閑話2★ 興味深いオモチャ②
例の女の子を宿の部屋に寝かせた後、戻ってきた兄弟に話があると別の部屋に呼び出された。
「先にちょっとお願いが。ーーコレで血を分けてもらえませんか?」
押しつけられたナイフと皿を見て固まる。
コイツ、前からちょっとヤバい奴だとは思ってたけど……これはちょっとで済まないだろ。
「ーー説明はねーの?」
「面倒なので、できたら端折りたいんですが」
「いや、流石にちゃんとしろよ。何に使うんだよ」
仕方ないですね。コレにですよ、と言って見せられたのは少し厚みのある不思議な感触の紙。羊皮紙ってヤツか?
一箇所だけ文字が書かれているのを読めばーー
「”命名申請書”って……どーゆーこと?」
「彼女に、僕らの飼い主になってもらおうかと思って」
「ーーは、正気?」
いやいや、ついさっき森で拾ったばっかの女の子だぞ?
飼い主決めるって、基本的には一生に一度とかのめちゃくちゃ重要な話なんだけど?
会って数分話しただけで”君に決めた!”ってやんのオカシーだろーよ。
しかも血を分けろ、って言ったってことは。
ひょっとしてこの申請書、ただの申請書じゃなくて……宣誓書……?
えっ、マジで?
ーーさすがに頭オカシーんじゃねーの。
「……大体同意ももらってないじゃん」
「それはこれから説得しようかと」
説得、というか脅迫しかねない雰囲気漂わせてんな…。目が本気だよコイツ。オレでもこえーわ。
これはあの子逃げらんないだろうなー。ご愁傷様ってカンジ。
に、してもだ。
「……理由は?」
「一目惚れ、じゃ納得できません?」
「できると思ってんの?」
「してくれるとラクでいいな、とは思ってますよ」
「……いい加減にしねーとキレるからな?」
おやおや怖いですね、とニヤニヤ笑いながら両手を上げたポーズとかワザとやってくるから、ギリギリ狙ってナイフ投げてやった。
平然とした顔で掴んで投げ返されたけど。
「本当に君は堪え性がないですね。短気は損気と言いますよ?」
「イチイチ煽ってくる奴が身近にいるからだろーが!」
「それは失礼。反応が面白くてつい」
君だってさっき彼女に似たような事をしてたでしょう、と言われて詰まる。
……だって面白いんだもん。
「まあ一目惚れは冗談にしても。……ずっと、狙ってはいたんですよね」
あの森、迷い子が出るって有名でしょう? 上手くいけば拾えるんじゃないかと思ってたんですよ。
そう続けるのを聞いて顔をしかめた。
「つまり何? 飼い主になってもらう為に、迷い子探してたってワケ?」
「ええそうです」
あの森っていうのは転移前に居たあの子を拾ったところで、この大陸一の巨大な森。
正式名称は国ごとに違うが、通称はどこでも同じで”惑いの森”と呼ばれている。
理由は森の中に頻繁に霧が発生して碌に視界が効かない上に、中の土地自体が頻繁に入れ替わるから。
一度迷い込めば、大概の人間は出てこられなくなるから惑いの森。
土地の入れ替わりに伴う地殻変動も多くて動物にとっても危ない場所と言われている。
オレ達は仕事でしょっちゅう入っていたが、あまり外から人が立ち入る場所じゃなかった。
森についての話はもうひとつ。
ーー迷い子、あるいは惑い子と呼ばれる異世界からの子供は、何故だかあの森から現れるらしい。
「確かに迷い子自体レアだし、迷い子が飼い主になったなんて聞いたことないし? 一生使える話のネタにはなるけどーーそんなことで飼い主決めちゃうワケ?」
「迷い子なんて短期間で元の世界に戻るのがほとんどです。しばらくの間面倒を見るだけで、飼い猫としての権利が手に入るならお得でしょう?」
「自分の家が持てるってやつ? 今まで宿を転々としたって不便だとか言ったことないじゃん。ーーで、本音は?」
「ーーさぁ、何だと思います?」
あ、コイツこれ以上喋る気ねーな。
生まれてからずっと付き合ってるから、嫌でも分かる。
「それで、どうします? 別に彼女の飼い猫になるのは僕だけでも構わないですよ? ノラ猫のままが良いというなら止める気もありませんし。ああ、もちろん僕たちの家には無期限に居候してもらっても良いですからね」
君に強制するつもりはないので好きに決めてくださいね、と言いながら同じ申請書をもう一枚出し、渡してくる。
ノラ猫のまま、ねえ。
別に今でも実際問題困ってないし、気楽な生活も捨てがたい。
でも……なーんか、あの子とコイツだけで仲良くやってる姿想像したらすっごい腹立つんだけど?
なんだろ、コレ。
正直、なんでこんな気分になるのか自分でも良く分かんないけど。
「……あんな良さげなオモチャ、独り占めとかズルイだろ?」
そう言って壁に刺さったナイフを抜き、指の先を切って血を落とす。
オレは猫だから、面白そうなオモチャはどうやったって目で追っちゃうし。
逃げる素振りをされれば、罠かもしれないと思っても飛びついてしまう。
けどま、ネコってそんなもんだろ?
ーーそれに、どっちを盗られるのもイヤだ。迷い子も兄弟も。
だから。
「どーせちょっとの間だろ? 付き合ってやんよ」
その方が面白そうだしな?
そう言ってニンマリ笑ってやれば、兄弟は少しだけ目を見張ったあと、満足げに笑い返したのだった。
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