120。猫は大体いじめっ子です
「いくらアンタでも、僕の飼い主に馴れ馴れしく触られると撃っちゃいますよ?」
トンと床を踏む音と同時にカチリと不穏な音が聞こえた。
ハッと顔を上げれば目の前に座るおじ様の頭頂部に、鈍く光る小型の銃が突きつけられている。
しかも突きつけている側の人物は自分の飼い猫だった。
「ーー!? ちょっ、シアン! 何してるの?!」
「ああソフィー! 目が覚めたんですね、本当に良かった!!」
「良かった、じゃないわよっ! 少しはこっちの話を聞けーーッ!!」
全く会話が噛み合わないのに痺れを切らし、直接シアンの手を取って銃を下げさせる。
おじ様は大して驚く様子もなかったが、少しだけ呆れた顔でシアンに声を掛けた。
「お前な……嬢ちゃんの目の前で銃突きつけるとかいいのかよ? ただでさえ事件に巻き込まれた後で精神的に不安定になってるかも知れねーってのに」
「大丈夫ですよ、ソフィーは強いんです。誘拐犯の前でも臆することなく、僕を庇ってくれたんですよ? あれには本当に感動しました……!」
「ーーかばった? 私があなたを?」
一体なんの話と言いかけたところで、シアンの片側の耳の根本がガーゼで覆われているのが目に入る。
……怪我をしている? 城で別れた後に、シアンも何か危ない目に遭ったのだろうか。
私が凝視しているのに気づいたシアンが、「ああ、もうこれ大したことないんですよ?」と言いながらガーゼを外した。
下から現れたのは、根本に長く走る赤い筋と縫った糸。
まだ腫れて痛々しいそれを見て、ひょっとしてと思い当たった私は恐る恐るシアンに尋ねる。
「あの、シアン……違うかもしれないけど……犯人側にいた黒猫のお姉さんって」
「僕ですね」
「ーー! ごめんなさいっ!」
私は言葉と共にガバッと頭を下げたが、シアンはなんで謝るんですか? と不思議そうにするばかりだった。
「だって私が変に突っ掛かったりせずに最初から大人しく犯人について行けば……シアンが切られることもなかったのに」
そう言ってもう一度頭を下げたのだが、シアンはうっとりとした顔で嬉しそうに笑った。
「ええ、あの時のソフィーは最高に可愛かったですよ」
「ーーはえ?」
可愛い? いやせめてそこはカッコいいじゃないのか。
どこに可愛いの要素が?
「声を震わせながらも必死に犯人に言い募るところも、僕が切られたのを見て青褪める顔も、足の震えのせいで何度も転びそうになりながらフラフラ歩く様子も。全部が可愛すぎて、思わず任務を忘れて家に連れて帰りそうになりました」
できればそのまま部屋に連れ込んで僕の手で泣かせたかったですね、と柔かに笑うシアンに少しーーいやかなり背筋が寒くなった。
助けを求めておじ様をちらりと見上げたが「また銃で脅されても困るから」と取り合ってくれず。
それどころか「軽く食べるもん作ってきてやるよ」という言葉と共に、部屋を出て行ってしまう。
おじ様、逃げましたね? 親切のフリして逃げましたよね?!
あとでマヤさんに言いつけてやる!
シアンはシアンで「空気の読める犬で助かります」とさらにご機嫌になってるし!
飼い猫に嗜虐癖があったなんて聞いてない!




