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89。子供扱いではないそうです

「ねえ……本当の本当に、このまま家に戻っても大丈夫?」


エリザ達のお茶会からお暇させてもらって、城の転位陣まで戻る帰り道。

私はしつこいくらいにマゼンタとシアンに確認をとっていた。



「フィア心配性だったんだなー。大丈夫だってばー」

「さっき宰相様からも説明のあった通り、ちゃんと諸々手配されてますよ」

「そうだけど……危ない人達に攫われたら尋問とかされるんじゃないの?」


この世界はまだ夢だと思ってるーーというか思いたいのだけど。普通に怪我をしたら痛いのだ。

朝の話だと悪くすれば捕まった後に拷問とかもあり得るわけで……考えただけでも血の気が引く。


「大丈夫ですよ。逃げるときに着ていたローブも認識阻害の魔法効果が付与されているので、中身が僕らだとはまず気づかれてないですから」

「そうなの? ……でも存在を認識できなくたんじゃ、噂の上書きもできないんじゃないの?」


そのためにわざわざ隣国の前皇帝陛下から、向こうの人が使っているローブを借りてきたのに。見てもらえないんじゃ意味ないのでは?


「認識阻害には二種類あってさ、あのローブのは着ている奴を別人に見せられるやつなの。ま、フィアが悲鳴を上げちゃったから、迷い子が女の子ってとこまではバレたろうけど」

「ソフィーの顔も髪も、フードとローブでバッチリ隠しておいたので誰にも見えていないはずですよ」

「なら、いいんだけど……」

「信じろって! 何かあっても守ってやるから!」


マゼンタが背中を叩きながらウインクしてきた。反対側からはシアンがにっこりと笑って手を絡めてくる。


ーーはあ、もうしょうがない。

こうなったらなるようになれ、だ。大丈夫だと言ってくれたのだから、信じてみよう。


どのみち二人が家に帰るというなら私だけ城に残るという訳にもいかないし。……エリザは喜びそうだけど。



この前、約束したところなのだ。二人を置いて、勝手にどこか行かないって。


約束は約束ーーちゃんと守らないとね。









「え、……なんで朝ご飯が準備されてるの?」


転移して戻った自宅のダイニングテーブルの上には、大量のサンドイッチが積まれていた。


「朝っつーか、もう昼だけどな」

「どうやらリュウの差し入れのようですね。ちゃんと食べておけ、と書き置きが置いてあります」


大皿の横に置かれていたメモを確認していたシアンが文面を私に見せてくる。ーーリュウおじ様の字って丸字で可愛いのね。


「あー、こないだ低血糖で倒れかけたって話、マヤから聞いたんじゃね?」

「あとはお詫びも兼ねているようですよ。ウチのがまた悪い事をして申し訳なかった、だそうです」


キッチンの方にはミネストローネのようなスープの入った鍋も置かれていた。ーー私の周りの人たちは段取りが良すぎるんじゃないだろうか。


あと、何だか甘やかされている気もする。



「いいじゃん、甘やかされて何か問題あんの?」

「問題というか……ダメ人間になっちゃいそうで」


大人になってから困りそうだと言えば、マゼンタが呆れた顔でため息をついた。


「フィアはまだ大人じゃねーだろ? 今から大人になってからの心配とかしなくていいの!」

「そうですよ、もらった好意は遠慮なく受け取っておけばいいんです」


それだけアンタが魅力的ということですよ、というシアンの言葉には(うなず)きかねる。


こんな面倒くさい人間のどこが魅力的だというのだろう?


「女の子は元々面倒なもんだろ?」

「むっ……ハッキリ言われるのも腹立つわね」

「怒るなよー、ちょっと面倒なくらいが可愛いんだってー」

「それ、“手がかかる子程可愛い”とか、そういう感じのやつでしょ」


まるっきり子供扱いじゃないの。


「んー、ちょっと違うかな?」

「ええ、違いますね。可愛いとは思っていますが、全然別です」

「どこが違うってのよ……」


ちょっとむくれて見上げれば。


「ソフィーは完全に大人ではないにしても、子供と言えるほど幼くもありませんしーー可愛いっていうのは異性として見て、ですよ」


いつの間にか目の前にシアンの整った顔がドアップで迫っていて、ピシリと固まる。


ま、毎度毎度距離が近すぎっ……!


吃驚して思わず目を閉じると、唇の端に柔らかい感触が掠めた。



え、い、今のってまさかーー?


「あっ、シアンずりー! オレだってまだそんなとこにキスしてないのに!」

「?! やっぱり、さっきのってーー」

「いいえ、違いますよ? 唇にはしていません。()()()()、ね」


でも、子供相手にはキスしない場所でしょうね? といい笑顔で言われて一気に顔に血が集まる。


こ、この猫は本当に毎度毎度いい加減にーー


「シアンだけとかズルいからオレもするー♪」


反対側の唇の端に、チュッとリップ音が落とされる。



ーーーー!?!?



「いっ、いい加減にしなさーーいッッ!!」



結局、朝に続いて今度は二匹の頬に手形を残すことになった。

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