58。飼い猫貸し出しいたします
あの後すっかり女王様と仲良くなった私は、難なくお城の蔵書を閲覧する許可を貰うことができた。
これで過去の迷い子達の情報もこの世界の設定も調べられる!
きっとお城の書庫なら資料としてまとまったものもあるはずだ。
「司書の方には話を通しておこう。書庫までの道筋は、後でメイドに案内をさせるでの」
持ち出しは禁止じゃが、城に来ている間は禁書でもなんでも好きに読むが良いぞ、とかなり太っ腹なお言葉をいただいた。
ーーというか禁書とか私が読んでも良いんだ。普通一般人は閲覧禁止だから禁書っていうんじゃなかろうか。
そう思えば、「……わらわとソフィアとの仲じゃからの。特別じゃぞ?」と頬を赤らめて上目遣いされた。
……ヤバい、女王様の笑顔が尊いです。可愛すぎて萌え死ねる。
心の中で盛大に悶えていたら、”萌え”って本当に使うんじゃの、とエリザにさらっと心の声をバラされた。
うん、そこは言わないで置いてほしかった……シアンとマゼンタからの視線が痛い。
違うの。これは、日本の悪友たちに色々偏った文化を教え込まれたせいなの! 元々の私はこうじゃないのよ! と主張したいところだが。元々の素養があってこうなった、が正解なのよね。
認めたくはないけど、生来のオタク気質って事だろう。……認めたくないけど。
「陛下、そろそろ執務のお時間ですのでーー」
「なんじゃ、もう終いか。折角迷い子との親交を深めるチャンスなのじゃぞ? 仕事など後でも良いではないか」
小さく唇を尖らせてそっぽを向く様も、幼女の姿なら可愛くて許せてしまう。
見た目美形は得よね、ほんと羨ましい。
そんな微笑ましい仕草も、それこそ産まれてから見続けている宰相様には効き目が薄いようで。
「そうは参りませんわ。この後は交易を希望している国の使者との謁見を予定しておりますので、先延ばしはできませんの」
「他所の国の使者などどうせ碌なことを考えておらん。相手をするだけで憂鬱じゃ」
「ええ、ええ。憂鬱でしょうともーーそれが為政者のお仕事ですわ」
うん、取り付く島もないとはこの事ね。
そろそろ誰かに代わってほしいもんじゃがのうと零しながら、エリザは椅子からぴょこんと飛び降りた。
どうやら仕事をする気になったらしい。
「ああ、そうじゃ丁度良いわ。ネコ共、お主らはわらわと一緒に来い」
「成る程。それは良いお考えにございますね」
エリザがいいこと思いついたと言わんばかりににんまり笑い、宰相さまもポンと手を打ってにっこりした。
「はぁっ?! なんでだよ?」
「もちろん届け物屋の仕事の依頼じゃ。謁見の後、使者殿を彼の国に即行で送り返してこい」
「え、飼い主一人にして仕事いくとかヤダし!」
「お主らの居ぬ間は城で預かるわ。ここより安全な場所などあるまい?」
「それでもお断りします。仕事をさせるなら、城の子飼いの者達がいるでしょう」
「此度の届け先はかなりの遠方ですので、彼等では力不足なのですよ」
そう説明されると二匹揃って渋い顔をした。
「……この国は随分と人材不足なのですね。嘆かわしいことで」
「ええ、仰る通りです。とても憂慮すべき事態ですわーーどこかのネコ達が、何度誘いを掛けてもけんもほろろに断ってくるものですから」
「ほんにのう?わらわが直々にすかうとというのをしておるのに色良い返事を寄越さぬとは何様のつもりなのかと、そろそろ問い詰めてやりたいと思うておったところなのじゃ」
「「………………」」
「と、いうわけです。ソフィア様?」
「あ、はい」
「こちらのお二方、何時間かお借りしても宜しいでしょうか?」
「ええ、それはもちろん」
「ちょっ、フィア~!」「ソフィー酷いです……」
なんだかすっごい恨みがましい目で見てこられるけど。
「あなた達優秀なんでしょ? だったらそのくらいのお願い朝飯前ってことじゃないの」
それでエリザが助かるならぜひ協力してあげてほしい。
国のトップというのは、きっと想像もできないくらい大変な仕事なのだから。
「その代わり、うちに帰ったらまたお茶でも淹れてあげるわ」
「それって猫用のヤツ?」
「普通のお茶よ!」
いやいや昨日みたいなのはゴメンだと想像してしまって、エリザにもの凄くニマニマ笑われた。
……昨日の事、バレちゃったじゃないのよ。
「アレはあれで美味しかったんですけどね? ……まあ、飼い主のお願いなら仕方ありません。特別に聞いて差し上げますよ」
「しゃーねーな。帰ってからたっぷり撫でてくれよ!」
「はいはい、分かったわよ」
頑張ったら後でご褒美! と強請る二人は、なんだかんだで言う事を聞いてくれるらしい。
あとでこっそりお菓子でも準備しようかな。
そんなことを思っていると話が纏まったと見て、エリザがこちらにきて声を掛けてくれた。
「ではな、ソフィア。今日は諦めるが、また城に来た時はわらわとお茶をしておくれ?」
お主とはもっと仲良うなりたいのじゃ、とモジモジしている女王様を思わず抱きしめる。
「ええ、喜んでーー私も、貴女ともっと仲良くなりたいわ」
「ーー! そ、そうか! 何なら毎日でも城に来てくれて構わんからな!」
「ふふ、ありがとう」
社交辞令などではないからな! 絶対またすぐ来るんじゃぞ! と言いながら女王様はクロエさんと二人を伴って部屋を出て行った。
入れ替わりで、おそらくは案内役のメイドさんが入室してきて一礼する。
「お待たせ致しました。それでは書庫までご案内させて頂きます」
ーーー!!
メイドさんがしゃべった!




