凪は足を止めずに顔だけでこちらを振り向くと、何も言わずに軽く頷き、直ぐに視線を戻して朱美さんと肩を並べて歩き始めた。


朱美さんがミオちゃんを心配している事は分かる。それもこれから起こるであろう騒動における身の危険に対しての心配じゃ……多分ない。これはもっと根本的な何かだ。


 思い浮かぶのはさっき垣間見たあの負の感情……あの様子だと凪も何か知ってるんじゃないだろうかとあたしは思う。いや寧ろ、凪に原因があるんじゃないだろうか……そう思うのは穿ちすぎなのかなぁ……。


 訳も分からないままあたしは2人の後を着いていく。ミオちゃんも少し唖然とした様子のまま着いて来ている。


「ミオちゃん。妖精達にその場所の案内、頼めるかな?」


「え?!あ……あ!う、うん!こ、この子が案内してくれ……え? あなたも一緒に行くの?」


 ミオちゃんの言葉にコクンと頷いているのは、さっきあたしの顔を見て驚いてたあの妖精だ。


 彼はあたしにちらりと視線を送ってきたんだけど、視線がぶつかると、真っ赤な顔でもう一人の妖精の陰へと隠れ てしまった。

ふふふ、さては……あたしに惚れたな?


 あたしは、意気揚々と妖精さんのもとへと歩み寄……何故逃げる。



ヒョイ--

ツイ--

ヒョイ--

ツイ--


「……」


ヒョイ--

ツイ--

ヒョイ--

ツイ--

ヒョイ--

ツイ--



「がぁぁぁ!何で?!何で?!何で逃げるのよぉぉぉ!!」


「ア、アキさん落ち着いて!」


「だって……だってぇぇぇ!」


 何んでよ……何故なの?あたしそんなに恐い顔してる?!別に取って食いやしないわよ?!あたしゃ妖精さんと仲良くなりたいだけなのにぃぃぃ!!


 涙をチョチョ切らせて心の中で絶叫するあたしなのであった……カムバック妖精さん……。



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