15。犬も仕事はするそうです
結局チャームは取り替えることなく店を出た。
この後はこのまま歩いて不動産屋まで行く予定らしい。
ちなみに、両手はまたガッチリとホールドされている。
はぁ……全然信用されてないわね。
道中はさっきの私のネガティブ発言のせいで気不味い雰囲気になるかと思いきや、ご機嫌な猫二匹に挟まれてそんなことにもならなくて、正直助かった。
二人とも鼻歌でも歌い出しそうな表情で、なんなら喉までゴロゴロ鳴っている……って、そんな所までマネできるんだ。芸が細かい。
やっぱり本当に猫なのかな? 夢だからそれもあり得るわね。
……ちょっと聞いてみようかしら。
私から彼らへのスタンスを決める上で、二人、いや二匹は結局ヒトなのか猫なのか。そこは重要なポイントだ。
ここらでハッキリさせておきたい。
「ねぇ、前も聞いたかもなんだけど……あなた達って、結局人間なの? 猫なの?」
「え、見てわかんねーの」
「……分からないから聞いてるのよ」
私だって、こんな事で悩む日が来るなんて思いもしなかった。
猫耳つきの仮装お兄さんなのか、それとも人語を喋るヒト型の猫なのか。
どっちも大概だが、まだ後者の方がマシーー
ーーマシ、かな?……ちょっと自信なくなってきた。
「マジかー。やっぱ迷い子の感覚って違うんだなー。……猫だよ、オレら」
何回も言ったと思うけどなーとつぶやかれる。
……そっか。ネコ、なんだ。
部分部分のパーツは確かに猫だけど……
「えぇ、猫ですね」
……疑いの目で見ていたら、もう一回言われた。
うん、これは夢だ。しかも自分が見ている夢だ。
これ以上設定に文句を言ってはいけない。なぜなら自分が凹むから。
「ーーじゃあ、今の女の人が連れていたのは犬なのね?」
たった今すれ違ったカップルを目線でだけ示して尋ねる。
男性の方は、厚みのあるしっかりした耳に、ふっさふさのしっぽが付いていた。
首には毛並みと同じ黒の首輪。
「そうですね、ちょっと遅い朝の散歩中ってとこじゃないですかね」
あんな仲良さげに恋人繋ぎとかしちゃってても、散歩なんだ。
デートにしか見えないけど。
「大体飼われてんのは犬か猫が多いな。たまーにウサギもいるけど」
じゃあ可愛いウサギ耳のついた、見た目成人男性のウサギに会うこともあるのか。
それも結構微妙な気分になりそうだと呟けば、ウサギは室内からあまり出ないから会う事はレアなんだそうで。
「こうやって街中で見るのは犬が多いでしょうね、アイツらは飼い主にべったりなので」
「猫は飼われてても一人で勝手にやってるのが多いしなー。明るい内は木の上で昼寝してるとかな」
「そうなんだ。それにしても、意外と動物は少ないのね?」
歩いていても、見かけるのは大抵は普通の人だった。
「朝夕は散歩してる犬も居るんだけど、もう昼近くだからなー。広場の方とか行けば、ガキ共が遊んでんじゃね?」
「人間もそうですが、平日昼間は野良連中も大抵仕事ですからね」
ーー動物が仕事してるの?!
驚いた顔をしたら、食べてくためには仕事ぐらいするだろ、と呆れられた。
……変なところ現実的な夢よね。私のせいかしら。
夢の中ぐらい、もっと夢らしくおとぎの国でもいいのに。
例えばベーシックインカムで働かなくてもみんな最低限食べてはいけるとか……だめだ、思いっきり現実に寄ってしまう。
やっぱり私の夢じゃ、夢の国みたいにならないわ。
猫が喋るだけ頑張った方なのかも。
そんなことをつらつら考えているうちに「着きましたよ」と声が掛けられた。
店の前で、両手も無事に自由になる。
カランカランとドアベルを鳴らしながら店内に入ると、目に飛び込むのは壁に所狭しと貼られた間取り図。
棚や机の上にはぶ厚いファイルが何冊も積まれていて、なんだかイメージ通りの不動産屋さん。
……ベタだわ。やっぱり、私の想像力って悲しいくらい普通なのね。
「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
奥の扉から渋い声が響いたと思ったら、ロマンスグレーの髪を撫でつけた壮年のーー犬が出てきた。
うん、えっと。犬ってことよね。
頭の上に生えているの、犬耳だものね。
犬の不動産屋さん…犬のお巡りさん的なノリで、不動産屋さんが犬……。
え、コレも私の想像なの?
私の深層心理ってどうなってるの??




