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77。女子会のネタと言えば恋バナです?

「ねえねえ~ソフィアさんって恋人は居ないのぉ?」


ーーブフッ



マヤさんが調子を取り戻してからしばらく経って。

一通りリュウおじ様のチーズおつまみを堪能し口直しの紅茶を楽しんでいたところで唐突にそんな質問をされ、私は普通にお茶を吹き出してしまった。


ゴホゴホと咽せていると「あらあら、驚かしちゃったかしらぁ?」ところころ笑いながら、マヤさんがハンカチを差し出してくれる。


び、ビックリした……急にそんな事を聞かれると思っていなかったわ。


それにしても、ピンポイントで今一番聞かれたくない事を聞かれてしまった…まあ確かに、女子会で恋愛話は定番だけど。


こういう時、恋バナの相手が既婚者だと不利だ。一方的に追及される立場になってしまう。



「で、どうなのぅ~? 気になる人くらい居ないの?」

「……ここだけの話、にしてもらえます?」


全く諦める気配のないマヤさんを前に、そんな条件だけはつけておいた。

さすがにリュウおじ様にでもこんな話を共有されるのは嫌すぎる。


もちろんよぅ~! と嬉しそうに返事をするマヤさんを見て、渋々私は話し始める。


「好きな人なら、いました」

「? 過去形なのね。ひょっとして訳あり~?」

「訳あり、と言いますか。実質フラれちゃいまして」


そう言って苦笑いをする。ーーあれはもう、フラれたも同然だ。

だって私には、どうやったって勝ち目がない。



「えーっとぉ……つまり、好きだった相手がお姉さんに告白している現場を見ちゃったってワケ?」

「ですです。さっきも言った通り、ウチの姉外見中身揃った完璧超人でして。正直、そっちに行っちゃうのは仕方がないかなぁ、と」


私が男なら絶対お姉ちゃんの方を選ぶもの。お兄さんがお姉ちゃん狙いでも不思議でもなんでもない。


想定外だったのは、お姉ちゃんもお兄さんが好きだった、ということで。

まさか両想いだったなんて、全然気づいてなかった。


「お姉さんとは、こんな風に恋バナしたりしてなかったの?」

「私の方は、相手が姉の知り合いということもあって恥ずかしくて言ってなかったです。姉の方からは好きな人の話をしょっちゅう聞いていたんですけど……相手が別の人、だったので」


少なくとも、半年くらい前までは。だからあれは本当に想定外だったのだ。



「私少しまで留学していて。その間姉とはテレ……えっと、絵付きの手紙みたいなもので遣り取りしていただけなので、そういう話はしていなかったんです」

「じゃあその半年の間にお姉さんは前の想い人を諦めて、そのお兄さんを好きになってたーってこと?」

「うーん……ただ結構姉の片思い歴も長かったので、諦めていたとか想像つかなくて」

「ちなみにお姉さんの片思い歴は何年?」

「ざっくり十年です」

「長っ!長いわよそれ!? ーーそれ、本当に諦めてたの?」

「ちょっと私も信じられないんですけど……どうなんでしょうね……」



人の心は移ろうもの、と言ってしまえばそれまでだけど。


姉の片思いは、何ていうか筋金入りだった。

好きな人のそばにいるために進学先の大学も研究室も、就職先さえ決めてしまった。


そう。姉の想い人は、姉が秘書を務めている研究室の教授なのだ。



マヤさんはロックにしたお酒をひと舐めしてから、ふぅっと息を吐き出した。


「やっぱり、何かの間違いじゃないかしらねぇ。そんな風に一直線にヒトを好きになる人が、急に相手を諦めるとは思えないわぁ~」

「そうなんですよね。よっぽどのことがないと、諦めない人だと思うんですけどーー」



障害なら、最初から山のようにあった。


姉の研究室の教授は、父の学生時代の後輩でーーつまり、とんでもなく年上だ。

そして、生涯独り身が気楽で最高、と公言して(はばか)らない独身貴族だったりもする。


外見は年齢を感じさせないイケオジで、授業の後に女子学生に囲まれていたり研究室に押しかけられたりもしているーーというのは姉からの情報だが。

そんなモテモテな状態でも「研究の邪魔だから帰ってくれる?」とすげなく追い返すような一面もあって、女性の影はない人だった。


姉は教授のそんな姿を近くで見ていても、全く隠す気なく本人にアピールし続けていた。

結果断られた回数は妹の私が知るだけでも片手で収まらず。


それでもめげることなく好きだと言い続けていたので、私はそのうち教授の方が折れるものだと思っていたのだけれど。



「そのよっぽどが、ソフィアさんの居ない半年の間にあったのかしらねぇ……」

「……正直、分からないです。あの姉が諦めるようなシチュエーションが思い浮かばなくて」

「そうよねぇ、あるとしたら…その教授さんに恋人ができた、とかかしらぁ~」

「そんな素振りはなかったですけど……」


日本から帰って、時差ボケも治らないうちに連れ出された研究室旅行。

私も姉も教授の車に乗せてもらって移動していたけど、二人とも普通に談笑していたんだよね。


考えれば考えるほど分からない。



「まあ、分からないなら本人に聞くのが一番よ!悩んで答えが出るわけじゃないし~」

「それができる状況にないんですけどね……」


なんたって、今の私は異世界(ゆめ)の中だ。

現実(リアル)の私は遭難一歩手前かも知れなくて……はぁ、一体いつになったら戻れるんだろう。



「あらぁ、大丈夫よぉ~。お姉さんのことが大好きで今もそんなに気になってるのだから、遠からず戻れると思うわ!」

「そんなものなんですか?」

「そんなものよぉ~。結構すぐに帰れると思うわよ? だから焦って帰ろうとしなくても、こっちに居れる間は楽しめるだけ楽しむといいわ!」


へえーーマヤさん迷い子に関しても詳しいのね。それともこっちの住人にとっては常識なのかしら?



「そうねえ……こっちの誰かと恋仲にでもなれば、また話は違ってくるのだけどぉ~。ーーそうだ、貴女のネコ達とはどこまで進んでるのぉ?」



それを聞いて、私は食べていたクラッカーを盛大に喉に詰まらせた。


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