4。オーバーキルはやめてください!
なんだか妙な会話を聞いた気もする。
ええと、お城がある方角が西ってとこまでは良いとして。問題はその後。
お城は今日はどっちって、そう言った?
お城が複数あるの?
だとしても、そもそもは西はどっちだって話だったのではなかったか。
そんな日替わりみたいな言い方するのおかしくない?
なんだかまた混乱してきたんだけど……
目の前の猫二匹はこっちを無視して、どうやって街まで行こうかの相談中。
「走って行きゃいいだろ? 大した距離じゃないし、その方が早いって」
「僕らだけならそうでしょうが、この人はあんまり走れなさそうですよ?」
走ろうと提案していた赤猫お兄さんが私の足元をちらっと見て、確かに脱げやすそうな靴だなーと納得した。
アンクルストラップ付きのサンダルだから、意外と脱げないんだけど。
でもここから再度の長距離走は遠慮したいので、大人しく黙っておく。
「うーん、じゃあ担いで走る!」
ーーえ、まさかの荷物扱い?!
「あの、普通に歩いて行ってはダメでしょうか? 担がれた状態で走られたら、酔ってしまいそうなので……」
それ以前に羞恥心とか乙女の色々に大ダメージを受ける。
一応それなりに気にするお年頃なのだ。自分で言うなって気もするけど。
「昼間ならそれでも良いですが、もう夕方です。歩いていては間に合いません」
「夜の森はそれなりに危険なの! 野犬とかに襲われたかねえだろ?」
結局、二人揃って却下された。
というか野犬とか出るのこの森?!
コテージが建ってるくらいだから、安全な場所だと思ってたわ。
確かにもう夕方なら、歩いていたら暗くなる前に街に着けないかもーーん、夕方?
ぱっと上を見上げると、少しだけ切れた枝の隙間からほんのりオレンジ色の空が見えた。
え、なんでもう夕方なの?! コテージを出たのは早朝だったのに!
半日丸々森の中だってこと?
まさか休憩のつもりで少し腰を下ろした時に、うっかり寝てしまっていた?!
いくら安全と思っていたからって森の中で熟睡するなんて、なんて迂闊な…とまた頭を抱えてしまう。
「んー、まあ酔って吐かれても困るしな。どうするよ?」
「……仕方ありませんね。転移しましょう」
「げ、それめっちゃ疲れるヤツ……」
ーーは?転移? いやいやさすがに聞き間違い……
「僕がこの人と一緒に転移しますので。一人だけ走ってきますか?」
「えー、冷たいー。オレも一緒に行くってば」
……聞き間違いじゃなかった?!
「じゃあ決まりで」
青猫さんがフリーズした私に一歩近づいて、ひょいと抱きかかえる。
肩に担がれるとかではなく、子供を縦抱きするような形で…って密着度高すぎませんか!?
びっくりして腕を思いっきり突っ張ってるのに、ちっとも隙間開かないし。力強すぎ。
離れようとしているのに気づいた青猫さんが眉をぴくりと動かして、ちょっと不機嫌そうに言う。
「途中で落ちたらどうなるか分からないので、ちゃんと首に腕、回してください」
ちょ、やめて。追撃しないで。
これ以上はオーバーキルだから!
さっきのファンタジーな単語にイケメン猫の抱擁なんて事案も追加されたら耐えられないから!
朝から色々イベントが多過ぎじゃないだろうか……頭から煙でも出てきそう。
ああでもほら。ここにいるのは二匹とも猫で。
猫に抱きつかれたからって恥ずかしがらなくて良いのよきっと。
それを恥ずかしがるようなアヤシイ趣味は持ち合わせていないのだから。
私はノーマル、私はノーマル、私は……
「ーーあれ?」
首を傾げた青猫が、ちょっと失礼、と胸に耳をくっつけてーー?!
?!?!?!
なんなのこの状況!?
なんでさっき会ったばかりの猫ーーいや、やっぱり猫扱い無理!!
なんでさっき会ったばかりの男の人に胸に顔を埋められてるの?!?!
「どした?」
「ーーいや、胸の奥からなんか音がするような……」
青の猫耳お兄さんが当たり前のことを言いながら頭を起こし、何故だかとてもびっくりした顔で見詰めてきて。
「……アンタ、ひょっとして『迷い子』ですか」
そんな、当たり前の事を言ってきた。