121。そこ残念がらないでください!
おじ様が退席してしまったので、仕方なくドSだと判明した飼い猫と目を合わせる。
シアンがどこまで本気なのかは読めないが、こういうのは最初が肝心と言うし。
きっぱりはっきりとお断りしておかないと!
「ごめんなさい、シアン。私虐められて喜ぶ趣味はないからそういうのは勘弁して」
「え、そうなんですか? 僕はてっきりソフィーはMの人なのかとーー」
「違うから! 思いっきり誤解だから!」
痛いのはどうやっても痛いし、泣かされて嬉しいとも思えない。
そーゆーのが気持ち良いなんて感覚は断じて持ち合わせてないからホントやめてくださいお願いします!
そう言ってさっきまでとは違う意味で頭を下げれば、シアンが心底残念そうな顔をした。
「そうですか、それは残念です……。もし目覚めたら言ってくださいね? あなたを苛める役目を誰かに譲りたくはないので」
「目覚めないし、そんなとこで居もしない誰かと張り合わなくていいからね?! ーーそれより、任務って?」
名残惜しそうに手首の痕をなぞられるのから逃げながら、必死で別の話に持っていく。
「女王から依頼された潜入捜査ですよ。まあ元々は城飼いの猫が動いていたのを、飛び入りで代わったんですが」
シアンはまだ触りたそうな目線を送りながらも、説明はきちんとしてくれた。
オルトさんが話していた通り、今回の誘拐犯達は人質の移送用に届け物屋をある組織から借りたらしい。
そこは古くから存在する裏組織で、貧困街から子供を拐い奴隷として堕とした上で才能のある一部の子供は暗殺者や届け物屋に仕立てて貸し出していたーーつい最近までは。
数ヶ月前、他ならぬチートな女王様によって組織は壊滅させられていた。
ただし所属していた奴隷はそっくり城勤めの者に入れ替えた上で表向きは組織が存続しているように見せかけ、依頼をしてくる側の後ろ暗い人間も芋づる式に潰していたらしい。
「今回は少し巻き込まれた人も多い上に後ろにモーリタリア共和国が付いてると分かったので、念のため代わってほしいと頼まれまして。まあ僕の方も女王に少しお願いがあったので引き受けたんですよ」
「そうだったの……ひょっとしてマゼンタもその依頼を受けてた?」
「そうです。あちらの方が先に潜っていたようですけどね」
マゼンタがこの仕事を引き受けていた理由はシアンも知らないという。
「……もしかして、もう一匹いたサビ猫はマゼンタ?」
「正解です。やはりソフィーは聡いですね」
「? とりあえず事情は大体分かったわ。あと分からないのはコレなんだけど……」
そう言って首元からペンダントを取り出す。
「この魔道具で認識阻害を掛けたのに、不完全だったみたいなの。犯人にも他の人質にも見つからなかったのに、結局あなたとマゼンタには見つかってしまったし」
エリザは魔道具作りの天才だというから、このペンダントが壊れていたとは考えにくい。
使い方が拙かったのだろうか。それともやっぱり私が迷い子なせい?
何か分からないかと訊けば、シアンは少しだけ考える素振りを見せた。




