64。コキ使われていたそうです
控えめに言っても、お城のご飯は最高だった。
普通にメイドや騎士の人達が使っている食堂なので、まあエリザや宰相様たちの食事とは豪華さって点では比較にならないのだろうけど。それでもめちゃくちゃに美味しかった。
出汁を丁寧にとったことがわかる具沢山スープに、完璧な下処理をした上で表面はカリッと、中はフワッと焼かれた白身魚のムニエル。
焼き立てのパンに添えられた発酵バターが蕩けて香りを放ち、奥に置かれた挽きたての珈琲の香りと混じり合う。
ーー何度でも言おう。
最高に美味しかった……!
ま、そもそもが空腹だったという話でもあるけどね。
食後のデザートのプチアイスケーキに手を出しながら、とっくに食べ終わって机でダレてる二人に話しかける。
「それにしても、エリザに振られた仕事ってそんなに大変だったの?二人とも結構戻るの遅かったわよね」
てっきり一、二時間程度でサクッと終わって、家に戻るものかと思っていたわ。
「色々やらされたんだよ……ネコ使いが荒いのなんのって。もーメッチャ疲れたし!」
「てっきり使者を送り返すだけだと思ってたんですが。まあいいように使われましたね……」
マゼンタだけでなくシアンもかなりグッタリした感じ。二人ともずいぶんお疲れ様だ。
「ええと……私が頼んじゃったせいよね?ごめんなさい、お疲れ様」
そう言ってとりあえず近くにいた方のマゼンタを撫でる。
耳の後ろの方をサワサワしていると、“ふにゃぁ~”と緩んだ声が漏れてきた。
気持ち良さそうにされるとちょっと嬉しい。
それに、この手触りは私の方も癒されるわ。この耳周りの感触は文句なく猫よね。
しばし無心で、フニュフニュさわさわ撫でまくる。
そのうち脱力したマゼンタが机にくてんと伏せるのを見てから、そっと手を離した。
それにしても半日丸々掛かるなんて、そんなにこき使われたのかしら?
「いやなんつーか……魔力は都度補充されたから、何回転移してもそっちの面ではわりかし平気だったんだけど……。まあ精神的な疲れってヤツ」
「精神的? 何か嫌なことでも言われた?」
エリザ、ちょいちょい抉ってくるからなあ……普通にありえる。
そう言ったのだが、二人はなんだか微妙な表情でお互い顔を見合わせた。
「いや、そうじゃなくってさぁ……女王様って、あんなキャラだったんだなーと……」
「? どういう事?」
「あの後も女王様、”ソフィアが心の中でわらわの事をこんなに褒めてくれた“、“スゴく感謝してくれた!” って思い出しては顔を赤くして悶えててさ……」
「そこそこ長い付き合いなんですが、あんな気持ち悪……いや、恥じらう姿を見たのは初めてで、驚いてしまいまして」
「そうなの? 別に普通に見えたけれど…」
むしろあの外見にぴったりというか、赤くなって照れているところなんかとても可愛らしかったけど。
「ちょっ、フィア! それは見た目に騙されすぎだって!」
「そうですよ、確かに見た目は幼女ですが、中身はおそらく八十歳を超える老女ですよ? 体をくねらせて照れている様なんて、おぞましいムカデが身をくねらせているのと大差ないですからね」
「……シアン、あんたそこまで口が悪かったのね……」
お昼はクレイの方が口が悪いと思ったけど、どっちもどっちの口の悪さだ。
いくら相手が心の広いエリザでも、今のを聞いたら断頭台送りにされるんじゃなかろうか。
「……だからその”心が広い”ってトコから勘違いなんですがね……」
「アンタ達二人の暴言が見逃されてる時点で相当心が広いじゃない」
「まー女王様無類の動物好きらしいから、相手が動物なら大体のことは見逃されるって話だし?」
流石にそれ知らなきゃもう少し発言考えるよーって……分かってるなら控えようよ。
私が呆れた目で二匹を見ていると「それより、そろそろ良いですかね?」とシアンがにっこり笑う。
「えーと……なんでしたっけ……」
なんだか嫌な予感が……
「書庫で倒れたんだっけ?」
あ、やっぱそうですよねー……さすがに逃してくれないか。
ここは潔く謝ろう。
「その……ほんとごめんなさい。久しぶりに本がいっぱい読めるのが嬉しくて、つい没頭してしまったの」
「何それ、フィアって本が好きなの?」
「ええ、そりゃもう大好き!」
「……えぇーっ……マジかよ」
マゼンタが信じられないといった感じで、即答した私を珍獣か何かのように見てくる。
失礼ね。別に活字好きなんてよくある話でしょうに。
姉の知り合いにだって、学生時代に本の買いすぎで食費まで使ってしまったとか、本を買いすぎて部屋の床が抜けそうになったとかいう人達がぽろぽろ居たし。私ぐらいの本好きなんて珍しくないわ。
まあ私も、三度のご飯よりも本は好きだけど……ってそのせいで倒れかけたのよね。
もう書庫に行っちゃダメなんて言われるのは嫌だ。ここはちゃんと反省しているところを見せないといけない。
そう思った私はそれ以上本の素晴らしさについて力説するのは止めて、二人の出方を伺うことにした。
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