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【3巻8/2】嫌われ妻は、英雄将軍と離婚したい!いきなり帰ってきて溺愛なんて信じません。  作者: 柊 一葉
番外編

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番外編SS 英雄の義妹ですが、恋は突然やってくるそうです(5)

──ナ嬢、──嬢……?


どこからか呼ぶ声がする。

そろそろ起きなきゃいけない時間なのかしら?


あぁ、今日はお昼から予定がないから、揚げパンを買いに行こう。お姉さまにも食べさせてあげたいし……。


そんなことを考えていたら、はっきりと男性の声が聞こえた。


「ニーナ嬢」


「え?」


驚きで、ぱちりと目を覚ます。

ここはいつもの部屋じゃない。


「ニーナ嬢、目が覚めましたか?」


「あ、クリス様」


ベッドのそばで、座ったまま寝ていたことにようやく気づく。

ぼぉっとする私に向けられた碧の瞳は、とても穏やかで温かみのあるものに思えた。


「えっと、私」


慌てて目の周りをこすり、状況を把握しようと必死で思考を巡らせる。


夕べは確か、媚薬を盛られたクリス様を医局へ運んで、それでお風呂に入って……、脱いだドレスをどうしたんだっけ?


あ、まずいかも。

あのまま放置していたら、きっとすごい異臭を放っている。


あぁ、でももう回収されているわね。アンナさんか誰かが、きっと何とかしてくれているはず。


えっと、それから揚げパンを食べて……。


「揚げパン」


「え?」


しまった。口から言葉が出てしまった。


私は慌てて髪を手櫛で整え、クリス様に問いかけた。


「あの、体調はどうですか?」


見たところ、とても顔色はいい。

ベッドの上にあるクッションにもたれ、上半身を起こした彼は今日も見事な王子様っぷりだ。イケメンは朝起きた瞬間からイケメンらしい。


「おかげさまで、随分と回復しました」


「それはよかったです」


にこりと笑うと、彼はなぜか感極まったように目を細める。

そして、私の手を両手でとると、恭しくお礼を述べた。


「本当にありがとうございました」


「いえ、あの、そんな」


急に手を握られて、思わずどきりとしてしまう。

大きな手に包み込まれるこの感覚は、慣れていない。


「私のせいで、舞踏会を台無しにしてしまい申し訳ない」


「クリス様のせいでは」


悪いのは媚薬を盛った女性だ。

クリス様は被害者なんだから、そんなに申し訳なさそうにしないでもらいたい。


「もう二度とこのようなことがないよう、心しておきます。そして、お詫びにドレスを贈らせてください」


「えええ!?いえいえいえ、ドレスは洗えば着られると思いますし、そこまでしていただかなくても」


ドレスは高い。一着いくらするかわからないくらい、とにかく高い。

あれはお義兄様が用意してくれたドレスだけれど、宝石がふんだんに使用されていて、お詫びと言われても気が引ける。


けれど彼は、この後とんでもないことを口にした。


「あなたを飾る衣装は、これからずっと私に用意させてください」


「いやいや、そんな大げさな!1着犠牲になっただけなのに、これからずっとなんて」


「私と結婚してください」


「………………………………………へ?」


私の手を握る、クリス様の手がぎゅっと強まる。

じっと見つめ合い、しばらく無言のときが過ぎた。


今、なんて????

結婚してください、とかなんとか聞こえたのは気のせいよね?


え?まだ夢?

でもこの手の感触は本物だし、クリス様が目の前にいるのも全部本当だと思うんだけれど。


一体何が起こっているの?

頭がついていかない。


こてん、と左側に首を倒せば、クリス様の頭もまた同じ方向に傾く。


「え?」


「私は本気です」


「は?」


「あなたが好きです」


おかしい。

クリス様がこんなことを言うはずがない。


再び見つめ合うこと数秒。

私は「もしや」と彼に問う。


「私、ニーナです。誰かと間違ってますね?」


「ニーナ嬢に求婚していますので間違っていません」


なんでだ。

間違いじゃないなら、もう可能性は……。


「媚薬で頭がやられましたか?」


「いえ、私は正常です」


「絶対におかしいですよ!?」


私は慌てて手を振り払い、椅子から立ち上がる。


あぁ、恐れていたことが起こってしまった。

クリス様が私を好きだなんて、求婚なんてありえない。

つまり、最悪の事態が起こっている。


私はカーテンの向こう側に向かって叫んだ。


「レイファーさぁぁぁぁん!!後遺症です!!菌が!寄生虫が!クリス様がおかしくなってしまいましたぁぁぁ!!!!」


一体原因はどれ!?もしや全部では!?

慌てふためく私は、きっと今真っ赤な顔をしているだろう。


振り返るのが怖くて、クリス様をベッドに残したまま外に出た。

カーテンの外にいたアンナさんはすべて会話を聞いていたらしく、私と同じく「後遺症ですかね!?」とうろたえていた。


あああ、絶対に後遺症だわ……!菌よ、寄生虫よ!!

噴水の水なんて飲ますんじゃなかった……!


廊下に出たところでジャックスさんにぶつかりかける。


「うぉっ!?どうしました?!」


私は返事もせず、ひたすら走った。

どこに?そんなのわからない。

けれど、ここにいたら色々とまずいと感じていた。


「え、帰るんですか?」


「帰りますっ!急いでお義兄様とユンリエッタさんに知らせなきゃ!」


ドキドキするのは、きっと全力で走っているからだわ。

あんな求婚、本気になんてできるわけがない。


あああああああ、でもかっこよかった……!

後遺症か何かだってわかっていても、心臓が止まるかと思った……!


「ニーナさん?」


「何でもないないです!」


「揚げパン、買って帰らなくていいんですか?」


「それは買って帰ります!」


私は大量の揚げパンを注文し、あとでヒースラン邸に持ってきてもらうよう手配してから邸へ戻った。


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― 新着の感想 ―
[一言] ニーナちゃんとクリス様はどうなるのか、楽しみです
[良い点] 揚げパンを忘れないところが、ニーナ嬢、流石です! クリス様も、ニーナ嬢のその地に足がついたところが、 結婚したいと思った理由のひとつでしょうね。 もう諦めないと(笑) 姉妹揃ってイケ…
[良い点] ニーナかわゆす……w [気になる点] 将軍夫妻よりユンさんのお怒りががが [一言] こんだけ口説かれてそれでも本編最終回モードとか、やっぱり姉妹ですねえ…… ノリというか、反応がそっくり。…
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