102。騎士様は超優良物件です
待っていた部屋から転位陣まで移動しながら、だんまりも何なのでとオルトさんが軽く自己紹介をしてくれた。
彼はここブラッドレイ王国とモーリタリア共和国との国境付近を任されている辺境伯の家の三男坊らしい。
領地は去年家督を譲られた長兄が運営しており、次兄はそこのお抱えの騎士団長。
両親は隠居したが同じ邸で同居し、年の離れた妹が成人前のため最後の育児を楽しんでいるとのこと。
「辺境伯って、ものすごく偉いお家柄じゃないですか」
確か『伯』とつきながらも侯爵~公爵くらいの権力を持っているんじゃなかったか。
貴族だとは思っていたが、思った以上に高位貴族だった。
「まあ地位は高いのかもしれませんが、私は家を継ぐ訳ではないので。単なる城勤めの騎士でしかありませんよ」
「いや、それでも充分過ぎるほど凄いと思いますけど」
確かマゼンタは城勤めは憧れの的だとか言ってたもの。
エリザは徹底した実力主義で採用していると胸を張っていたから、オルトさんは自分の努力で今の地位を得たんだろう。
偏見入りまくりの主観ではあるけど、正直その辺の貴族よりも何倍もスゴいと思う。
そんな事を言ったら、オルトさんが薄ら頬を染めて「ありがとう」と微笑んだ。
自分より一回りくらい年上っぽい男性の照れている顔が珍しく、ついがっつりと覗き込んでしまうがーーこの人も普通に美形だなぁ。
ここには美男美女しかいないんだろうか。いや、目の保養になってオイシイけど。
オルトさんは明るい茶色の目に同じ色の髪。ちゃんと人間のお兄さん。
背はかなり高いが騎士だけあって鍛えているのだろう、筋肉がガッシリついていて腰に履いた剣も軽々扱えそうなイメージ。
騎士服も手伝ってこれはかなりモテそうだ。
「オルトさんって、モテるでしょう?」
「ええ? 何でいきなりそんな話が出てきたんです?」
「騎士なんて女性憧れの仕事でしかも城勤め、顔も整っていて会話も上手くて家柄もバッチリ。超優良物件だなーって思って?」
「えー、そっかなぁ? なら何で俺モテないんだろ?」
軽い話題の時は合わせて口調もぱっとクダけたものに変えてくれるオルトさん。やっぱりモテそう。
「モテてないわけないと思いますが……単純に出会いが少ないとか? あ、それかオルトさんって人の好意に気づかない系の鈍いヒトだったりします?」
「ひどっ、そんなことないよー! ……あ、門に着いたね」
テンションの高さも相まって楽しく軽口を叩きながら庭園の中歩いていると、あっという間に城門に着いてしまった。
顔馴染みになった門番さんに扉を引いてもらい外に出ると、もう大分薄暗い。
転位陣は徒歩で城門をくぐる人たちの邪魔にならないようにここから城壁に沿って横に逸れた場所にあるが、それでもあと数分で着くだろう。
なまじテンポの良い会話が楽しかったから、少し名残惜しい気さえする。
……やっぱり、オルトさん絶対モテるわ。間違いない。
「あ、もう転位陣が見えてきたのでここでーーってあれ?」
「まだ誰もいなさそうですね」
そんな余計なことを思っていたせいか、到着した転移魔法陣にはマゼンタの姿はなかった。




