115。最後の最後で捕まりました
「やっと見つけた……騒ぐなよ?」
ハスキーな声でそう言われ、誰ともしれない胸に顔を押し付けられたがーーこの固さは男の胸よね。
今の流れで全く無関係の人なわけないから、犯人グループの一人なのだろうが……こんな男いた?
私は身動ぎをしてなんとか男の腕の中から出ようとしたのだが、力の差は歴然で視界は相変わらず塞がれたまま。
けれど逃げようと必死に抵抗する私の顔や首筋を、とてもふわふわとした何かがなだめるように撫でてくるのを感じ、不審に思って動きを止めた。
なんていうか、筆みたいにくすぐったいけどもっと柔らかくて……
……動物の、というか猫の、しっぽ?
ということは、犯人側にもう一匹いた届け物屋の猫よね?
てっきり残りの人質の転移に回されて、こっちには来ないと思ったのだけどーー
ーーあれ……なんかオカシクない?
大体、なんでこっちの猫に見つかるのよ。
そもそもが地下牢から外に出た時点で認識阻害の魔道具は発動させていたんだから、地下牢に入る前に会っている例の男と黒猫さん以外に私の顔は割れていないはずだ。
脱走した時も外に居た見張りの前から問題なく逃げられたんだから、魔道具はちゃんと機能しているはず。
今だって声は出していないから認識阻害効果は切れていない。
見えていないはずなのに、なんで私のことがバレたんだろう?
こんなにさっくり見つかってしまったことが信じられない。
ーーそれに、見つかってしまったのに何もされずに抱きしめられているだけ、というのがまた信じられない。
さっきから犯人の男の声がしているのは知っているだろうに、引き渡しに行こうともしないし。
こっちの猫も実は黒猫さんと同じで、私を捕まえる気がないとかだろうか。
考えれば考えるほど意味が分からず訝しんでいれば突っ張っていた腕の力が弱まってしまい、ますます強く抱き竦められてしまう。
……っていうか、いい加減ホントに離してくれないかなこの猫。
男の力で締め上げられたら普通に息苦しいんですけど?!
なんとか離れようともう一度胸をぐっと押そうとして、ハタと手を止めた。
ーー確かもう一匹の方の猫はサビ柄だったわよね……?
サビ猫は三毛猫の一種だ。そして、三毛猫のオスはほとんど居ない。
ならこの猫はなんなの……?
混乱した頭のまま、私は確認するように目の前の胸をペタペタ触ってみた。
ーーやっぱり女性の胸じゃないし結構筋肉もついている気がするし……あれ、これ腹筋も割れてるんじゃ……
「くっ……ふふっ、あーもうダメ! フィアって結構大胆だよなー。こんな外で触ってくるなんてさ?」
そんなにオレの身体って魅力的だった? と揶揄うような声に、バッと顔を上げる。
い、今私のことをフィアってーーじゃあこの猫はーー
「……マゼンタ、なの……?」
「大正~解ーッ! 景品はオレでどう?」
すっごく役に立つしお買い得だよ? こうやって飼い主のピンチにもしっかり駆けつけるしさ!
そんな言葉とともにこぶしひとつ分だけ体を離されたので、改めて目の前の相手をまじまじと見つめる。
「……ま、こんな状況でそんなふざけたことをいう猫はアンタくらいよね……」
そこに立っていたのは、ニヤニヤと不敵な顔で笑うマゼンタカラーの猫だった。




