80。放り投げてしまいました
ーーは? あ、えっ?
思わず心の中で奇声を上げる。
ね、猫? ーーこの毛玉、ネコよね?
いえまあ、そこまでなら問題ない。びっくりはするけど、ギリギリおかしくはない。
問題は……色。
真っ白なシーツに映える、目に痛いほどの鮮やかなマゼンタカラー。
……まさか、ひょっとして。
勘違いかも知れないけど、でもこの色だもの。
ーーこの猫ってマゼンタ、なの?
頭がぐるぐるした状態のままどうしたものかと固まっていると、目の前で猫が起き上がり、背中をググッとそらして伸びをした。
鮮やかなマゼンタカラーの瞳がこちらを向いて、ガラスのような綺麗な瞳に私が映り込む。
次の瞬間、固まったままの私の胸に猫が飛びついてきた。
「フィア起きてるー! 良かった!心配したんだぜ?!」
胸元から、そんなマゼンタのはしゃいだ声が聞こえて。
私はもう一度気を失いそうになった。
ああうん、前言撤回しないとだわ。
前回こうやってマゼンタに朝から押し倒された時は『これが本物の猫なら抱きしめ返すのに』って思ったけど。
中身が同じだと、どっちにしろぎゅっと抱きしめ返すなんて無理だった。
◇
「ちぇー、なんだよーっ! ちょーっと抱きついただけじゃんか」
首ひっつかんで放り投げるとか酷くねっ!? とベッド下の床にストッと降りたマゼンタが抗議の声を上げた。
ーーあの後びっくりして思わず放り投げてしまったけど、さすが猫。
ホレボレするような見事な着地だ。
「わざわざ胸元にダイブしといてよく言うわね」
「ちょっ、故意みたいに言うのやめてくれる!? 場所とか考えてなかったし!」
誤解だからな!? と叫びつつ、ぴょんっとシーツの上にマゼンタが戻ってきた。
……やっぱり、動きまで猫そのものだわ。
「……えっと。今さらだけど、ホントにマゼンタ?」
「マジで今さらなんだけど。普通に見りゃ分かるでしょ?」
「え、だって見た目がーー」
猫だし、と続けると「前から猫だし」というツッコミとともに笑い声が聞こえた。
「ま、こっち見せたの初めてだっけ? 気になる?」
「なるに決まってるわ。普段とまるきり違うもの。今の見た目って完全に猫じゃない」
喋ってる声も口調もマゼンタだから、マゼンタなんだろうなとは思ってるけど。
っていうか、猫の姿になれたのね……
「んー、こっちのが喜ぶかと思ったんだけど。ならもういいか。じゃさ、フィアちょっと目瞑っててくれる?」
「え、イヤよ」
「ソッコー拒否かよ!」
「だって、危険じゃない」
今までのノリなら、目の前で目を閉じたりなんかしたらどんなちょっかいを出されるかわかったもんじゃない。
「信用ないのな〜……ま、いーや。じゃ、オレがいいって言うまでアッチ向いててよ」
そう言ってドアと反対の方向を指差される。
「良いけど……本当に変なことしないでよね」
「しねーって! それくらい信じてくれよー」
「……分かったわ。じゃあ」
ドアを背に向け、ベッドの反対の端に腰掛けようかと移動しかけると、思ったよりもすぐに声が掛けられた。
「よし、もういーぜ! こっち見てみ?」
「なによもう……アッチ向けって言ったりこっち見ろって言ったり。一体なにをーー」
文句を言いながら猫のいる方を振り返るとーー
「コレなら気にならないだろ?」
上半身裸で腰にシーツを巻きつけただけのマゼンタが、満面の笑みで下から見上げていた。




