91。情報はタダじゃありません
「あれ、この前のお嬢ちゃんか。久しぶりだな!」
「ええと、ガイさん? お久しぶりです」
荷物を家で片付けてから再度広場に戻った後、マゼンタに連れられてやってきたのはいつぞやのポップコーン屋さんだった。
今日も今日とてアクセサリーをジャラジャラさせたパンクな外見のお兄さんーーガイさんが、ポップコーンを袋詰めしながらニッカリ笑って声を掛けてくれる。
「おっ、名前覚えててくれたのか? 嬉しいねぇー。今日はどうしたんだ? 買ってくれんならたっぷりオマケしてやるぜ!」
「おーい、あからさまにオレのこと無視すんのやめてくれる?」
マゼンタが私の肩に顎を載せた格好でずいっと顔を出した。ーーなんか威嚇っぽい? ちょっと機嫌が悪そうだ。
「ははっ、届け物屋の片割れはもっと久しぶりだな? 今日はどうした?」
「オマエさ、敵情視察とか言ってこの辺の菓子屋ひと通り調べてたよな?」
あ、詳しい人ってガイさんのことだったのね。
確かに自分がお菓子屋さんをやるなら、周辺の競合店の調査は必須だものね。納得だわ。
「おっ、何か知りたいことでもあんのか? でも情報をタダでやるって言うのもなー。あ、だったらポップコーン三袋で手を打って……」
「ガイさ……この前ウチの飼い主に、何かのオマケ渡したんだって?」
「ーー! あ、ひょっとして俺からだってバレてんの?」
マズい、と分かりやすく狼狽えているってことは……やっぱり効果が分かってて渡したのね……。
思わず私もジト目でガイさんを見つめる。
派手な黄色と黒の髪色が目に痛い。確か警戒色って言って、この色の組合せが一番目立つんだったか。
やっぱりガイさん、見た目通り要注意人物だったわけね。
「あー、その件は悪かったって! で、何が知りたいって?」
突き刺さる視線が痛かったのか、簡単な謝罪の後思いっきり話を逸らされた。まあ良いのだけど。
「この辺りで一番美味しいチョコレートを売ってるお店を教えてほしいの。人にプレゼントするものだから、多少値段が高くてもいいわ」
「なんでぇ、知りたいのはお嬢ちゃんの方か。そうだなぁ……心当たりならあるが、ちぃっとばっか分かりづらいんだよな。地図描いてやるからちょっと待ってな」
「ありがとう! じゃあ食べながら待たせてもらうから、こっちのポップコーンをひとつお願いします」
目の前に並んだ色とりどりの袋詰めポップコーンから、赤と白の混じった袋を指差してお金を渡す。
「ベリー&ホワイトチョコな、毎度あり!」
「じゃあ、そこで待ってるから。できたら声掛けてね」
「おう、描けたらすぐ持ってってやるよ!」
お願いしますと軽くガイさんに頭を下げてから、買ったばかりのポップコーンを手に近くのベンチに腰を下ろす。
マゼンタは一緒には来てくれたけど、なんだかまだちょっと不満そう。
「なーフィアー、別にソレ買わなくても教えてもらえる流れだったんじゃねーの?」
「いいじゃない、私が食べたかったのよ」
バリッと袋を開けてポップコーンを口に放り込む。ーーうん、パリパリで美味しい。
これが映画館の中だったらもっと良いんだけど、こっちにもそういう娯楽施設ってあるのかな。
食文化は元いた場所と遜色がない……というか、こちらの方がバラエティーに飛んでいるくらいなのだが、娯楽に関してはそこまで進んでいないように思う。ネットやスマホどころか、テレビも無さそうだし。
まあ個人的には本さえあればいくらでも時間が潰せるので、そこまで困らないのだけど。
そんな事を考えながら、隣のマゼンタに袋の口を向けた。
「ほら、マゼンタも一緒に食べて? 美味しいわよ」
そう言ってポップコーンを渡そうとしたのだが、マゼンタは食べようとせずに私の方をじっと見てきた。
あれ、まだ機嫌悪そう……と言うか、なんか拗ねてる?
全然心当たりはないけれど、気づかないうちにマゼンタが嫌がることでもやってしまっただろうか。
地面近くで不機嫌にバタバタ揺れるしっぽが視界に入るも原因も分からずに途方に暮れ、私はマゼンタを見返したのだった。




