85。こちらはどちら様でしょう?
お城のメイドさんや騎士の方々全員から生温かい目で見られるよりはエリザ一人の方が多少なりともマシと判断して、エリザが待っているという中庭の東屋に転移してもらった。
よく考えたら女王陛下一人だけで外で待っているなんてことはあり得ないから、護衛の騎士や給仕のメイドさん達には見られるのよね、とそこまでは遅ればせながら想像はついていた。でもーー
「ーーえっと、どちら様でしょう?」
目の前にはエリザとクロエさんと、あともう一人。
総白髪の人の良さそうな顔をしたお爺さんが、にこにこ笑いながら二人と一緒にお茶をしていた。
「おおソフィア! 久しいの!」
「ええ、元気そうねエリザ」
うん、今日も女王様が可愛い。再会を喜んでくれていると分かるキラキラした笑顔が素敵だ。
ーー久しぶりって言っても、中三日しか空いてない再会だけど。
私が小さな天使を愛でている間に、三人分の椅子がティーテーブルに用意される。
そのうちの一脚に座らされて、ようやくシアンの腕の中からは解放された。
シアンはそのままの足で今度はマゼンタからさっきのローブを受け取り、未だエリザ達との関係性が不明なお爺さんの前に進み出る。
「こちらありがとうございました。お返しします」
「構わぬよ。なんならそのまま取っておくといい。使い終わったら焼き捨てておけば良かろう」
証拠隠滅にもなるじゃろうしの、とにこりと微笑みながらやや物騒な台詞を口にするお爺さん。
ーーえーと、この方ほんと誰なのかしら?
エリザとクロエさんと平然と同じ席でお茶をできるくらいだから、きっと偉い人なんだろうけど。どこかの高位貴族とかかな。
見た目でいけば還暦過ぎくらい?でも貴族の人って見た目で年齢が判断できないのよね。
エリザみたいな極端な例は置いておいても、大体皆んな見た目が若いもの。
……あ、これ挨拶とかした方が良かったのだろうか。
まだ腰が抜けたままな気がするから普通に座っちゃったけど、失礼だった? 今からでもするべきかーー
「ソフィア、此奴に挨拶は要らんぞ? お主の事は先に伝えてある」
「ああ、すまないね。迷い子のお嬢さん。話は先に聞かせてもらったよ」
ーー? 話って、どれのことだろう?
「ソフィア・クロフォードと申します。申し訳ありません、お邪魔をしたようでーー」
和やかにお茶を楽しんでいるところにとんだ珍客が迷い込んだ、とでも思われていそうだ。
「これはご丁寧に。私はサイラス・ダン・オースティン。気にせずとも、元々君を待っている間にお茶をして時間を潰していたのだよ。おかげでゆっくりお茶を楽しめているから、むしろお礼を言わないとね」
何しろ家族団欒の時間をもらえるなんて久しぶりでね。今回は私は役得だったよ、と嬉しそうに微笑まれた。
ーーえ、今、家族って言った?
バッとエリザを見るが、少し不機嫌そうに目を逸らされた。ちょっと、この状況で説明なしなの!?
助けを求めてクロエさんの方を見ると、全くしょうがない人ですわね、とため息をついた。
「母は話をしたくないようなので、代わりにワタクシからご説明いたしますわーー彼は隣国の前皇帝陛下で、ワタクシの父です」
ーーなっ……前皇帝陛下で、クロエさんの父親!?
想像以上に偉い人だった上に、まさかの血縁者だった。
それにーークロエさんの父親ということは。
私は“今度こそ説明しなさいよ”と心で念じながら、エリザの方を見る。
「エリザはクロエさんの母親よね? つまりこの方はーー」
「……元じゃ、元。今は赤の他人じゃ」
何十年も前に離縁しとるわ! とそっぽを向いたまま気まずそうにされた。
えーと……別れた妻と娘とお茶を楽しんでいる元夫、ってこと?
「大体じゃ! サイラス、わらわはお主など呼んでおらぬぞ!? わらわはエドを呼んだのじゃ!」
「相変わらず君は無茶を言う……エドワードは現役だからね。友好国とはいえ、気軽に来れるわけがないだろう?」
ーー濃すぎる設定に茫然としているうちに目の前で(元)夫婦喧嘩が勃発していた。
気を抜くとすぐ置いてけぼりを喰らうが、夫婦喧嘩に混ざりたいとは思っていない。
巻き込まれないように、情報の整理をしたいけれどーー
ここはシレっとお茶に戻っている宰相様にヘルプをお願いしよう。
「クロエさん……その方がクロエさんのお父様なのは理解したんですが、エドワードさんというのは?」
「エドはワタクシの弟で、そこの二人の息子ですわーー加えて言うなら隣国の現皇帝陛下、ですわね」
うんーーまとめると。
エリザがこの国の女王で、娘のクロエさんが宰相。
エリザの元夫は隣国の前皇帝陛下で、息子のエドワードさんが現皇帝陛下、と。
…………
ーーこの家族、権力が集中しすぎてやしないですか!?




