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123。やっぱり迷い子なせいでした

「まあ端的に言えば、やはりあなたが迷い子なせいですね」


その言葉にひゅっと息を止め、私はシーツから半分だけ顔を出してシアンを見た。



「ふふ、やっと出てきてくれましたね。可愛いと褒めただけなのにそんな照れないでくださいよ」

「照れたんじゃない、身の危険を感じただけ! 大体ヒトの顔見て笑ったでしょ?!」


真っ赤になってた自覚はあるが、何も笑わなくてもいいのに!


「ああ、それで拗ねたんですか? まあそんなあなたも可愛いですけど」

「だから可愛くないって!」

「可愛いですよ」


懲りずに“可愛い”と繰り返しながら、シアンは今度はからかう風ではなくにっこり笑った。



うーん。この猫さん、耳だけじゃなくて目まで痛めちゃったんだろうか。


美形に可愛いを連呼されるなんて、逆に自分がペット枠に入れられた気分だ。



「はあ、もういいわ。それよりさっきの話。私が迷い子だから認識阻害がうまくいかなかったってどういうことなの? 今まで転移魔法も洗浄魔法も、迷い子だから掛からないなんてことなかったのに……」

「正確に言えば掛かるけれども解けてしまう、ということのようです。声を出してしまうと認識阻害の効果がなくなるのはご存知ですよね」


それは最初にエリザに説明されたから分かってる。でも脱走中、私は一切声を出さなかったはずなのに。


「今回検証して分かったことですが、声でなくても術者の体内から出た音によって効果が消えたり、弱まったりするようですね。そしてーー」


シアンが私の左胸を指さした。


「迷い子はそこから音を出しているでしょう? それによって効果が薄れたみたいですね」

「心音のせいってこと? でもそれなら最初から」

「ええ、ずっと鳴っていますよね。けれど常に安定して、同じように鳴っているわけではないでしょう。さっきも最初のうち、つまり平静時は完璧に認識阻害は掛かっていたのに、途中から効果が薄れていきました」


検証のために色々触らせてもらいましたが、狙い通りドキドキして頂けたようですね? とかなんとか訊かれたが、もちろん黙秘だ。

墓穴を掘る趣味はない。



「ーーつまり、動悸が激しくなったのが原因なのね」


確かにあの夜は地下牢から逃げてから緊張しっぱなしで、心臓どころか体全体がドクドク脈打っている感じだった。


「まあでも、効果が減るといってもわずかなものです。僕とマゼンタがかろうじて気配を追えるくらいでしたし」

「猫は気配に敏感だからってこと?」

「かもしれません。こちらの人間でも多少は血の流れる音や関節を動かす音はするわけなので、そう簡単には解けなくなっているんじゃないでしょうか。ーーなんにせよあなたに欠陥品を渡した女王には、それなりに責任を取ってもらわないとですよね?」


クレームを入れる気満々で「お詫びに何を強請(ゆす)ってやろうか」とまで言い出したシアンを慌てて止める。


「ちょっと! 変に文句とか言わないでよ?! 元々エリザの好意で貰ったものなんだし、実際おかげで助かったんだから」

「そうですか? 折角だから無理難題でも言ってやれば良いと思いますがーーまあ、あなたがそうしたいなら」



まだ少し不満そうな顔をしつつも了承してくれたシアンに「ありがとう」と笑いかける。


こっちにそういう習慣があるかは分からないけれど、ベッドの上で正座をして頭を下げた。



「あと、あの夜のことも。助けてくれてーー助けに来てくれてありがとう」

「僕がそうしたくてやったんですから、お礼の言葉なんて良いんです。でもそうですね……ご褒美は欲しいかな?」


ーー嫌な予感がして、頬がヒクリ、と引き攣る。



「……今度は口にキスしろ、なんて言わないわよね?」

「さすがに大事な初めてをお礼として頂くのは自重しますよ。そうですね、さっきの続きで、抱きしめてもいいですか?」


そう言って返事を聞く前にシアンはベッドに腰掛け、私の方に腕を伸ばしてきた。


「え、ええと……ハグだけならまあ……?」

「あと、忘れずに認識阻害も掛けてくださいね」

「んん? ーーそこも再現するの?」


見えてない相手を抱きしめるって、むしろ落ち着かない気がするんだけど。



一体何のためにと頭の中にはてなマークが浮かぶが、催促されて姿を消してみせるとシアンが嬉しそうに抱きしめてきた。


そのまま見えていないはずの私の顔に頬ずりをしながら、うっとりとした声でつぶやきを落とす。


「こうやって見えてないのに感触だけがしっかりあるというのも変な感じですが、悪くないですね。閨で触れ合うとこんな感じなんでしょうか」



ーーそのあとシアンを全力で突き飛ばしたのは言うまでもない。

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