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98★ 秘密は秘密基地の中に

この国の女王の居住地であるブラッドレイ城は大陸一の広大な敷地を誇るだけでなく、その芸術性についても評価が高い城である。

その評価を支える特徴の一つに全て違うデザインの十二基の大塔と六十基の小塔が挙げられる。


時間を表しているというそれは数が多すぎる上にしょっちゅう建て替えられるせいで、内部全てを把握しているのは王族だけとされているがーー



「どこまで行くんです?」

「黙ってついて来んか。堪え性のない猫じゃの」


(くだん)の塔のうち、シアンは女王に連れられて城の外れに建っている高い塔を登っていた。


あまり人が立ち入らない場所なのか塔の外壁は緑の蔦に覆われ、入り口付近も高い草に半分隠れてしまっている。

木の扉は傷んで開くときに酷く軋んだ音を立てていたし、中もどこか埃っぽい。


次に建て替えるなら間違いなくこの塔が推されるだろうというぼろぼろ具合である。


ちなみに完全に二人だけでの行動である。

護衛の一人も連れていないし、隠れてついてきている気配もない。

それでも、城内とはいえ軽率ではないかと諫めるような人物はこの国にはいない。


彼女がこの大陸一の魔法の使い手で『歩く最終兵器』だの『理不尽が服を着て歩いてる』だの言われていることは子供でも知っている事実だった。



(ーー本当にこの女王は自分をどこに連れて行く気なのでしょうか)


黙っていろと言われたので、シアンは胸の内で色々と悪態をついている。

読心スキル持ちの女王には丸聞こえだろうが、考えるなとは言われていないので一応はセーフだろう。


(あんまり遠くだとソフィーのところに戻るのが遅くなるのですが……まあ帰りは転移で移動すればいいですかね)


そんなことを思いながらひたすら続く螺旋階段をぐるぐると登っていくと、先を歩いていた女王が立ち止まった。


ようやく目的地に着いたのかと思って顔を上げたが、そこは行き止まりのようになっていて普通の石壁しか見当たらない。


騙されたのかと思ったが女王が壁の何箇所か手を触れると、壁の向こうで“ガコン”と音がして壁の一部に穴が開いた。

よくは分からないが、何かしらの仕掛けがされていたらしい。


(それにしても小さい入り口ですね。女王本人はこの大きさでも困らないのでしょうけど)


目の前ーーでなく目線の下には、おそらく一メートルもないだろう高さの穴ができている。

子供なら少し頭を下げるだけでくぐれるだろうが、大人が入るには一旦しゃがまないと入れない微妙すぎる大きさだ。


シアンが少しイラつきながら先に行ってしまった女王を追いかけると、壁の向こうにはやたらとファンシーな子供部屋のような空間が広がっていた。

柔らかいシャーベットカラーの室内、天蓋付きのベッドに書き物机、鏡台などの家具は全てお子様サイズで、床に敷かれたふわふわのラグの上には大量のぬいぐるみが乱雑に転がっている。


「何なんですかこの場所……」

「ふっふっふっ……ここはわらわの秘密基地じゃ!」

「ーーは?」

「光栄に思うが良いぞ? ここはわらわとクロエ以外は誰も入れたことがない場所なのじゃからな」


なんだ秘密基地って。子供か。

いや、見た目だけならその通りなのだが。コレの中身は確か老婆ではなかったか。



「一国の主人が、何子供の遊びみたいなことやってんですか。暇なんですか?」

「むっ……暇なわけがあるか。ここには国家機密が隠されているのじゃぞ?!」


秘密の場所にするのは当然じゃろう! とか何とか言っているが、だったらその情報を女王自ら喋ってしまっているのは大問題じゃないのか。


「秘密にすると決めて秘密基地に隠したのはわらわじゃ。わらわが話す分には何の問題もないわ!」


堂々と言い放つ国のトップの言葉に、秘密って何でしたっけね、と思わず遠い目になるシアン。


「相変わらず無礼な奴じゃの。そんな態度なら教えてやらんぞ、全く。……おお、これじゃこれじゃ」


ベッドの上に山と積まれたぬいぐるみの奥から女王が取り出したのは南京錠付きの本だった。

随分古いものらしく、紙が日焼けして変色している。

どこからか鍵を取り出してカチャカチャいわせていたが、無事開いたようで中をパラパラ確認して「懐かしいのう」と呟いている。


「何なんです、その本」

「ん? 日記帳じゃよ。何十年も前のじゃがの」

「……昔のアンタがいつどこで何を食べたかなんてこれっぽっちも興味ありませんよ?」

「そんな事は書いとら……んこともないが。主に書いとるのは迷い子についてじゃ。それこそ書庫に納めておらんような話も含めてな」


迷い子の観察と研究はわらわの()()()()()()じゃからのう、と意味ありげに笑う。


「ーーつまり、“帰らなかった迷い子”の話もそこに書いている、ということですか」

「ふふっ。どうじゃ、興味あるじゃろう? どこの王宮の書庫にも国の図書館にも無い情報じゃぞ?」



楽しそうな口調でニマニマ笑って日記帳を見せびらかしている女王はとても憎たらしい。憎たらしいがーーその情報は確かに貴重だ。


(なるほど、国家機密というだけはありますね。ですがそんな貴重な情報をタダでくれる老婆ではないでしょう)


何を企んでいるのかと胡乱な目を向ければ、嬉しそうな顔で日記帳を抱え込んだ。


「当たり前じゃ、そこまでお人好しな訳がなかろう。そうじゃなーー猫よ、お主わらわと取引をせんか?」



そう言って見た目だけならどんなビスクドールよりも整った容姿の幼女は、どこぞの悪代官も真っ青な悪い顔で微笑んでいた。


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