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【3巻8/2】嫌われ妻は、英雄将軍と離婚したい!いきなり帰ってきて溺愛なんて信じません。  作者: 柊 一葉
嫌われ妻は離婚したい

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すれ違いだらけの政略結婚【後】

 騎士になり、ソアリスに会いに行く。

 それがアレンディオの目標になった。


 14歳。遅い初恋が、彼を絶望から救い上げたことは間違いない。


(彼女は自分を覚えていてくれるだろうか。いや、顔を見てもわからないくらい、立派になって会いに行きたい)


 ただ、伯爵家の困窮は劇的に改善されることはなく、相変わらず日々は苦しい。かつての栄光は見る影もなく、邸は荒れ放題で、とても貴族の住まいとは思えないほどだ。


(絶対に、諦めない。次だ、次に勝てばいい)


 ソアリスが何気なく言った言葉を支えに、アレンディオは目指す道を決めた。

 騎士見習いになるために、師匠の伝手を使って騎士の入団試験を受けさせてもらえる約束を取り付けた。


(ようやく一歩踏み出せる)


 決意に燃えるアレンディオだったが、どうやら彼はとことん運がないらしい。


 運命の出会いから1年後。

 さらに追い打ちをかけるような悲劇に見舞われた。


「……アレン、結婚してくれないか」


「は?」


 十五歳の春。

 父から突然結婚を言い渡された。


「結婚って、誰と……」


「すまない。どうしても援助してくれる家が必要なんだ」


 領地に水害が発生し、そのために資金援助が必要となり、助けてくれたのがソアリスの父であるリンドル子爵だ。聞いてすぐにわかる政略結婚。

 相手がソアリスであることを知ったアレンは、絶望で目の前が真っ暗になる。


(まだ12歳だったのか)


 同年代より背が高かったソアリスは、アレンディオが思っていた以上に実は幼かった。

 夕暮れの街で出会った初恋の人。その人が妻になるというのに、喜びは微塵も抱けない。


「なんで君なんだ……」


 ソアリスに向かってそう呟いてしまったのは、決して彼女に不満があったからではない。

 むしろ好意を抱いているからこそ、現実を受け止められなかった。


 好きな女の子の家に、金で買われた自分。この絶望は、十五歳の少年には深すぎた。


 もしも相手がソアリスでなかったら。絶望はしても、耐えられただろう。


 名ばかりの妻の機嫌を損なわないよううまく立ち回ろう、そう思って切り替えられたはず。


 でも目の前には、自分が好意を抱いていた女の子がいる。

 いずれ立派になって、会いたいと思っていたソアリスがいる。


(なんでこんなことに)


 自分は、彼女の人生にとって今のところお荷物でしかない。


 ソアリスは自分と出会ったことなどすっかり忘れていて、それどころか金で買われた夫の自分に対して同情すらしてくれている。


 優しい子だと思った。


 彼女の方が立場は上なのだ。本来は尊大な態度で、もっと優しくしろとか丁寧に接しろとか、エスコートしてくれと要求してもいいだろう。


 でもソアリスは、ただ笑顔でそこに座っているだけで、自分に対して理不尽な要求をしなかった。それどころか、申し訳なさそうにしているくらいで。


 まだ12歳の女の子が、よく知りもしない貧乏な伯爵令息に嫁がされた。彼女に愛のない結婚を強いるのが、よりによって自分だなどと認めたくない。


(どうすればいい?何をすれば、ソアリスのためになる?)


 焦るほどに普通の会話すらできず、かわいらしく着飾ったソアリスに褒め言葉の一つも言えない。


 あの日もらったハンカチは、返せないまま引き出しに収められていて、後生大事にしているなど剣を嗜む男のすることじゃないとアレンディオは己を嘲笑った。


 しかし、卑屈になっていても何も始まらない。


 あるのは血筋のみ、そんな自分でもソアリスのために何かできるだろうかと考え続けた。


(ソアリスを幸せにするには、どうしたらいい?)


 何度あっても、互いのことをよく知らないまま。今の自分の平穏な暮らしは、すべて彼女の家からの援助で成り立っている。


 それが恥ずかしくてたまらなかった。


 あるとき、彼女は薔薇をきれいだと言って微笑んだ。

 その笑顔をみて、いかに自分といるときに緊張して無理に笑っているかを思い知る。


(彼女を不幸にしたくない)


 好きだからこそ、今の自分の境遇が恥ずかしくて好意を伝えられない。

 何も言えなくなったアレンディオは、ソアリスに対してそっけない態度を取り続けてしまった。


(いっそ、『あなたなんかと結婚したくなかった!』と怒って嘆いてくれればよかったのに)


 ソアリスは確かに嘆いていたが、それはこんな結婚をさせた父親に対してであり、アレンディオに対しては同じ被害者だとずっと思っていた。


 リンドル家の長女としてなるべくいい子にして過ごしてきたソアリスは、アレンディオの前で文句の一つも言うことはなかった。


 そして、事態は戦が始まったことでさらに歯車が狂いだす。


(騎士になり、成果を上げてソアリスに捧げよう)


 家の再興、そしてソアリスが自慢できるような夫になる。

 目標をそう掲げたアレンディオは、兵士として志願することを決めてしまった。


 ソアリスに「行かないで」と手紙で言われようと、彼はリンドル家の庇護下から抜け出して自立することを目指していた。


(必ず帰ってくる。そして、君を誰より幸せにする)


 15歳の誓いは、胸に秘められたままになる。そんな素振りはカケラも見せずに。


 ソアリスには、一言も本心を告げぬまま旅立った。


 誰からも認められ、ソアリスが誇れるような男になるまでは帰らない。

 アレンディオの願いは10年後にようやく叶うことになるが……。二人の間には大きなすれ違いが生まれていた。









ご覧いただきましてありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] >そんな素振りはカケラも見せずに。 って、カッコいいんだけど恋愛としてはポンコツ過ぎる。 でも、そういう旦那様が大好きな私には、すごくおいしいカップルになってます。 ごちそうさまです^^…
[一言] うーん。 空回りw 言葉をつくさないと伝わらないと悟ったんだから、過去の発言まで省みられればこんな事にはならなかったのにねぇ。 抱きしめるんじゃなくて、発言の謝罪が先でしたわー( ̄▽ ̄;)…
[一言] 久しぶりに嫌われ妻を読み返しています。 やっぱり一番胸キュンします。 色々な作品を読ませていただいています。 先生の作品はどれも読みやすくてハマります。 これからも楽しみにしてます。
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