129。意外だったそうです
二人はたっぷり三秒ほど見つめ合ってから、恐る恐るといった感じでこちらを向いてきた。
うーん、何だろ。そんなにマズいことを聞いたんだろうか。
困らせたかったわけじゃないから、無理に答えてもらわなくてもいいんだけどな。
「あー、その。ごめんなさい、言えないことなら別にいいの! ただちょっと興味があっただけで……」
「いや、構わぬ。じゃがその……ソフィアは帰りたがっておったじゃろ?」
「そうよねぇ。確か元の世界に仲の良いお姉ちゃんがいて、帰らないと心配をかけてしまうから早く戻りたいって言ってたものねぇ~」
それがどうしてーーとマヤさんが不思議そうな顔で首を傾げた。
「……ひょっとして、こっちで誰か良い人でもできたの!?」
「ーーへ?」
「なにっ!? それは真かソフィア!」
え、え、え?! 何で二人ともそんな目をキラキラさせているの?
「もしかしてーーシアンかマゼンタ?」
「そうかっ! あの猫たちついにソフィアをその気に……!」
「ちょっ、違うからっ! 勘違いよそれ!!」
嬉しそうに暴走し始めてしまった二人の口を、今度は私が必死に塞ぐ。
もう、これじゃさっきのエリザのことを笑えないわ。
「だーかーらっ! 本当に純粋に興味があっただけです! 元の世界に戻りたくないとかそういうことじゃないから!!」
「でもでも、二つの世界を天秤に掛けるくらいにはこの世界のことも気に入ったってことよね~? それってすごく嬉しいわっ!」
「これは今宵は宴じゃな! メイドたちに秘蔵のワインを用意させよう!」
「さっすがエリザベス! じゃあアタシはチーズの盛り合わせを準備するわね~!」
うわあ、盛り上がりすぎちゃって全然止まる気配がないわ。
とはいえ勝手に話を進められるのも困るし、祝い事もないのに宴会なんかやったら税金の無駄遣いだ。それはダメ。
私は咳払いを一つしてからエリザの肩をガシッと掴んだ。
「うおっ!? ど、どうしたのじゃソフィア」
「楽しそうにしているところ悪いけど、そんな事実はないからね」
「え、じゃが……」
「な・い・か・ら! ーーそれで、結局質問の答えは? 聞いてマズいものじゃなければ聞かせてほしいわ」
エリザの瞳に映っている私は、結構目が据わっていたと思う。
浮かれていた二人はピャッと飛び跳ねた後、居住まいを正した。
「う、うむ。その話がまだであったな。ーー残念じゃが、おそらく迷い子が自分の意志で残ることはできん。わらわの知る限りそのような方法はないのじゃ」
「ーーそう」
予想はしていた。クレイにだってそう言われていたし。
書庫の記録にもエリザの記憶にもないのであれば、順当に考えて無理なんだろう。
黙っている私をチラリと見てから、エリザは話を続けた。
「ほとんどの迷い子らは元の世界に帰りたがるーーが、中には帰りたくないと、この世界に残りたいと言うたものもいたそうじゃ」
「……その子たちはどうなったの?」
「普通に帰っていったよ。まあ最初から帰りたがっていた者達より、かなり長く留まる傾向にはあったがな」
ああ、やっぱり聞いていた通りだ。
まあ目の前の人間に平気でキライだと言う正直者のウサギさんが、わざわざ嘘をつくわけもないよね。
ーー聞きたかったことは教えてもらえたし、今日はマヤさんにまで時間を取らせている。
もうこれで充分だ。
「ありがとうエリザ、おかげでスッキリしたわ。それじゃ私、そろそろお暇してーー」
「ーーじゃがソフィア、お主の場合には可能性がある。ただし周りを巻き込む方法じゃ……それでも残りたいか?」
私を見返したエリザはいつもの揶揄うような口調を改め、とても大人びた声でそう言った。




