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闇より舞い落ちるひとひら  作者: レムウェル
11/40

戸惑いのコンツェルト6


「アキ」


「……」


「アキ……」


「……」


「アキ」


「……」


「アキ?」


「……凪……あたしのことは放っておいて……」


「嫌だぴょ~ん♪」


「放っとけっつってんのよぉぉぉ!」


「うべしぃぃぃぃぃ……」


「不思議……なんで凪っちには、アキさんの拳が当たるんだろ?」


「はぁはぁはぁはぁ……とにかく今はあたしのことは放っておいて!」


「何で?」


「何でって……あたしは人間じゃなかったのよ?!」


「そうだね。アキは幽霊だしね」


「そう意味じゃなくてっ……」


「じゃあどういう意味さ?」


「だからっ! あたしは……」


「アキだろ?」


「……」


「お前はアキだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「凪……あなたのその言葉は凄く嬉しい……でもあたしは……あなたにそんなこと言ってもらえる存在じゃないのよ……」


「それは違う。僕の言葉は僕の物だ。僕が『アキはアキ』と言ってる以上、僕の中ではアキは『アキ』という存在以外の何者でもない」


「……え?」


「つまり、例え造られた存在であろうと、『紫藤亜紀』のコピーであろうと、俺には関係ないことだ。アキは……他の誰が何と言おうと俺にとって君は『アキ』だ」


「凪……」


「そもそも俺は、アキを苦しめる為に朱美の話を最後まで聞かせた訳じゃない。あくまで状況の確認のためだ」


「状況の確認?」


「そう。例えば、アキが何故消滅もせずに存在し続けているかの理由だ。さすがに人造魂魄ってとこまでは思い付かなかったけど、アキがただの霊体じゃないってことは分かってた。もしかしたら俺の知らない呪法の効力で生きたまま霊体だけを引きずり出されてるんじゃないかって疑ってたんだけどね。それなら肉体を見付ければ生き返るわけだから」


「……でも結局は生き返るどころか人間ですらなかった……」


「まあね。でも朱美の話を聞いたことは無駄じゃなかったよ」


「へ?」


「アキ……結論から言うと、君は生身の人間としてこの世に立つことが出来る可能性がある」


「え……ええっ?!だ、だってあたしは、そもそもこの世に存在しない人間で……」


「もう存在してるじゃん。今、この場で。だから大丈夫だよ」


「何が大丈夫なのよ!」


「生きたいと願うこと」


「で、でもあたしは……それに肉体だってないし……」


「大丈夫、大丈夫。俺が何とかするから」


「軽っ!だいたい簡単に何とかなる訳ないし!」


「簡単じゃないけどもしかしたら出来るかもしんない」


「……え?」


「アキは欲しくない?生身の身体。欲しくない?人間としての生」


「欲しいけど……欲しいけど……だ……駄目よそんなこと!許されるはず無いじゃない!」


「許されないって……誰に?」


「か……神様?」


「……ぷっ」


「わ、笑うなっ!!」


「ごめん、ごめん」


「……凪っちが言ってる事は、1人の人間を作り出す事に等しいっしょ?そんなこと、人間に許される範疇を超えているんじゃない?」


「誰がそんな事決めたの?」


「誰って……」


「……まぁ確かに、人の命を弄ぶような行為は、僕もごめん被るけどね」


「でも……凪が言った事は、まさしく『命を弄ぶ行為』なんじゃ……」


「それは違う……アキはもう既にこの世に生まれ落ちた生命の一つなんだ。産まれるに到る行為その物は許さざれる物かもしれないけど、もう生まれてしまっているアキにその責任を取らせようってのはどう考えても筋違いだ」


「……まぁ確かに凪っちの言う通りかも……」


「で、でも……」


「アキ……君は生きたいとは思わないのかい?」


「そ、そりゃあ勿論生きたいけど……」


「今こうして俺と話しをしているこの奇跡を、これからもずっと続けていきたいとは思わないかい?」


「……思うけど……でも……」


「なら俺に着いてくればいい。悪いようにはしない」


「でも……あ、あたしは……あたしは!」


「アキの言いたいことは分かるよ……恐いんだろ?自然の理を無視して不自然に肉体を得ることが、この世の全てに背を向けることに繋がるんじゃないかって」


「……」


「いいんじゃん別に。例え世界の全てを敵に回しても、俺はアキの味方だ」


「……」


「もう一度聞くよ?アキ……君は欲しくはないのかい?」


「……欲しい……」


「ならおいでアキ……君のことは俺が必ず守ってあげる」


 そう言って右手を差し出し微笑む凪の姿は、さながら『悪魔の契約』を勧めるメフィストフェレスのよう。この手を握ればもう後には引けない。


 頭の片隅では、凪のこの手を握ることへの迷いと嫌悪が交錯している。しかしそれも一瞬の事。


 あたしは凪の右手の上に自分の左手をそっと乗せる。許さざれる事なのかも知れない……人の世に背く事になるかも知れない……でも……でも気付いてしまったのだ。今のあたしにとっては、他のどんなよりも、凪と離れることが耐え難いことだということに。生者ならざるあたしには、生者たる凪の右手に触れることなど許されないことなのかもしれない。


 でも重ねた手のひらから何故か伝わる微かな温もりが、あたしの迷いを断ち切ってくれたのだった。







翌日--


「……分かったわ」


 長い沈黙の果て、朱美さんはそう了承の意を返してきた。


 あたしと凪、そして何故か着いてきたミオちゃんの三人は、凪の言っていた『人間として生きる』決心をした旨を朱美さんへと伝えに来たのだ。なんでも、紫藤亜紀さんの肉体は別の次元に持ち込まれた可能性があり、そこに行く には朱美さんの『ゲート』と呼ばれる特殊な能力が必要なんだそうだ。


「……一応聞いておくけど後悔はしない?」


「アホかい。後悔ってのはことの後でするもんであって今この場でするもんではないだろう」


 即座に答えた凪のその言葉を、朱美さんはこめかみに血管を浮き上がらせながら切って捨てる。


「あんたにゃ聞いてない!あんたの辞書に『後悔』って言葉が載ってない事は充分承知してるわい!……アキさん……ホントにいいの?例え成功したとしても貴女には確実な『幸福』は約束されたりしないわよ?寧ろ、人の世の……この世界の理に背く事だし、貴女にとっては辛い結果に繋がる確率が高い選択になると思うんだけど……」


 朱美さんは、そう言って言葉を切った。その顔を見れば、本気であたしの事を心配してくれているのが分かる……けど、あたしの心は既に決まっていた。


「朱美さん……心配してくれて有難う……でも、あたしは決めたの。凪と一緒に生きていくって。そのチャンスが目の前にあるなら、それを掴んでみる努力くらいはさせてほしいな……」


「……そうね……貴女にはその権利があると私も思う……でもこれだけは覚えておいて。これからやる事は、自然の摂理に逆らう事だって……成功する確率はそれほど高くない事だって……貴女にとってこの選択が最良の物である保証はこれっぽっちも無い事なんだって……」


 辛そうにそう言葉を重ねる朱美さん。


「はい」


「……分かったわ。それなら私はこれ以上は何も言わない」


 朱美さんは溜め息を吐きながらもそう言葉を続け、背もたれに背中を預けて、今度は思考を切り換える為だろう、もう一度大きく息を吐いた。


「それじゃあ、今回の事についての詳細を話しておくわ。そもそも、なんでアキさんがこの世に生まれてきたのかを……」


 そして、朱美さんは再び口を開き、今のこの状況を作り出した、とある人物の話を始めたのだった。



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