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112★ それぞれの夜

場面がころころ変わります。

城に着いたマヤは門番の胸ぐらを掴み上げて『さっさと女王を呼んでこい』と言い放ったあと、そのまま地面に座り込んだ。


体力はある方だと思っていたが、流石に城まで全速力で走るのはキツかった。


リュウも転移魔法は使えるが、ソフィアのところの猫のように同じ日に何度も連続使用できるわけではないから気軽に送ってもらうわけにもいかない。

元々店があるのは城下町なのだから走った方が早いと思ったのだが、少し自分の歳を考えるべきだったか。


息を整えながら額の汗を乱暴に拭ったマヤは、それでも一切後悔はしていなかった。

一分一秒でも早くここの女王に助けを求めるのがソフィアを助けることになると思っていたから。



ーー結局、このすぐ後に“やらなきゃ良かった”と後悔する羽目になるのだが、そんなことはこの時点では知りようもなかったのである。









一方その頃惑い森の中ーー



「ーー全員集まったな、そろそろ行くか」


囚われていた人々は皆転位陣の内側に集められ、その外を誘拐犯の面子が取り囲んでいた。


「さて、これだけの人質に対して、こっちの国はどう動くだろうな?」

「何人も国の要人や女王のお気に入りを集めたんだーー向こうにもメンツがあるからな、簡単には切り捨てないだろう」

「だよな! あーこれ追加の報奨金も狙えるんじゃねえの?」


人質に銃やナイフを突きつけながらならず者達は機嫌良く口笛まで吹いていたが、そのうち一人がハッとした顔で呟く。


「待てよ……一人足りなくないか?」

「ああん? 足りないって誰がーーいや、最後に連れてきた迷い子のガキが居ないぞ?!」

「はあ? 牢には誰も残ってなかったぜ?」

「いいから探せ! まだこの辺にいるはずだ!」

「んなこと言ったって、他の人質だっているんだぞ!?」


慌てて騒ぎ出した仲間たちを、ソフィアを連れてきた男が舌打ちをして見回した。


「くっ……なら俺と、そこの猫だけで探す。顔を知っているからな。お前らは人質を連れて行けっ!」

「ちょっと待てってーー行っちまったか。仕方ねえな、先にアジトに戻るぞ。オイ、そこの猫。さっさと魔法陣起動しろよ」

「ーー承知しました」


声を掛けられた錆び柄の猫が無表情にひとつ頷くと地面の魔法陣が鈍く光り、全員が小屋の前から消え失せた。









(まだ追ってこないわね……)



胸元のペンダントを握りしめたまま、ソフィアは夜の森を早歩きで移動していた。


両腕を縛っていたロープはオルトにあらかじめギリギリまで切れ目を入れてもらっていたので、とっくに解けている。

腕が自由になるだけで随分バランスが取りやすくなるものだ。

相変わらず暗いので時々つまづきそうにはなるが、来た時と違って転けかけることはない。



(それにしても、本当に気付かれなかったわ)


手を緩め、エリザからもらった魔道具のペンダントをチラリと見る。


認識阻害効果とだけ聞いていたからどこまでどんな効果があるかも分からなかったが、男達の目の前を通っても何の反応もされなかった。

上手くいくのかもの凄く不安だったが、終わってみれば拍子抜けするほどアッサリと逃げられてしまった。


今ソフィアが向かっているのは牢に入れられる前にいた別荘風の家。

オルトが約束を守ってくれたのであれば、そのうちあの場所に助けが来るはずだ。

だからこれからソフィアのやるべき事は、戻って助けを待つこと。



ただ、ここから助けが来るまで逃げ切れるかは別問題だ。


遅かれ早かれ、ソフィアが居ないことは気づかれるだろう。そうなったら追手が掛かる。

流石に全員で追ってくることはないだろうが……。


それに、追手のことがなくても夜の森は危険なのだ。野犬が出ると脅されたのもまだ記憶に新しい。



(確か初日にマゼンタに言われたんだっけ? まああの時は名前がまだなかったわけだけど)


思い出して声を出さずにくすりと笑う。ーーあれから二週間しか経っていないなんて。

たった二週間で、マゼンタともシアンともずいぶん仲良くなったものだ。もう家族といっても良いくらいかもしれない。


(実際飼い猫ってことは家族と同じことだしねーーこんな案に賭けられるくらいには、二人の事を信頼してる)


きっとすぐ助けに来てくれると信じている。だから。


(今は何とかして逃げ切らないとーー!)

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