33。甘い&しょっぱいのコンボは最強です
二階に上がると似たような部屋がいくつも廊下沿いに並んでいた。
開けっ放しのドアを覗くとどれもやけに綺麗に片付いていて、あまり生活感のない部屋ばかり。
なんだか昨日泊まっていた宿に似た感じがするわね。住居スペースとは違うのかしら?
そんななかおじ様に教えてもらった一番奥の部屋だけは、しっかりとドアが閉まっていた。
中からはボソボソと話し声のようなものも聞こえて、ちゃんと人の気配がする。
普通ならノックした方が良いのだけど。
ここで手を空けるためにトレイを片腕に載せたりなんてしたら、立てたばかりのフラグをきっちり回収する羽目になりそうだ。
「マゼンタ、シアン? ここ開けてもらえる?」
ドアの少し手前で声を掛けると、一瞬部屋の中が静かになり。
ほどなくカチャリと鍵の開く音がして、ゆっくりと扉が開いた。
「ーーあ、ソフィア……」
「ええ、ただいま、かしら?」
「ーー帰っていたんですね。……おかえりなさい」
うう、なんだか二人との会話がぎこちない。
今までオマエ、とかアンタって呼び掛けてきてたのに、何故か名前呼びになってる。
全然視線も合わせてくれないし、猫耳もしっぽもしょんぼりと元気がない感じ。
何よりドアを開けた姿勢のまま、どっちともピクリとも動かない。
それ以上は近づいてこようとせず、いつものように腕を拘束してきたり抱きついたりもしてこなかった。
昼まであんなにベタベタくっついてきていたのに、一体何なのよ!
……いや、決してくっついてきて欲しいわけじゃないのだけど。調子が狂うってだけで。
相変わらずフリーズしたままの二匹にさらに声を掛ける。
「とえあえず、中に入っても良いかしら? お茶を淹れてきたの」
夕食はここでご馳走になることになったから、呼ばれるまでオヤツにしましょう? と言ってトレイを軽く持ち上げる。……うん、いい筋トレだわコレ。
「……ポップコーンにクッキーですか。変わった組合わせですね」
「クッキーはマヤさんに貰ったの。ポップコーンもマヤさんのお勧めで、おみやげとして買ってきたのよ」
変わった組合わせってところで「お前が言うな」と言い掛けたけど、なんとか思い留まった。
話は短く、簡潔に。余計なことを言って話が長引くのは良くない。少なくともこのトレイを置くまでは。
いい加減、腕がプルプルしてきてちょっとキツい。
「お、気が利いてるじゃん! ちょうど小腹空いてたんだよなー」
マゼンタがそう言うと、ひょいとトレイを取り上げて持っていった。
ニッと笑って、ありがとなっ! と髪をくしゃくしゃ撫でてくる。
お、ちょっと良い感じじゃない?
少なくともマゼンタの方は調子が戻ってきた気がする。
ほっとして緩む顔を隠しながら、テーブルにお茶をセッティングしていく。
椅子は二脚しかなかったので、マゼンタはベッドに腰掛けるようだ。
「さあどうぞ。あ、ポップコーンは猫用のを買ってきたの。口に合うと良いんだけど」
「? 猫用、ですか?」
「ええ、食べた感じ普通のハーブソルト味だったけど。猫用に塩分でも控えてあるのかしらね」
「へぇ、どれどれー? お、結構うまいじゃん」
「私の方はキャラメルにしたから、良かったらこっちも食べて」
「そうですか、なら遠慮なく頂きます」
ーー良かった、シアンもだいぶ元の雰囲気に戻った気がするわ。
気持ちも少し軽くなって、私もシアンの方からハーブソルト味をもらう。
うん、甘いしょっぱいの組み合わせって手が止まらなくなるわ。魅惑の無限ループよね。
ーー 一瞬ダイエット、って言葉がよぎったが、ここは夢の世界。
きっと食べても太らないハズ!
味覚のある夢って最高だわ!
……うん、でもちょっと控えよう。
万が一、いえ億が一の確率で、ここが夢の中じゃなくて、異世界なんてあり得ない場所だった場合、ダメージが半端ないもの。
リスクへは常に備えておかなくては。
そんな風に意識を飛ばしてる間に、シアンとマゼンタはアイスティーにも口をつけていた。
「うっわー、何コレ! めっちゃスッキリしてるのになんかじわじわクるな!」
「これは美味しいですね……!普通のアイスティーに見えるのに、もっと飲みたくなるような……不思議な味です」
猫の好きなハーブというのは本当だったようで、二匹ともお茶の美味しさにテンションが上がって、すっかり元の感じに戻ってる。やっぱりこうじゃないとね。
元気がない時の美味しい食べ物って、やっぱり最高のクスリだわ。
自分もミルクティーを飲んでほっとしながら、そういえば二人とも何故凹んでいたのかしら? と首を傾げる。
ーーま、いっか。今聞かなくても。
また訊けそうなタイミングで訊けばいいわよね。
折角気分良く過ごしているのだから、水を差すようなマネをしなくてもいいでしょう。
今はゆっくりお茶を楽しみたいもの。
そんな風に疑問を後回しにして、午後の紅茶を味わうのだった。




