92。餌付けは楽しくて危険です
気づかないうちにマゼンタが嫌がることでもしたんだろうか? と段々焦ってきて、我慢できずに再度声を掛ける。
「マゼンタってばどうしたの? ひょっとして食べたくない?」
「んーそうじゃなくてさ。せっかくだからフィアが食べさせてくんない?」
「は?」
「だからさー。オレ、ちゃんとフィアの役に立ったじゃん? またご褒美ほしいなーって」
そう言ってベンチに手をついて、上目遣いをしてくるマゼンタ。相変わらず仕草があざとい。
「ここ外よ? 人目もあるからそういうのは嫌だって……」
「あ、キスしてくれてもいいぜ?」
「しないわよ!」
なんでそこでハードル上げてくるの! 交渉のセオリーとしては、そこは要求を下げて言うことを聞かせやすくするもんじゃないの?!
「えー、ご褒美ないとやる気出ないなー。もう家帰っちゃおうか?」
その場合はフィアも一緒に帰んなきゃだからね? とニマニマ笑われる。
うっ……それを言われたら断るって選択肢がなくなってしまうのだけど……
飼い主は私なのに、立場が弱過ぎて悲しくなる。まあでもしょうがないか……
「ーー分かったわよ。普通に食べさせるだけだからね?」
その後食べさせた指を舐めるとかは禁止だから! と釘を刺すと、バレてたかーと笑われた。
やっぱりそういうつもりだったのね……全く、油断も隙もあったもんじゃないわ。
マゼンタは下から見上げるような姿勢のままで、口をあーんと開けてくる。
ため息をつきながら、袋の口に手を入れてポップコーンをいくつか掴み、そのまま口に押し込んだ。
ーーパリパリ、もぐもぐーー
前回おみやげで渡した時よりはゆっくりとしたスピードで、袋の中身が減っていく。
ひとつ食べ終わると「もっと」とでも言うように口を開けてくるので、またポップコーンを放り込む、の繰り返し。
たまにパタパタと耳が震えて、マゼンタのしっぽがご機嫌に揺れている。
あ、これ、何か楽しいかも? 動物に餌付けしてるっぽい。
それに、食べさせられるよりは食べさせる方がそんなに照れないというか、気が楽だ。
思ったよりも恥ずかしくなかったので、私も調子良く次々とポップコーンを入れていくと……
ーーパクリ。
タイミングがズレてしまったのか、食べさせているうちに私の指ごとマゼンタの口に入ってしまった。
「!? ひゃっ、ごめんなさーー」
慌てて謝罪をして手を引こうとするとーー
くちゅっーーぺろり
マゼンタに手首を掴まれて抜けなくなってしまった指先が#口の中__・__#で吸われて、摘んでたお菓子を舌で外された。
「ひっ、ちょ、ちょっと! やめてっ‼︎」
咄嗟に空いている方の手でマゼンタの頭を力任せに押すと、チュパっと湿った音をたてて指が抜ける。
「な、なんてことすんのよ!?」
「あれ、食べていいって意味じゃなかったの?」
「~~!? 違うに決まってるでしょ!?」
真っ昼間から人目のあるとこで何してくれてんのよ!?
テンパって真っ赤になっているのを見られるのが嫌で、バッと反対側に顔を逸らすとーー
「えーと、お邪魔だった?」
ちょっと苦笑いをしているガイさんが立っていた。
「! い、いえ、大丈夫です!」
「ならいいけど。ほれ、これ地図な。お高めな店だが、味は保証するぜ!」
「あ、ありがとうございます。じゃあ私たちはこれで……」
「あー……まあなんて言うか……広場はチビっ子達もいるから、程々にな?」
「ーー! し、失礼しますっ!」
み、見られてた! 多分全部ッ!
私は渡された地図を引っ掴んで、慌ててそこから逃げ出したのだった。




