106。駆け引きをしましょう
「妹さんが……人質?」
「そ、モーリタリア共和国の連中にね。遠乗りに出掛けた先で捕まったんだって。バカだよねー」
バカな子ほど可愛いっていうけど今回はちょっとやり過ぎだよね、と頭を振るオルトさん。
「……妹さんを人質にとられて脅されているのは理解しましたけど……何で私が交換条件に?」
「あ、やっぱそれ気になっちゃう? あの国はこっちを目の敵にしてるから常に付け入る隙を探してるんだけどー。君って陛下の最近一番のお気に入りじゃない。丁度いい交渉材料になると思われたみたいだね」
ーーつまり、私は女王に対しての人質なのか。
だとしても。
「……私はここの国民ですらないわ。しかもいつ戻るかも分からない迷い子なのに、人質にとっても大して意味がないと思いますけど」
「それを決めるのは俺じゃないし、まあ君以外にも沢山集めてるみたいだよ?」
ウチの陛下あれで結構情に厚いところがあるから、確かに有効なカードなんじゃないかなあ、とオルトさんが笑う。
「この後モーリタリアの工作員がここに妹を連れてくることになってるから。迷い子ならいざとなれば元の世界に戻れるんでしょ? だからさ、人助けだと思って大人しく身代わりになってくれるかなー?」
「ーー嫌です」
「あ、やっぱりダメ?」
ダメに決まってるでしょうよ。
いいともー! って言うとでも思ったのか。
妹さんは確かに気の毒だと思うけど、私はオルトさんが言うようなお人好しじゃない。
自分の身が可愛いし、さっきの話だとエリザやこの国の人達にだって迷惑が掛かる。
「うーん、それもそうか。ま、断られようがこのまま引き渡すけどねーー俺は国全部を敵に回すことになっても、自分の妹の方が大事だから」
お、おおう。なんて言うか、清々しいまでのシスコンっぷりですね!
それにしても困ったわ。
ヘラヘラと笑いながらこんなことをのたまう騎士様が、私のことを見逃してくれるとは思えない。
でも、大人しく人質として利用されるなんて絶対嫌だ。
考えろ、考えろ。
オルトさんは人間だから、いくら騎士様でもそこまで転移魔法が得意って訳じゃないと思う。
だったら、きっとここは城からそんなに離れた場所じゃないーーまだブラッドレイ王国の中、それもおそらく王都の近くだ。
何とかこの場所を知らせる方法があれば、助けてもらうのは比較的容易なはず。
ああもう、こんなことなら転移酔い防止のペンダントにGPS機能でも付けてもらえば良かったわ……って、ペンダント?
ペンダントと言えば、この前ひとつ効果を追加してもらったところで……まだ使ったことはないけど、試す価値はある。
でもそれがうまくいったとしても、私一人でうまく逃げ切れる可能性は限りなくゼロだ。
なるべく早く探してもらって、見つけてもらわないと。
ーーだったら、協力者が必要だ。
「……ちなみにオルトさん、罪悪感とか持ってます? それとも悪いことしたなって思ってもいないですか?」
「え、なにその言い方。俺のことそんな人でなしみたいに思ってたの?」
「思ってますよ、騙された身ですし」
「酷っ! そりゃ、申し訳ないとは思ってるよ? 顔見知りの子を巻き込んだわけだし、陛下のことも裏切っちゃったからこの後#辺境伯__ウチ__#の家お取り潰しかもな困ったなーとか」
……明らかに本音は後半部分っぽいけど、まあいいわ。
「そうですか。……さっきの話ですけど、オルトさん次第で大人しく身代わりになってあげても良いですよ」
「え、いいの? なら助かるけどー、本当かな~?」
「ええ。交換の時に逃げようとしたり、ヤケを起こして暴れたりしないって約束してあげます。その後も、お二人が逃げる時間分くらいは人質として大人しくしていてもいいです」
そうじゃないと折角妹さんを返してもらっても逃げ切れない可能性もあるでしょ? と言えば、オルトさんがヘラヘラ笑いを止めた。
ようやくマトモに聞く気になってくれたみたいね。
「ねえ、オルトさんーー私と取引してみませんか?」
絶対損はさせませんよと言って、私はなるべく余裕たっぷりに見えるようにニヤリと笑ってみせた。




