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【3巻8/2】嫌われ妻は、英雄将軍と離婚したい!いきなり帰ってきて溺愛なんて信じません。  作者: 柊 一葉
嫌われ妻は離婚したい

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妻の空回りと夫の心配

「ようこそ、いらっしゃいました!」


 煌びやかで、別世界としか思えない衣裳店。

 金庫番の制服のままやってきたアルノーと私のことを、スタッフの女性陣が総出で出迎えてくれた。


 オロオロする私の前で、アルノーはテキパキと指示をして私のためにドレスを急遽用意してくれることに。


「姉のドレスを仕立て直そうと預けていたんだ。さすがに今から新品をっていうのは間に合わないから、それをちょっと手直してソアリスの着丈に合うように調整しよう」


「えええ!?」


 申し訳なさすぎて、一体いくら払えばいいかわからない。


「古着にはなるけれど、二回しか着ていないドレスがあって。どうせ隣国で売る予定だったから、ちょうどいいかなと思ったんだ」


 見せられたそれは、緋色の鮮やかなドレスだった。ドレープや飾りが多くてちょっと派手ではないかと思ったけれど、リボンやフリルを少なくするのはすぐにできると言うのでお願いした。

 何より、私にはほかにどうこうという選択肢がない。


「ほら、こっちのアクセサリーとも合わせたら、それなりに仕上がる。ソアリスの髪にもよく映えて、上品な淑女の皮を被れるよ」


「皮を被れるって」


 正直者め。

 この後、何から何までアルノーが店の人に指示してくれて、私は人形のように突っ立ってサイズを計られ、ドレスを着せられ、髪を結われて装飾品をつけられて。


 気づいたときには、すっかり外は暗くなっていた。


 しまった。

 すでにアレンディオ様は邸で待っているはず。焦る気持ちと、焦ってもどうしようもないという気持ちが交錯し、私は無の境地に達していた。


 衣裳店の馬車で昨日逃げるように飛び出した邸に送ってもらい、荷物ごと私は玄関で降ろされる。


 使用人が勢ぞろいしていたことに衝撃を受けたが、貴族の家とは本来こういうものだったなと何だか懐かしい気持ちさえした。

 うちも没落する前はたくさんの使用人がいて、子どもの頃はそれが普通だと思っていた。


「た、ただいま戻りました」


「「「おかえりなさいませ、奥様」」」


 緊張の面持ちで邸に入ると、階段からアレンディオ様が降りてくるところで。私の姿を見た彼は、ホッとした表情に変わった。


「遅くなり、申し訳ございません」


 明日、あなたに恥をかかすわけにはいかないのです。と心の中で呟く。できればもうちょっと遅くなって、彼が先に寝ていてくれたら……とか思ったことは絶対に秘密だ。


「おかえり、俺のソアリス」


「っ!?」


 いきなりの甘い空気に、私はくるっと背を向けて逃げたくなった。

 踏みとどまったのはがんばったからでなく、アレンディオ様が私の右手を取ってしっかり捕まえていたから。


 美形の微笑みが、つらい。

 キラキラしすぎて、目が痛い。


 この10年で変わった変わったとは思っていたけれど、アレンディオ様の顔面力はもはや生物兵器並みになっていた。やせ細っていたあのときでさえ、凛々しく美しかったのだから仕方がないとはいえ目が痛い。


「よかった、無事に戻ってきてくれて」


「ただいま、戻りました……。あの、昨夜は突然…………失礼いたしました」


 あぁ、笑顔が眩しい。


 なんで使用人の女性たちは、普通にしていられるの?

 倒れない?こんな笑顔を見せられたら。


 美形への耐性検査でもクリアした精鋭なんだろうか。真剣にそんなことを思う。


「ソアリス、昨夜のことはもういいんだ。体調がよくなったなら、何よりだよ。でもせめて馬車を出させて欲しかったから、また次に城へ向かうときは必ず声をかけてくれ」


「わかりました。ありがとうございます、アレンディオ様」


「…………愛称は呼びにくい?」


「あ、いえ、まだ慣れなくて。アレン」


 愛称を呼んだだけで、また彼はパッと顔を輝かせた。

 一体、何がそんなにうれしいんだろう。わけがわからなすぎる。


 衣裳店から運び込まれた荷物に気づいたアレンディオ様は、どうやらそれが私の引越しの荷物だと思ったらしい。


「もう寮へは帰らなくていいのか?まだ荷物があるなら、うちの者に運ばせよう」


 どうしよう。

 ものすごくうれしそう。


「君とこうして暮らせる日が来て、本当にうれしい。足りない物や欲しい物があれば何でも用意するから、遠慮せずに言って?ソアリスの部屋は一番日当たりがよくて風通しがいいところにしたんだが、もし違う部屋がいいならすぐに移動させるから」


 荷物はすぐに私の部屋へ運ばれていく。「ソアリスの部屋」ってアレンディオ様は言ったけれど、それどこ?

 本人が知らないんですけれど……。


 離婚する気なので、この邸に私の部屋は不要なんですけれど……。


 ここで流されるわけにはいかないので、私は正直に答えた。


「アレン、あれは明日と明後日の荷物です。パレードの観覧にはドレスが必要だと気づいて……」


「ドレス?」


「ええ、さすがに制服で行くわけにいかないから、急だったので仕立てる時間もなくて。同僚がすべて手配してくれたの」


 ドレスから装飾品、着替えや下着もある。お嬢様らしい私服も2着あり、アルノーは本当に何から何まで用意してくれた。


 さすが、王女様の衣装にもかかわっているだけのことはある。私にはできない、行き届いた完璧な準備をしてくれた。


 3日後にはまた寮へ戻るつもりだから、それまで滞在する分には十分だ。


 しかしここで、アレンディオ様が予想外のことを口にする。


「ドレスならたくさんあるよ。ソアリスの部屋に、ソアリスのために仕立てた衣装やアクセサリーも靴もたくさん」


「は?」


 目を瞬かせる私。

 昨夜、私が逃げ出したから聞きそびれたらしい。

 彼は当然のように告げる。


「ヒースランの父から聞いていないかな、手紙で。衣装を仕立てるために、城で保管しているソアリスの採寸情報を職人のところへ送ってもらったんだけれど」


 何その情報の横流し!

 お義父様ったら大事なことをなんでもっと早くに教えてくれないの!?


 愕然としていると、アレンディオ様は困った顔で笑った。


「もしかすると、邸で初めて衣装室を見せて驚かせたかったのかも。ソアリスには苦労をかけたから、喜ばせようとしたのかも」


「あ、ははは、はは……」


 そうだ。

 よく考えてみれば、ヒースラン伯爵夫人ともあろう身分でドレスを新調していないはずがない。


 うん、そのまさかのまさかで新調していないのが私だったんだけれど、アレンディオ様から手紙が来たら、お義父様は喜んで新調するはず。


 しかも、たくさんって言った?

 ソアリスの部屋とやらに行くのが怖くなってきた。


「今から部屋へ見に行く?でもせっかくの友人の好意を無下にはできないかな」


「そうですね……」


「それに君の荷物をすべて運び込むとすれば、衣装室が足りるかな」


 足ります。

 私服3着の女なので。

 さすがに今それを言うのは、恥ずかしかった。


「寮の荷物はそのままなの」


「そうなのか?」


 だってここに住む気がないのですから。

 私は苦笑いで、会話を続けた。


「荷物は運ばなくていいわ。仕事で遅くなるときも多いし、寮だと近くて安全だから一人でも大丈夫ですので」


 アレンディオ様は「そうか」と言ってしばらく黙っていた。

 私が引越しする気がないことを悟ったのか、目に見えてしょんぼりしている。


「この邸は気に入らない?」


「いいえ!そんなめっそうもない!」


 国王陛下から下賜された立派なお邸が気に入らないなんて、そんなことがあるわけない。


「そうか、俺が急ぎすぎているんだな。昨日の今日なのに、いきなりここに住もうなんて……」


「アレン」


「邸には、君の準備が整ったら来てくれればいい。それに俺も騎士団の詰め所にいる時間が長いから、戻ってこない日も多いだろうし」


 そうなんだ。

 戦地から戻ったばかりだから、しばらくはのんびりできるのかと思っていた。


「でも本当に身体は大丈夫?寝不足みたいに見えるし、夕べみたいなことはよくあるの?」


「えっと、あの、はい。たまに」


 嘘ですー!

 王女宮の金庫番は、残業なんてほとんどゼロのものすごく平和な職場です!

 半期に一度しか、繁忙期はありません!


 ちなみに今はおもいきり閑散期で、業務時間よりも早く仕事がなくなるくらいだ。


「あぁ、ごめん。出迎えたまま玄関で立ち話なんて」


 アレンディオ様は、帰ってきた私を気遣い優しくエスコートしてくれた。差し出された肘に手を添えると、たったそれだけのことで彼は幸せそうに笑うから、どうにも気持ちが落ち着かない。


 ちらりと見上げると、横顔もとてもきれいだった。

 首筋や肩のあたりなんて、10年前と全然違う。中身だけでなく外見も変わったんだなと、まじまじと見つめてしまった。


「「…………」」


 急に静かになってどうしたんだろう。

 でも甘い言葉で、ご尊顔を近づけられるよりは無言の方がいい。私も黙って、彼の私室へと向かった。















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― 新着の感想 ―
[気になる点] 仮にも結婚してるのに、夫の凱旋に着ていくドレスを只の同僚とはいえ他の男と買いにいくのは無しでしょ! そう思った私は心が狭い。 [一言] まだ13話までですが、すれ違い夫婦の行く末が楽…
[良い点] どこまで続くこのアンジャッシュ夫婦め 楽し
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