八十二話 どんな言い訳?
翌日。今日から俺は、探索者ではなくユミルさんの護衛だ。
そんなもんその道のプロに任せた方が絶対にいいと思うんだけどね。こればっかりは社長の頼みだし……何より美少女は正義なのだ。何があっても守らないといけない。
昨夜ユミルさんの予定を見せてもらった訳なんだが…さすが売れっ子。芸能界に進出しただけあってスケジュールがすごかった。1人であれする時間すら無いほどに。
…そこのところ年頃の女はどうなんだろうか。やっぱり忙しくてもしちゃうんだろうか。でもでもしない人もいるって聞いたことあるし。ユミルさんはどっち派なんだろうか。
というかこんなこと考えている暇はない。
今日からその忙しいスケジュールに俺もついて行かなきゃならないのだ。支度を済ませて近くのホテルに向かう。
「ユミルさん、おはようございます」
「奧崎さん!おはようございます!」
ホテルのエントランスで呼び出してもらい合流したわけなんだが。
「…マネージャーはいないんですか?」
「いますよ?」
ユミルさんは「この人何言ってるの?」みたいな目を向けてくる。だが、周りを見ても誰もいない。
「…一応聞いても?」
「はい!」
「俺の役目は……」
「護衛とマネージャーですっ!」
眩しい笑顔が炸裂した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふぅ……」
俺は今お台場にあるスタジオの外で休憩中だ。
ユミルさんは中でテレビの撮影をしており、あと1時間待つ必要がある。護衛なら撮影中も側にいるべきだと思うかもしれない。だけど………
(俺って世界的に有名だし?忘れてるかもしれないけど超かっこいいわけだし?)
スタジオに入ったら通る人全員に
「お、奧崎なぎ!?」「え!?なんで!?」「やばい!かっこいい…!」「サイン…サインください!」「さ…撮影ですか!?」
1人が叫んでそれに気づいた人がまた叫んで…スタジオ内は一時パニックになったわけである。
最後の人にだけ撮影ではなくユミルさんの護衛だと伝えて早々に出てきた。
一応…安全確保のためエマをいけに……護衛として置いてきた。今頃撫でまわされているだろう。
「ははっ」
エマの困った顔が想像できて思わず笑みが溢れる。
(家に帰ったら撫で撫でフルコースを堪能してもらって許しを乞おう)
「お待たせしました!」
公園のベンチに座っているとエマがユミルさんを誘導して連れてきてくれた。
「お疲れ様です…えっと…」
次に行く場所がわからないので手帳を見て確認する。
「ふふっ…大丈夫ですよ。予定は頭に入ってるので一緒にいていただくだけで…助かります」
ユミルさんの表情には少し影があった。
「一緒にいてくれるだけで」
…つまりは心配なので守ってくださいということ。
もちろん返答は…
「安心してください。命に変えても守ります」
不安が少しでも解消できればと、笑顔で言う。
「……っ……あ…ありがとう…ございまちゅ…っ…!?」
赤面して早口で言ったからか噛んだ。
「〜〜〜!?行きましょう!」
足早に移動を始めたので後ろを追いかける形になった。
そしてユミルさんが来てからエマはずっと俺の手を噛んでいる。
「…エマ。さっきから噛む力強くない?」
「…きゅい…っ!」
エマの細やかな仕返しだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
午後もいくつかスタジオを周り夕方6時を回ったところでユミルさんにまともな休憩時間がきた。ユミルさんが公園で休みたいと言うのでベンチに座っている。
「はぁ〜、今日も疲れたぁ…!」
「お疲れ様です。芸能人って大変ですね…」
今日一日護衛していて嫌と言うほど知った。スタジオ入りしたら番組の先輩や共演者に挨拶をして台本も読んで…休憩時間が全くと言っていいほどない。唯一あるのがヘアメイクしている時ぐらいだろう。
「でも私が選んだ道なので…。これからも頑張りますよ!」
ユミルさんが眩しい。同い年でここまで強い人は中々いないだろう。……由衣も杏奈さんもこんな中で働いてたと考えると……もう少し優しく接してあげようと思う。
そして…………
「…すみません。膀胱が限界なんで手洗い行ってきます」
「…い…いってらっしゃい?」
「エマ。ユミルさんのこと守ってあげてね」
「きゅい!」
俺はダッシュで公園を離れる。小さな公園のためトイレがないのだ。
(やべぇ。我慢しすぎた…)
予兆はあった。昼ごろだ。
朝起きてからトイレに行かずに護衛のことだけ考えていたのでどんどん溜まっていった。
もって後数分ぐらいだ。
だが……トイレがない。どうして都会というものは公共トイレの数が少ないのだ。トイレだけのためにお店に入るのは気がひけるし……そうだ。野ションをしよう。ここらへんは路地が多いし人通りも少ない。
使われていないであろう建物の前で肩幅に立ち、少し腰を屈めてチャックを開く。
(はぁ〜〜〜〜〜〜〜)
止めどなく溢れる聖水。これは仕方がないと心の中で言い訳をする。
(はぁ〜〜〜〜〜〜)
「おいおまえ」
「へ?」
声をかけられ振り向いた先には……お巡りさんがいた。
少しの沈黙。
その間、壁に聖水が当たる音が大きく聞こえた。
「な…何見てるんですか?お巡りさん呼びますよ?」
「俺がお巡りさんだ」
(そうだった)
「い…一緒にしますか?大歓迎ですよ?」
これですると答えれば共犯者だ。罪に問われることはない。
「俺はお巡りさんだぞ?」
(うん。だめだった。ならば…)
「違うんですよ。これは出してるんじゃないんです。逆再生なんです。今もほら…吸ってるんですよ」
そういった時にはお巡りさんの手には手錠が…。
「すみません間違えました。………ほら!みてください!火が出ていたので消化しようと思っての行動なんです。許してください」
もちろん火は自作自演だ。小型の炎弾を放ちそこにかけている状態だ。
「……おまえ顔を見せろ」
出しきったときにお巡りさんが近づいてきた。チャックを閉めながら思考する。
(うわぁ…やべぇ。……でも顔バレてないってことは……逃げれるぞ?)
ユミルさん…この帽子ありがとう。
もともとは帽子もマスクもしてなかったんだけど…あまりにも騒がれるのでユミルさんから貸してもらっていたのだ。まじで感謝。
お巡りさんの手が帽子に届く時……縮地を使って路地を出た。それからは猛ダッシュで公園まで戻る。
「ユミルさんお待たせ!」
「あっ!遅いですよ奧崎さん!」
「きゅいぃ」
色々な意味で危なかったので仕方がない。
読んでいただきありがとうございます。
めっちゃ久々更新です。生きてました。
寿司食いたい。




