戸惑いのコンツェルト5
「ア、アキさん!凪っち……」
突然姿を消したアキを心配したミオちゃんが、慌てたようにこちらを振り向く。
「ミオちゃん、頼めるかい?多分屋上だ」
「ミオが行くより凪っちが行った方が良いんじゃ……」
「俺はまだ朱美に話がある。それが終わったら直ぐに行くから」
「……わ、分かったよ」
そう返事をすると、ミオちゃんはアキを追うため部屋を出て行った。この俺――鈴本凪は、未だ沈黙を続けるかつての相棒、紅朱美に向き直る。
「さて……んじゃ話してもらおうか」
「何のことかしら?」
「決まってる。アキの肉体がどこにあるのかって話だ」
「……」
「有るはずだろ?じゃなきゃアキが未だに存在していることが説明できない。人造であろうが、コピーであろうが肉体のない魂魄は有り得ない」
「何故私がそれを知っていると?」
「顔を見れば分かる。話したくはないけど、でも出来れば聞いて欲しい……そんな顔してる。自分じゃどうしていいか善悪の判断がつかないんだろ?」
「……嫌な男」
「何が『善』で何が『悪』かなんて、この際俺にはどうだって良いことさ。例え『亜紀姉』とやらのコピーであろうとアキはアキだ。あいつにだって生きる権利はある」
「人によって造られた存在であっても?あれは人間の権利を超えた許さざれる所業だわ」
「人のコピーを造る事そのものだったのなら、俺も全力で阻止したかもね。でも、例え人の過ちが生み出したものであっても、アキはもう既にこの世に生まれてきてしまっているんだぞ?それをこっちの勝手でまた無に戻すなんて出来るもんか」
「……それはアキさんだから?それとも……」
「そんなもん……アキだからに決まってんだろうがバァァァカ!アキじゃなかったらこんな面倒くさいこと、俺がやるわけないじゃん」
「……私は……私はあんたのそんな所が昔っから大っっっ嫌いだったのよ!もっともらしい事を言っときながら、結局は自己中なあんたのそんな所が!!」
「朱美は『善』とか『悪』とかくだらないことに拘り過ぎなんだよ。人生一度きりなんだから好きに生きないと」
「誰もがあんたみたいに強い訳じゃない!それで闇に身を費やす人間だって少なからずいるわ!」
「俺が闇に落ちるのが心配なら、その時は朱美が僕を殺せばいいだろ」
「私が?!あなたを?!それは嫌味?私の力量じゃ、あんたは殺せない……それはあんたも分かっているでしょう?」
「そんな事ないんじゃない?朱美なら、やりようによってはいくらでも方法は有るって」
「……それに今のはあんたの事じゃないわ……私はあんた程強くない……」
「ならそんときゃ、僕がサクッと殺してやるって」
「絶対にイヤ!あんたに殺される位なら自ら死を選ぶわ!……はぁ……まぁいいわ」
そう言うと、朱美はパサリと一つの資料をテーブルの上に置いた。
「それは、私があなたに手伝わせようと思ってた事件の資料よ」
なんで俺がお前の仕事を手伝わなきゃならん……という言葉を呑み込んで、俺はその資料を手に取り視線を落とす。
「アキさんを見た瞬間、死ぬほど驚いたわ……運命って奴を信じたくなっちゃうくらいにね」
「……成る程ね……こういう訳か……俺は運命なんて言葉どうでもいいね。 こう言う時は運命なんて言葉は使わずに、運が良いって思えばいいのさ」
資料の内容は、とある物の足取りを追うもの……そのとある物とは、さっき話しに上がった、行方知れずになっている『紫藤亜紀』の亡骸だった。




