132。事前検討は大切です!
「ああもうーーどうしろって言うのよ? 大体デートって何すればいいの!?」
私は机に突っ伏して呻いていた。
「悩むのは勝手だけどさ、別の場所でやってくれないかな?」
正確に言えば、『書庫のクレイの休憩室で』机に突っ伏していた。
むかいには差し入れのマドレーヌを齧りながら冷たい目で見下してくるクレイ。
「良いじゃない、部屋くらい貸してくれたって」
「お前、だんだん厚かましくなってきたよね」
「場所代はちゃんと払ったでしょ? あとそれ相談料も込みだから」
「聞いてないんだけど」
「今言ったのよ。ダメなら帰るわ」
これは回収していくけど、と持ち上げたのは焼き菓子がたっぷり詰まったバスケット。
中身はお城の厨房で用意してもらったクッキーにフィナンシェにパウンドケーキなどなど。味は折り紙つきだ。
結局「大したアドバイスはできないと思うけど」と言いつつ、不承不承クレイは頷いてくれた。その手には二個目のマドレーヌ。
うん。それ、レモンの皮入りで美味しいわよね。食べ逃すって選択肢はないよね。
目の前のお菓子の山を順調に減らしつつ、クレイは結構真面目に話に付き合ってくれる。
「そんな難しく考えずにさ、普通に友達と遊ぶようなプランでいいんじゃない?」
「なるほど、確かに友達と遊ぶって思えば何か思いつくかも!」
ええと、元の世界での定番ならーー
映画、カラオケ、ボーリング、ゲームセンター、遊園地、動物園、水族館。
うん、見事にどれも存在していないわね。
「ダメだわ……この世界だと普通はどうするのかしら」
「それボクに聞いてる?」
「ええ、友達くらいいるでしょ?」
「ーーいないって言ったら?」
「ごめんなさい、私が悪かったわ」
そういえばこのウサギさんは極度の引きこもりだった。
「初回のデートのプランニングなんて男の方にやらせりゃ良いのに。もうさ、相手に丸投げしたら?」
「でも大体、デートの初めに『どこか行きたいところある?』って聞かれるじゃない。それに『なんでも良いわ』って返しちゃダメなんでしょ?」
「そういう余計な知識だけはあるわけだ。デートしたこともないのに詳しいね」
「……クレイだってないくせに」
「ボクはそれで困ってないから」
真顔で返されて撃沈した。
クレイはため息をついていたが、一応アドバイスは続けてくれる。
「なら、普通に好きな場所を適当にふらふら回ってみるのは?」
「こっちで好きな場所とか思いつかない。知ってる場所もあんまりないし」
「もうこっち来てから三週間以上経ってるのに、何してたのさ」
「ーーほとんど書庫で本読んでたわ」
あとは最低限必要な買い出しと家事と、空いた時間で女友達とお茶をしていたけど。
こうして考えると私も引きこもりだわね。クレイのこと言えないわ。
「じゃあもう割り切って自分が好きなことにつきあってもらえば? 場所は向こうに考えてもらうで」
「本屋で新刊を物色するとか、カフェでまったりお茶とか? ーーでもそれって相手が退屈するでしょう?」
「ボクはその辺なら悪くないと思うけど」
「……じゃあもうクレイが私とデートする?」
「絶対しない」
「うん、そうよね。知ってた」
目の前の垂れ耳ウサギの好みは結構把握しているのに、自分の飼い猫のことはあまり知らない。
食事を作る都合上食べ物の好き嫌いは分かっているのだけど、好きなこととかさっぱりだ。
あ、ならもうその辺のリサーチから始めてみるのが良いかも?
「いいわ、もう明日のデートは予行演習ってことにする!」
「ーーは? いや、予行演習って」
「それで本人達の好みをちゃんと把握して、次回の本番のデートでちゃんと向こうが満足できるプランを提示するわ」
なんだかクレイが呆れ返った目で見ている気がするけど、こうしてはいられない。
「お邪魔してごめんねクレイ! 私ちょっと二人と事前交渉してくるわ!」
そう言い残して私は休憩室を出て行った。




