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108。ついて行くしかなさそうです

「ふむ……これくらいなら怖がらせても消えたりしないわけだな。安心したぜ」

「ーーな、何で!? そのヒト仲間なんじゃないの?」



いや、切ったってことは、仲間ではなかったんだろう。

だとしてもーーこっちのお姉さんも、何で黙っているの?


黒猫のお姉さんは斬られた耳を手で押さえて呻き声を上げたが、それ以上何かを言うことなく立っていた。


「いやあ、こいつはウチの組織に雇われているだけだからな。俺らの仲間じゃあないんだわ」

「そんな……雇ってるだけだとしてもいきなり怪我をさせるなんて……」

「君って随分と甘ったるい考え方してるねー。まあ迷い子だし、平和な世界に住んでたみたいだもんね。仕方ないか」



私の言葉に答えたのは目の前の男ではなくオルトさんだった。


同じように悲鳴を上げた妹さんがこれ以上こちらを見ないように抱え込んだまま、器用に肩を竦めてみせた。



「その黒猫のお姉さんの手にアザみたいなのがあるでしょ。それは隣の大陸にある国で使われているウロボロスの紋章だけどーーそうやって目立つ処に入れられているのは奴隷紋なんだ」


確かにお姉さんの右手の甲には、蛇が丸くなって自分の尾を咥えているような紋様が赤く浮き上がっていた。


これは私でも分かる……この盛り上がって引き攣れている皮膚は、火傷痕のケロイドだ。

つまりこの紋章は焼ごてで入れられた所有印ーーなんて残酷な。



「奴隷ばかりを集めて派遣している闇組織があるんだ。多分そこから借りてきたんだろ。ーー多少痛めつけたところで、ペナルティーの金を上乗せすれば済むんだよ」

「おやおや、辺境伯のとこのお坊ちゃんは博識なんだな。大正解だ」


男はニタリと笑って、血に汚れたナイフの刃先を今度はお姉さんの目の上でピタリと止めた。


「ま、そーゆーことで。さて、どうするお嬢さん?」

「ーーッ! ……ついて行けば、いいんですね」



ーー私はお人好しなんかではないと思う、けど。

自分の選択のせいで、目の前で人がいたぶられるのは耐えられない。



「決まりだな。物わかりが良くて助かるよ」


ナイフを下ろした男は柄の方を私の背中に当て、玄関の方に歩かせる。


「ーー転移しないんですか?」

このまま歩いて移動する気だろうか。


「その猫はもう魔力切れだとよ。全く使えない……とりあえず別の場所に移動する。しばらく歩くことになるが、脱走しようとするんじゃないぞ」

「……分かりました」



ちらりとオルトさんを見てみたが、さっさと行けと言うように手を振られた。


この薄情者! とか言ってやりたいところたがこれも取引のためだ。

今私にできるのは大人しくこの男について行くこと。


そうやってまずは、妹さんがここから逃げられるだけの時間は稼がないといけない。


オルトさんの話ではここは普通に王都近くの惑いの森の中らしい。

森といっても浅めの場所だから、街に出るのもそこまで時間は掛からないとのこと。


多少追っ手が掛かったとしても街に出るまでだし、一応オルトさんが強いらしいので何とかできるという話だった。

真偽の程は定かじゃないが、今は信じるしかないだろう。



ため息をひとつ吐いてから、私はノロノロと玄関のドアをくぐって森の中へと入っていった。


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