109。地下牢に入れられました
外はすっかり真夜中といった暗さで、樹々の生い茂る森の中は月明かりすら届いていない。
そんな中を男の持った小さなランタンの明かりのみで進んでいく。
後ろを少し離れて歩く猫のお姉さんは夜目がきくのか迷いのない足取りだが、間の私はさっきからつまづいてばかりだ。
そうやって何度か転びそうになりながら二、三十分ほど歩いたところで、小さな建物に到着した。
さっきオルトさんと別れた家は内側はがらんどうだったものの二階建てのいかにも別荘って感じの小綺麗な建物だったけど、今度のはまさに掘建て小屋。
私でも全力でタックルかませば、崩壊させてしまえるんじゃないだろうか。
……これ……中入って大丈夫なのかしら?
扉開けた瞬間に家に潰されるとか勘弁なんだけど。
そんな心配から家に入る前に立ち止まってしまったのだが、ナイフを押しつけられれば言うことを聞かないわけにもいかず。
壊れませんように、と最大限に気を遣ってそっとドアを開け、小屋の中に入って行った。
見た目通り狭い小屋の中にはボロボロの椅子と机代わりだろうりんご箱、板がむき出しのベッドの上には毛布が一枚だけ。
木こりさんが休憩スペースに使っていそうな室内だが、実際のものなのかそう作られているのかは私には判断がつかない。
ただーーとにかく狭い。狭すぎる。
ここで三人で待つのはちょっと……と思っていたら、お姉さんは外に残った。
「? あの、彼女はーー」
「アレのことは気にしなくていい。それよりお嬢さんはこっちだ」
男が重そうなりんご箱をズルズルと動かすと、ぽっかりと開いた穴が現れた。下に降りられるよう梯子も掛かっている。
どうやらここは作られた方の部屋だったらしい。
促されて降りた先には地上部分の小屋の何倍も広い空間となっていて、小さな灯りでは奥まで照らせないくらい。
ただしその空間の大半を占めるのは、頑丈そうな柵で囲われた牢屋だった。
中にはたくさんの先客ーー十人以上はいるだろうか。
子供こそいないようだが年齢性別問わず多くの人が捕われていた。
「ほら、ここに入っていろ」
押し込まれて、鍵を掛けられる。
「しばらくそこで大人しくしてな」
「しばらくって……いつまでですか」
「ククッ……そんなに待たせねえよ。長くても一、二時間ってとこだ。転移魔法陣の設置が終わって代わりの届け物屋が手配でき次第、この国とはオサラバだ。なに、ここの女王様が要求を呑んでくれりゃあちゃんと解放してやるよ」
ーーうん、間違いなく嘘ね。
この男は最初から顔も隠していないし、さっきから情報を洩らしすぎだ。
エリザとの交渉が終わるまでは大丈夫だろうが、その後ここの人質を無事に返すつもりなんて最初からないんだろう。
人質としてそれ以上の利用価値がなければ始末されるか、あるいは迷い子としてバレている私は高値で売れる処に引き渡されるかもしれない。
……このままモーリアリア共和国に転移されてしまったらおしまいだと分かっているが、私が今できることは何もない。
歯痒いが、ここでできるのは大人しく待つことだけ。
下を向いてそんなことを考えている間に、男は上機嫌に梯子を登って戻っていった。
「ここの空気は最悪だな」とか何とか言っていたから、上の小屋で見張りをするつもりだろう。
一緒に唯一の明かりだったランタンも持っていってしまったから地下牢の中は真っ暗になった。
人がいる気配だけはするのに、隣の人の輪郭すら分からない。
ーーこれはこれで好都合ね。
私は牢の入り口に近い隅に寄り、小さく蹲って息を殺した。
あとは、オルトさんが約束を守ってくれることを信じよう。




