23。胸は凶器にもなるようです
行きよりも少し時間が掛かったが、無事に犬の不動産屋さんまで戻ってきた。
ちょっと拗ね気味のマゼンタがさっさとドアを開けて入っていく。
「オッちゃんッ! あの家気に入ったからもう手続き……ってうぉおあ?!」
「きゃあぁーっ! 来たわね!? ひっさしっぶりーーーー!!」
ーーうん。今のは何だろう?
バタンっと閉じたドアの向こうから、何か色々聞こえた気がするけど。
……どうしよう、入りたくないなぁ。
「ねえ、シアン。手続きってマゼンタ一人でもできるかしら?」
「問題ないでしょう。アイツもいい大人ですから」
では僕らは先に服屋を探しましょうか。ええそれ良いわね。と仲良く回れ右をした瞬間ーー
「こんの、オマエらっ! オレの事見捨てて行こうとすんじゃねーーーーッ!!」
ドアがガッと開いて、隙間から伸びたマゼンタの腕に捕まってしまった。
ーーうん、残念。逃げ損ねちゃったみたい。
仕方なく、改めて三人揃って店に入る。
「失礼しま……「いらっしゃいっ!待ってたわぁー!!」
ーーーーぎゅううううぅぅっ!
ふぇっ?え?
……うわわわわっ?! や、柔らかい?!
か、顔が! すごく柔らかいのに弾力があるものに挟み込まれてーーって何これどうなってるの?!
「ちょっと?! ウチの飼い主に何してくれてんの!」
息が苦しくて軽くパニックになっていると、肩がグイッと引かれて救出される。
……た、助かった……。
窒息して死ぬかと思ったわ……。
息を整えて後ろを見ると、どうやらマゼンタが抱きついてきた謎の美女から助けてくれたらしいーーって、え、美女?
え、このお姉さん誰?!
呆気に取られながらも、目の前の女性をもう一度見てみる。
長い黒髪をポニーテールに纏めた長身の大人の女性。
やや切れ長の涼やかな黒目で、こういうの確かアジアンビューティーって言うんだっけ。
一番目を引くのは、私がさっきまで押し付けられていた豊かな胸でーーー
ーーもしかしてとは思ったけど、さっきの窒息の原因ってコレ?!
え、胸ってこんなに大きくなるの?
思わずガン見してしまっていたようで「あら、気になっちゃう?」と声を掛けられてしまった。
うう、気不味い。でも気になるわ。
一体何を食べたらこんなサイズに……
ーーはっ、いけない。なんてこと。
こんなの同性とはいえセクハラだわ!
「あの、ジロジロ見ちゃってすみません……」
「はあ?! なんでオマエが謝ってんだよ!」
「あら、良いのよ♪ 気に入ったならもう一回埋まってみる?」
……胸って埋まるものだったのか。
ちょっと色々と考えてしまう案件だ。
少しだけ自分の胸あたりを見た後、思わず遠い目をしてしまう。
意識が半分ほど遠くにお出掛けしてしまった私を背中に隠し、シアンが美女を睨みつける。
「さっさと離れてください。アンタの胸は凶器と変わらないんですから、彼女には接触禁止です」
「まっ、相変わらず生意気な猫たちねぇ。可愛い女の子は世の中の共有財産なのよ? アンタ達だけのものじゃないわ!」
だからこっちにも貸しなさい! と続いて唖然とする。
いえ、あの。人を物のように言うのはどうかとーー
「違うだろ?! オレらの飼い主なんだからオレらのモンだよっ」
ーーいや、アンタらのものでもないからね?!
本人の意向はまるっと無視して訳のわからない主張を繰り広げる一人と二匹に、さっきから頭痛が止まらない。
もう私先に帰ってて良いかな?
ああでも、帰る家を確保しに来たんだった。
ーーえ、じゃあコレ何とかしないといけないの? まさか私が?
……そんな無茶な。
お願いします、誰でもいいから助けてください! 私じゃ手に負えません!!
「ーーいい加減やめとけ。嬢ちゃんに思いっきり引かれてるじゃねえか」
「キャっ」
?!
「不動産屋のおじさん!」
ーーひょっとして犬が救世主?!




