131。デェトのすすめ
お姉ちゃんの人生はお姉ちゃんのものだ。
だからお姉ちゃんの時間を私にばかり遣わなくていい。
「ーーそのセリフを言いたくて、結構色々と頑張ったの。学業面で心配掛けないように勉強だって頑張ったし、家事スキルも上げて家のことは何でもできるようにした。でも聞いてもらえなかったわ。物理的に離れれば変わるかと思ってしばらく留学して家を出てみたけど、戻ったら何も変わっていなかった」
相変わらずお姉ちゃんの一番は私で、生活の中心は私の世話をすること。
私が世間的にも自立しているとみなされる年齢になれば、お姉ちゃんも自分を優先するようになるのかもしれない。
ーーでも、それじゃ遅いのだ。お姉ちゃんは私よりも十歳も年上なんだから。
今が一番仕事に恋にと楽しんで良い時なはずなのに、そんな貴重な時間をこれ以上浪費させちゃいけないのよ……!
お姉ちゃんのことは大好きだし、私のことを大事にしてもらえるのは嬉しい。ただ、私はお姉ちゃんにも自分を大事にしてほしい。
贅沢な悩みなのは重々承知だけど、このままじゃお姉ちゃんは自分の人生を生きられないと思ったから。
「だから荒っぽい方法にはなるけれど、逆に姉離れ、妹離れのチャンスじゃないかと思ったのよね」
「でもぉ、お姉さん立ち直れないくらい哀しんじゃうんじゃなぁい?」
「直接は会えなくなっても、これから来るだろう迷い子に手紙でも託せば良いかなって。それに時間が解決してくれるわ。このあとあの二人が恋人同士になれば、お兄さんがお姉ちゃんのこと、きっと支えてくれるし」
たとえ親を亡くしても、十年も経てば喪失感とはそれなりに折り合いをつけられる。というか、つけるしかないのだ。
まして死んでいないとなればどこかで諦めもつくだろう。
ーーと思ったのだけど。
「でも、さっきのはナシ! 犠牲とか冗談じゃないもの。残ろうとして周りに迷惑が掛かるなら、普通に元の世界に帰ってから出奔することにするっ!!」
そう力一杯宣言すると、マヤさんとエリザはものすごく微妙な顔でため息をついた。
「……なんというか、お主も大概極端じゃの」
「うるさいわね、それくらいじゃないとお城で女王様と平気な顔してお茶なんてできないわよ」
ニヤリと笑ってから手元の冷めてしまった紅茶を飲み干す。
苦味が舌と喉に残り、頭が少しクリアになった気がした。
うん、そうよ。逃げるにしても帰ってからにすればいいわ。
迷い込んだ先の世界の人まで巻き込むのはいくらなんでもナシだろう。
「あー、自己完結してスッキリしておるところに悪いが、さっきのは言葉のアヤというやつなのじゃ」
「そうね、巻き込まれる方にとってはむしろご褒美なんじゃないかしらねぇ?」
「ーーはい? ご褒美ですって?」
迷惑をかけられるのが?
「そうじゃ! あの猫どもならむしろ喜んで巻き込まれると思うぞ?」
「え、巻き込まれるのってマゼンタとシアンなの?」
「うふふ、そこはもう確定なのよねぇ~」
「……ごめんなさい、全く話が見えないわ」
迷惑をかけることになるのはマゼンタとシアンで、でも巻き込まれた二匹にとってはそれがご褒美?
これっぽっちも想像がつかないのだけど……。
「今は分からんで良い。まずは、そうじゃなーーソフィア、お主あの猫どもとそれぞれデェトしてこい!」
「あら、良いわねそれ!」
……は?
ーーどうしてそういう話になるの?!?!




