31。メニュー変更は不可でした
「ま、なんだ。契約書類のチェックで少し時間も掛かるから、お嬢さんも上で休んできな」
おじ様が私の代わりに椅子に座りながら、そう勧めてくれた。
「そうだわぁ~ソフィアさん! ウチで夕ご飯食べていってね! もう五時前だし、今からご飯に行くのも大変でしょう?」
なんなら泊まっていって頂戴! もっと色々お喋りしたいわぁ~♪ と期待に満ちた目で見つめられた。
とてもありがたいお話だけど、良いのかしら? と逡巡する。
上の二匹にも相談した方がいい気がするけど、返事が遅くなっちゃうのも申し訳ないわね。
ええと、もし断った場合は……ご飯は外で適当な店に入るとして、宿はどうしたらいいだろう。
お家はもう借りられそうだし、すぐにでも使える感じだったから寝るだけなら戻れば良いのだけどーー戻るって、まさかまた転移で?
今が五時前ってことは書類のチェックを待ってる間に夕方になってしまう。歩いていく時間、はないわよね……
……正直、もう転移は勘弁してほしい。日に三回とか、真剣に無理。
「あの。お言葉に甘えて晩ご飯ご馳走になってもいいですか? あとお泊りも……今日はこれ以上転移できる気がしなくて!」
どうかお願いします、と深々と頭を下げた。
マヤさんはそれだけで何か察したのか、ころころと笑いながら、もちろんよ! と頷いてくれた。
「お誘い受けてもらえてとっても嬉しいわっ! 腕によりをかけて作るわね! これでも多少はできるのよぅ?」
楽しみにしててね、と本日二度目のウインクを頂いた。
マヤさん料理もできるなんて素敵すぎる……!
尊敬の眼差しで見つめていると横で作業をしていたおじ様が顔を上げた。
「マヤが作ってくれるのは久しぶりだな。何にするんだ?」
「ふっふ~ん、隣国の支店に行ったついでに、市場で色々珍しい食材を仕入れたのっ!」
今晩はそれを使ってピザパーティーよっ! と拳を突き上げるマヤさん。
ーー支店があるんだ……マヤさん凄すぎて何でもありだわ。
「おい……それ大丈夫なやつだろうな?」
「大丈夫に決まっているわ! ピザならお肉もお魚もお野菜もなんだっていけるし、なんならデザートピザって手もあるのよ!」
ピザは万能なんだから! とマヤさんは力説する。
きっとマヤさんの好物はピザなのね。覚えておこう。
メニュー変更は受け付けないわよ! とビシィッと指を突きつけられたおじ様は、やれやれと言った感じで首を振った後、書類をトントンと揃えて引き出しに仕舞い鍵を掛けた。
「この人数分の生地を捏ねるのは大変だろうが……手伝ってやる」
「あら、書類はいいの?」
「生地だけ作ったらそっちもやる。発酵の時間で充分終わらせられるから、気にしなくていい」
ほら、作るんだろう? と言ってさっさと扉を開いて奥の部屋に入っていくリュウおじ様。
呆気に取られてマヤさんの方を見ると、目を大きく開いて喫驚した後ーーへらり、と笑った。
ーーーー!
うっわ……うわぁ~!
なに、何なの。二人とも、可愛すぎるわ!!
なんかもう、甘酸っぱいって言うか!
見てるこっちがきゅんきゅんしてしまう。
自分よりもはるかに年上の夫婦に、そんな事を思ってこっそり悶えてしまった。




