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88。至れり尽くせりでした

「はあ……こうなってしまうと、しばらくどちらともマトモな会話は望めませんの。お時間を取らせても悪いですから、お三方ともご自由にお帰り頂いて結構ですわ」


クロエさんがこめかみを押さえながら「身内のジャレ合いをお見せする事になって申し訳ありません」と頭を下げてきた。

どうやら、元夫婦のこの遣り取りはいつものことらしい。


「あの……私、普通に家に戻っていいんでしょうか?」

「ええ、先ほどの噂はこちらも人を使って広めておりますし。あと勝手なこととは思いますが、母の方でソフィアさん達のご自宅の魔法陣に認識阻害の効果を重ね掛けさせたようで」


お戻りいただいても問題ありませんよ、と微笑まれた。

なんていうか、この短時間で根回しが行き届きすぎていて怖い。


ーーでも、帰れるなら良かった。しばらく安全な場所に隠れているように言われるのかと、一応身構えていたのだ。

まだ住み始めて数日だけど、やっぱり自分の家として決まった場所に戻れるのは嬉しい。


本当はエリザとサイラスさんにお礼を言いたいけど。二人ともこっちの会話に戻ってこなさそうならクロエさんにお礼を言ってお暇をーー



「待てソフィア! まだ用事が終わっておらんぞ?!」

「あ、エリザ。元旦那様(サイラスさん)との話は終わったの?」


席を立ったところで(抜けていた腰は無事に治っていた)、エリザからストップが入る。

意外と復帰が早かったわね。結局デートのお誘いは受けたのかが気になるところだけど……


「あ、あの礼の話は保留じゃ! それより、ソフィア。この前渡したペンダントは今持っておるか?」

「もちろんつけているけど、これがどうしたの?」


以前プレゼントしてもらったペンダント型の魔道具を服の下から取り出して、エリザに見せる。


「そうそれじゃ。一旦わらわに戻してくれ」

「? 別に構わないけどーー」


外したペンダントをエリザの掌に載せると、両手で包むようにしてから胸の前に持っていった。

エリザはそのまま小さく何かを呟いていたが、あわせた掌の隙間からピンク色の光の粒が溢れ出した。


え、えっ?  ひょっとして、何か魔法を掛けてる?


驚いているうちにエリザはペンダントを何やら確認した後で、こちらの掌に載せ返してきた。


見ると雫型のピンクの宝石の中に星の砂のような、はたまた小さな金平糖のような白い物が入っている。

さっきまでこんなのは入ってなかったはずだけれど、今の魔法みたいなもので入れたんだろうか。

前よりもさらに可愛くはなったけど、多分単なる飾りではないのよね?



「その白い石は認識阻害効果をつけた魔石じゃ。見つかりたくないと思えば見つからん様になる。使う時は声を出さぬようにするのじゃぞ?」


迷い子に試したことはないがまあ効果はあるじゃろ、と言ってペンダントを握らされる。


これはーー神の加護ならぬ女王様の加護ってとこかしら?

なんだかすごく効果がありそう。


「エリザ……ありがとう。大切に使わせてもらうわね」

「良いのじゃ。十分に気をつけるのじゃぞ? ああ、あと(ここ)の中は安全じゃからな! これからもたくさん遊びにきておくれ?」


幼女な女王様はそう言ってにっこり笑ってくれた。

本当に、何から何まで頼りっ放しだ。


ーーやっぱり、もう少しだけ夢の中(ココ)にいたいと思ってしまう。

こんなに色々面倒を見てもらっといてお返しも何もできていないままにエリザのことを忘れるなんて、嫌だもの。


「お返しというなら、なるべく長くこの世界に留まってほしいものじゃの」

「それ、私が頑張ってどうにかなる話なの?」

「もちろんじゃ。この世界の者とたくさん関わって、縁を結んで、ここを好きになってくれれば良い」


そうすれば簡単には戻ることもなかろう、と言われたけど。

昨日マヤさんには、“結構すぐに帰れる”とも言われたはずでーー 一体どっちが正しいんだろう?


やっぱり、もっと迷い子について調べないと。



そう決心している私の横では、サイラスさんがマゼンタとシアンに話しかけていた。


「帰る前に猫くん達に忠告だーー迷い子がソレとバレるのは、大抵が病気や怪我などで病院に担ぎ込まれた時だ。次からは注意するんだよ?」


今回は誤魔化せても、何度も同じ手は通じないからね。


「へいへい、ご忠告どーも?」

「ーー肝に銘じておきますよ」


二匹は今までで一番渋い顔で、嫌そうに頷いたのだった。


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