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66。貴重な一点モノだそうです

「……えぇっと、その。ゴメンなさい。もう一度言ってくれるかしら?」


まだ糖分が頭に回りきっていなくて、ぼーっとして聞き間違えたのかもしれない。というか、そういうことにさせて欲しい。


「だーかーらっ! お礼にキスして? 今日オレらスッゲー頑張ったんだぜ?」


口にしろって言わないからさーといいながら、自分の頬を指でトントンと叩いてみせるマゼンターーえ、えっ? ホントに本気?


「ああ、それは良いですね。ねえ、ソフィー。頑張った飼い猫にご褒美くれますよね?」


シアンまで悪ノリして、ニンマリと笑って首を傾げてくる。


そんな感じにニマニマ笑いながら席を立ち、こっちに迫ってくる二人だが……ちょ、ちょっとほんとにストップ!



「ま、待って! さすがにここでするのは勘弁して!!」


ここはお城の食堂だ。自分たちの家じゃない。

ーー周りにはこっちを見ないようにしながらも、興味津々と言った感じのメイドや騎士の方々がいっぱいいらっしゃるのだ。


いくら頬へのキスが挨拶代わりとはいえ、こんな衆人環視のもとでやるのは嫌すぎる。



「えー、ここでいいじゃん」

「ひ、人いっぱい居るから! 見られてるから!」

「皆さんしっかり横向いてくれてますよ?」

「それでもイヤなの! ここじゃなくたって良いじゃない!」


大体首だけ横に向けてても、目線はバッチリこっち向いてるから!


「フィアさぁー、恥ずかしがったら負けだと思わない?」

「思うけど! 恥ずかしいって思っちゃったんだから、今さらどうしようもないのよっ。お願いだから家に戻ってからで赦して」

「……仕方ありませんねえ」


半泣きで訴えれば、どうにか聞き届けてもらえたらしい。……ただし。


「なら、部屋に戻ってから、しっかりたっぷりキスしてくださいね?」

「フィアが恥ずかしくなるようなキスをしてくれるってコトだもんな! 楽しみだなぁ~」

「ちょっと! こんなところで変なこと言わないでっ!」


微妙にハードルを上げられた状態で、いつの間にやら両脇からしっかり抱きこまれた。

うわ、この状態ってひょっとしなくてもーー


「では、さっさと部屋に戻りましょうか。逃げないでくださいね?」

「ネコに“待て”をさせるんだから、それなりのご褒美じゃないとな?」


そんなことを言われながら、足元に転移魔法陣が描かれる。


ーー案の定と言うかいつも通りというか。結局お城の食堂から自宅の寝室まで、一気に転移をさせられたのだった。







「ーーソフィー、着きましたよ」

「いい加減目、開けたら?」

頭の上から声が降ってきて、私はこわごわと目を開ける。


今回は、入口出口とも既設の魔法陣なしでの直接転移だ。

いくら慣れてきたとはいえ、多分目を開けた瞬間にめまいと吐き気で大変なことにーー




ーーあ、れ。……なってない?


え、なんで?



「ああ、大丈夫そうですね」

「顔色も悪くないし、めまいとかも平気そうだな!」

「え、ええ。大丈夫みたいーーでもなんで?」


朝お城まで転移した時は普通に気持ち悪くてしんどくて、大変な思いをしたはずなのに。


「へっへーん、実は女王様にイイモノ貰ったんだよね!」

「良い物?」

「ええ。今日受けた仕事の対価として、ソフィーにぴったりの魔道具をもらったんですよ」


そう言ってシアンが私の肩を押さえていた手を開くと、そこには綺麗なピンクの石がついたペンダント。


「これは?」

「魔石を使ったアクセサリーです。転移魔法の副作用を抑える効果が付与されていて、石が身体に接していれば効果を発揮するそうですよ」

「女王様オリジナルの一点モノだってさ。フィアに使ってほしいってー」

「エリザのお手製?!」


受け取ったペンダントをマジマジと見る。


エリザの瞳を思わせる濃いピンクの宝石は雫型にカットされていて、合わされているのは華奢な金のチェーン。


可愛い。正直、めちゃくちゃ好みだ。


会ったその日にこんなものを準備してくれるなんて……ありがとうエリザ。貴女やっぱり最高だわ…!


「ほーんとデタラメな女王様だよな。普通こんなもんすぐに作れないって」

「時間を掛ければ作れるってものでもないですがね。腹が立つくらい才能を独り占めしてますよね」

「マジでそれ。まあ今回はフィアの役に立つものだから、一応感謝するけどさ」

「そんな貴重なものなのね……」


……そこまで貴重だと言われると、持っているのが逆にちょっと怖いのだけど……大丈夫かしら?


「あー。まあ同じ効果がある魔石なんて、今んとこ存在しないだろうな」

「パッと見では普通のペンダントにしか見えませんが、念のため服の下に隠して置いた方がいいでしょうね」

「……! 一点ものってソッチの意味でもなのね……」


目利きのできた人間が悪人だったとしたら普通に狙われそうな代物だ。気をつけないと。


「とにかく、それを着けていれば転移酔いに悩まされることはありませんよ」

「ってことで、これからはオレらと一緒に出掛け放題だな!」

「……つまり転移し放題だから城にたくさん遊びに来い、ってメッセージなのね」


毎日でも、といって顔を赤くしていたエリザを思い出して思わず微笑んでしまう。


もちろん珍しい迷い子だから、っていうのが大きいのだろうけど。

それでもあんな可愛い女王様に会うのを楽しみにされている、というのはすごく嬉しいものだ。



「さて、転移酔いもしなかった事だし? そろそろいいよなー?」

「ーーへ、えっと……何だっけ?」

「トボけないでください。僕らへのご褒美、ですよ」


お望みどおり僕らしか居ない場所に来たんですから、ね? と言われて、ピキリと固まる。



ど、どうしよう……このわずか数分で、すっかりさっぱり忘れてた!

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