書籍2巻 発売記念SS「弟が騎士を目指すらしい」
ある日突然、弟が騎士を目指し始めた。
「俺、借金取りじゃなくて騎士になろうと思う」
「突然どうしたの?」
朝食を終えた食堂で、王都に滞在しているエリオットを前に私は目を丸くした。
姉としては嬉しいけれど、一体何があっていきなり騎士になろうと思ったのかしら?
エリオットは興奮冷めやらぬ……といった様子で、拳を握り締めて話し始める。
「明け方に目が覚めちゃって邸の外を散歩してたら、怪しげな男を捕縛するジャックスさんたちを見たんだ」
「え?どういうこと?」
壁際に立っていたジャックスさんを見ると、彼は「お気になさらず」と笑って言った。
怪しげな男がいた、という話を聞き流すのは無理よ!?
呑気に寝ていたなんて……、とひやりとするも「護衛騎士がいてくれてよかった」と安堵もした。
エリオットは「捕まったからいいじゃん」と言って話を進める。
「逃げようとする男を一瞬で倒す姿がかっこよくて……!」
動機としては、意外にまっとうなものだった。
護衛騎士の人からは、子どもの頃に出会った騎士に憧れて、という話を聞いたことがある。
「今から騎士学校へ通うの?」
「できればそうしたいと思ってる。アカデミーは今年で卒業だし」
「そう。いいと思うわ」
騎士学校は、少ないとはいえ給金が出る。
全寮制で食費も制服代もかからないし、進路としては申し分ない。
「推薦状があれば、士官候補生としてすぐに騎士団に入れますけど?学校に行くんですか?」
ジャックスさんが尋ねる。
アレンの義弟という立場があれば、いくらでも推薦状は貰えるらしい。
でも、それでは嫌だとエリオットは言う。
「だってジャックスさんも他の護衛騎士の人も、騎士学校を出てるんでしょう?俺も一緒がいい」
「いや~、飯がまずいからあまりお勧めはしませんよ?」
「あ、カビたパンくらいなら全然いけますんで大丈夫です」
「強い……」
貧乏暮らしが長いから、弟が逞しく育っている。
ジャックスさんも苦笑いだった。
「熱意はわかりました!エリオットさん、流した血と汗と涙は騎士の勲章です。がんばって騎士になってください」
それ全部、侵入者が流してますよね?
ジャックスさんの場合、どう考えても自分が血と汗と涙を流している雰囲気はない。
エリオットは、キラキラした目で「がんばります!」と意欲に燃えているのであえて何も言うまい……。
黙って紅茶を飲んでいると、朝の訓練を終えて着替えたアレンが食堂へやってきた。
エリオットが騎士になりたいと言っている、という話を聞くと嬉しそうに目を細める。
「それはいい。エリオットは筋がいいからな、きっといい騎士になる」
「本当ですか!?嬉しいです!」
「あぁ、がんばってくれ。そうだ、騎士学校にはこちらから連絡を入れておこう。微力ながら義兄として力になりたい」
「すみません、遠慮します」
アレンの言葉に、エリオットは顔を引き攣らせる。
騎士学校の先生たちも、将軍に「頼みます」と言われれば慌てふためくことだろう。
アレンは残念そうな顔をしつつも「何もしない」「見守るだけにする」と言ってくれた。
「ソアリスの安全のためにも、強い騎士の育成は必要だな。優秀な指導員が必要だ」
「アレン、何するつもりですか?見守るって約束ですよ……?」
私の安全のために、学校をどうにかしようとするなんて大げさだ。
けれど彼は本気だった。
「これからはもっと女性の騎士も必要だな。何事も早くから手を打つ方がいいだろう」
「あの、何だかもう色々と決定事項になってません?」
数日後、邸にやってきたルードさんから「騎士団直属の講師を派遣することになりました」と報告を聞くことになるのだった。




