四十三話 タピった
実家につき荷物をアタッシュケース二つに詰める。持っていくものは服だけだ。
家具は近いうちに買いに行こうと思っている。
他は全て揃っているのでいらない。
ちなみにだが今日の朝、母さんと父さんに引っ越した場所を教えた。
息子の活躍をテレビで見れて鼻が高いそうだ。自慢しまくっているらしい。
お世話になった家を後にする。
見たいところがあったので御子神さんに連れて行ってもらうことにした。
ここは川越ダンジョンがあった場所だ。
今でも人はかなり見られるが前よりは減ってきている。
穴は1キロほど広がっているらしく近々埋めるようだ。僕が意図してやったことではないが申し訳ないと思ってしまった。
「……」
この近くに住んでいた人も多くいただろう。死者こそ出なかったが家や大切なものをなくした人は大勢いるはずだ。
(金稼いだら寄付しよう)
決意を新たに持ち、この場所を後にした。
帰るつもりだったがモールによりタピオカ屋さんに並んでいる。
マスクと帽子はしている。
(タピオカ一回しか飲んだことないけど美味かったんだよな)
去年、由衣とここに来てタピオカミルクティーを飲んだ。その時の印象が強いのだ。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「タピオカミルクティーをお願いします。タピオカ増しで。御子神さんは飲みますか?」
「いえ、お気になさらず」
「わかりました。お願いします」
「…はい」
うーん。マスクとかしてても視線感じるんだよな。どう考えても御子神さんなんだよな。見た目執事だし。運転手の要素なんてどこにもない。
タピオカミルクティーをもらい、近くに止めてあるリムジンへ向かう。
「やっぱりこれうまいな。暇があれば時々来たいな」
そう独り言を漏らすと
「はい、いつでも仰ってください」
と返された。
「すみません、御子神さん。自分がマスクとかしてても御子神さんの見た目が執事なので目立ってしまうんですが…どうにかできませんか?」
「それなら今後は車で待機の方がよろしいでしょうか?」
「はい、そうして貰えると助かります」
「わかりました」
リムジンも目立って仕方ないので変えることはできないか聞いてみたがこれはだめらしい。
他の2人もこういう状態だそうで箔をつけるためとのこと。
(あんまそういうのいらないんだよな)
考えても仕方ないので駐車場に向かい車に乗る。
案の定リムジンの周りには少数の人間が集まっていた。
ハンビルに戻り自分の衣類を全て収納していく。
それが終わると立ち寄ったお弁当屋の弁当を食べ歯磨きをする。
今日はハンビルの中を少し見てみようと思っている。ハンビルの中にはラボが4つほどある。武器作成と防具作成、ポーション作成、魔道具作成のラボだ。今後も増えるかもしれないが…。
3つまわった後武器ラボに行くつもりだ。
携帯と財布を持ち家を出る。
ラボは3階から6階にあるようだ。6階が武器ラボなので3階からまわる。
3階につき扉が開くと薬剤の匂いがした。3階ではポーションの研究をしているみたいだ。
(興味ないし…もう行くか)
雰囲気だけ堪能し4階へ向かう。
4階は魔道具の研究みたいだ。
ここには魔道具作成や錬金などのスキル持ちが配属されているようだ。
少し進むとアイシャがいた。
「…あっ。なぎ君…」
「おう。どうしたんだこんなところで?」
「…うん。私のスキルは2人みたいに…戦闘向きじゃなくって…」
ほうほう。初耳だ。
「そうなのか。戦闘職じゃないのに契約できるなんてすごいな。どんなスキルなんだ?」
「…えっと…」
困った顔をされた。どうやら言いたくないようなので
「ごめん。ステータスを無理に話す必要はない。無用心だった」
「ううん…。ちょっと言うのが恥ずかしくって…その…アーティ…ファクト作成…ですっ」
アーティファクト?古代文明とかで出てくる遺物のことか?
「アーティファクトって遺物とかだよな?どんなのが作れるんだ?」
「…今はレベルが2で付与するぐらいしか…できないです…」
付与?それってものに何か効果を与えるものだよな?もしかして…。
「…アイシャ。バッグとかに空間拡張の付与とかってできるか?」
「…ごめんなさい。まだ属性付与しか…できないです…」
「そうか。できるようになったら教えてくれ!アーティファクト作成か…めっちゃすごいスキルだな。レベル上げとか一人でできないだろ?どうしてるんだ?」
「…千尋ちゃんとダンジョンに行くつもり…だよ」
「そっか。頑張れよ!」
「…!!はいっ!!」
嬉しかったのか、反応が素直だ。
魔道具ラボを後にし5階に向かう。
エレベーターを降りるとここでも遭遇だ。
「…おう。ロリッ娘」
「…ロリじゃない。……その…昨日はごめん」
(昨日のこと?最強を驕ったことを謝ってるのか)
「気にしてない。大丈夫だ」
「…うん。そこで私は考えた…。どうしたらいいかを…」
「うん。それで?」
「…貴方の妹になればいいという結論に至った…お兄ちゃん」
(は?何言ってんだこいつ)
「妹になっても最強にはなれねぇよ」
最強を譲る気なんてこいつにも真琴にもない。
だが…こいつが妹か。背は低いし胸も絶壁だし色気もないし…。興奮しないから妹もありだな。一時期妹か弟が欲しいって思ってたんだよな。
「…ちがう。由衣ちゃんの話」
「由衣…?ああ、そういうことか。…俺の妹になればお近づきになれると思ったのか。俺といれば由衣の体も笑った顔も見放題だしな。だが断る」
「…なぜ!?」
本気で驚いてる。こいつばかなのか。
第一妹になれるとでも思ってたのか。血が繋がってないんだから無理に決まってる。
「お前やっぱりばかだろ。まず俺が許可しないし。じゃあな」
「…だめ。許可するまで離れない」
そう言うとその小さい体でおぶさってきた。
女性特有のいい匂いはするが、絶壁なので何も感じない。
「おーおー、勝手にしろー」
おんぶしたまま防具ラボを進む。
防具はいらない。布製の素材で頑丈なものが欲しいのだ。
防具ラボを進むと布製の生地を発見した。近くにいる職員に
「すみません、布製の服が欲しいんですけど、その研究をしている場所ってどこにありますか?」
「そこの角を右に曲がって2個目の部屋がそうですよ」
そう言われたのでお礼を言い向かう。
「すみませーん」
「はーい、どうしまし…え!奥崎さん!?」
出てきたのは髪をツインテールにした女性だ。
慌てたようにして一瞬で身嗜みを整えた。プロや。
「探索の時に防具は必要ないので布製の軽い素材の装備が欲しいんです。作ることって可能ですか?」
「…まさかここを頼ってくれるなんて…運命かしら?運命ね。結婚しましょう」
あ。この人社長タイプだ。
「しません。というかそんなに売れないんですか?」
ここで研究した防具などは探索者協会でも売っているしハンストの公式サイトでも売っている。
「そうですねぇ。致命傷になるものを回避できる防具の方が圧倒的に売れてます。衣服もいいと思うんですけどね。魔物からドロップした素材なんかも使っていますし」
俺は今までゴブリン、スライム、アンデッドとしか戦ってこなかったからドロップしたことはないが、毛皮をもつ魔物、ウルフなんかは時々毛皮を落とす。真琴も毛皮を狙いにきてたんだろう。いくら需要がなくても5000円で売れるからな。
「まぁちょうどいいです。黒と白で全身作ってもらえませんか?色合いはファッションセンスのある人にお願いします。期限もいつでもいいです」
「わかりました。採寸してもよろしいですか?全部脱いでください」
目が血走っている。息も心なしか荒いような。
「…採寸は済んでますよ。送られてるんじゃないですか?」
「…ブーブー。ケチは嫌われるぞー」
「はぁ…。できたら連絡ください。これ連絡先です」
「うおぉぉぉ!!世の女性が知りたいランキング1位の連絡先いただきましたぁぁぁ!!皆の衆!私はやったぞ!!」
だめだこりゃ。
「広めたら社長に言って解雇にします」
「すみませんでした。ここで働かせてください!働きたいんです!」
どっかで聞いたセリフ。
「絶対に広めないでくださいね。お名前聞いてもいいですか?」
「言ってなかった!鷹倉 つばめよ。よろしくねダーリン」
「ダーリンじゃありません。つばめさんお願いしますね」
「任せなさい! ところでなんだけど後ろに千尋ちゃん背負ってるのはなんで?」
(軽いからすっかり忘れてた)
「…妹になるため」
「…おおう。千尋ちゃんにとって大事なことなんだね。全然意味わかんないけど頑張れ!」
「…がんばる」
「はぁ…。行くか」
つばめラボを出て6階に向かう。
「…どこ行く?」
「6階で武器の注文だ。てか降りろ」
「…認める?」
「認めない」
「…なら無理」
(はぁ。どんだけ由衣のこと好きなんだよ。会ったら死んじまうんじゃねぇか?)
6階に着き扉が開くと槌の音がした。
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