三十三話 絶望
ヘリが地上に出た。
どうやら夜のようだ。
だが人通りはこれまでにないぐらい多い。
さらには記者も大勢来てるみたいでもうお祭り騒ぎみたいになってる。
僕はこのあと病院までヘリで行くみたい。
念のため検査をするらしい。
病院につくと担架を用意されたがどこも悪くないので歩いてついていく。
まぁ悪いところはないが外傷は残った。
魔王に貫かれた背中と胸にある傷。これは治せなかったらしく銃痕の大きいバージョンみたいになっている。こればかりは知らぬ存ぜぬを通した。
検査が終わり1日入院だそうだ。
1日なら我慢しよう。溜めてる方が気持ちいいかもしれないしね。
さっき寝たがベッドの温もりにやられ目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
翌朝、もう一度検査を受け異常がなかったため退院した。退院はしたが次はどうやら探索者協会にお世話になるようだ。
じんさんと探索者協会本部があるビルまで来た。
どうやら覚えている範囲で昨日のことを話さなきゃいけないみたいだ。
じんさんの他にもう1人いるが…。
探索者協会会長の秘書らしい。
会長は無能なんだろうか。まぁいいか。
「なぎ君、昨日あったことを覚えてる範囲で応えて欲しい」
「わかりました。昨日は朝早くからダンジョンに潜ってました。21階層からです。順調に進んでいったところ24階層に化け物がいました」
「…化け物?」
「はい。言葉を話す魔物です」
「「!?!?」」
これには2人ともびっくりしている。
「そいつはこう言ってました。ダンジョンが攻略されそうになるとダンジョンの意思で魔物を召喚すると。しかも召喚される魔物はある程度の強さを持っているみたいです。ただ召喚もリスクがあり一度しか使用できないみたいです。倒せばそれ以降召喚はないみたいです」
「…出鱈目ですね、信じろっていう方が難しいです」
そう秘書さんに言われた。
「…それで他には何かあるかい?」
「確率次第とも言ってました。魔王が生まれる時もあるし強くないやつも生まれると。そう話しをしたあと僕の意識はなぜかなくなりました。気づいたら穴の中にいた状態です」
「…なるほど。一度どこかのダンジョンで検証してみないと貴方の言葉だけでは判断できません。ただ、確率ですか。運が悪ければ魔王。良ければスライム。大雑把にいうとこんな感じでしょうか」
「その魔物があれを引き起こしたなら規格外の化け物だね。夜も眠れやしないよ」
「僕が知ってることは以上です」
「あの魔石についてはわからないかい?」
「あの大きさならたぶん遭遇した魔物で間違い無いと思います。その魔物がいる24階層に入っただけで死を身近に感じましたし」
「わかったよ、ありがとう」
「私から質問いいですか?」
そう秘書さんが聞いてくる。
「はい」
「ユニークスキルはご存じですか?」
ぉぉ。なんて応えたらいいんだ。なにが正解なんだ。
「はい、知っています」
「ユニークスキルは強力なスキルばかりです。私たち協会側が調べた結果、約1万に1人という研究結果が出ました。これをどう思いますか?」
以外と少ないな。
「少ないと思います」
隙を見せないような眼差しでみてくる。
「わかりました。ありがとうございます。先程の情報ですが確証が得られるまでは控えるので吹聴しないようにしてください」
「わかりました」
こうして探索者協会での話は終わった。
じんさんに家まで送ってもらうことになった。
車内では携帯が鳴り続けている。
「…出なくていいのかい?」
「たぶん鬼からなので」
「仕方ないよ。危ない目に遭う君が悪い」
そうだけど。まじで怖い。
「覚悟決めますか…」
通話ボタンを押す。
『……』
しばらくの沈黙のあと
『……おそい』
と言われ
「ごめん」
と返す。
『…家で待ってるから』
「おう」
そういうと電話がきれた。
(はぁ…。憂鬱だ)
「じんさん…。1日分ぐらい遠回りとかできます?」
「問題は早々に片付けるべきだよ」
(はぁ…)
由衣のことで暗くなり、じんさんは山積みの書類仕事に肩を竦めるのだった。
家に着きじんさんにお礼をいい玄関を開ける。
由衣の靴だろう。女性のが一つあった。
(ふぅ…。行くか)
リビングに入るといた。
「…」
これが俗に言う無言の圧力というものか。
「ごめんね、ちょっと巻き込まれちゃって。まぁ無事に帰ってきたし結果オーライということ……で?」
笑いながら言うと涙を浮かべて抱きついてきた。
「…結果オーライなわけないじゃん。…あんな穴が広がるぐらいの事故に巻き込まれて…。どれだけ心配したかわかる?…じんさんも言ってた。普通は生還することはできないって。…生きている確率は低いって」
まぁ一度死んだし当事者だしね。
でもそれを話すことはできないから…。
優しく頭を撫でながら
「ごめん」
とひたすらに謝り続けた。
◇◇◇◇◇◇◇
今はお互い離れて対面している。
僕は正座だけど。
今はあれやこれやとお叱りを受けている。
今回の件に関係ないものも含めてね。
ストレスが限界に達してしまったようだ。
「聞いてるの…っ!?」
「はいっ!聞かせてもらってます!」
「いい?ダンジョンに行く前にどこに行くのか。帰還がいつなのか。全て連絡しなさい」
「おかんか」
「おかんよ。貴方のお母様にも逐一報告するんだから。覚悟しなさい」
まさか母さんとも連携を取るとは。
(最近覚悟って言葉よく聞くなぁ。涙が出ちゃう)
「さらに心配させた罰としてマッサージ券を配布します」
そう言って出されたのは『マッサージ券30分』と印刷された紙が10枚ほど。
「……謹んでお受けします」
「よろしい…。…とにかく無事でよかった」
「おう…。シャワー浴びてくる」
病院帰りで昨日も洗ってないのだ。
話が終わったので脱衣所に向かう。
シャワーを浴びて着替えリビングに行く。
やりたいことはあるが1人じゃないとできないためツブヤイターを開く。前回ツイートしたスライムと鬼ごっこがかなりバズった。
トレンドを見てみると川越ダンジョンについてが多かった。
(ほんと申し訳ないっす)
川越ダンジョンが消失してしまったので次に潜るダンジョンを決めたいところだが…。
明後日にスポンサー契約があるし家の引っ越しなど諸々を良い機会なので済ませようと思う。
さらに言うと今通っている。通ってはない学校を退学することにした。
理由としては探索者として稼げる絶対的な自信があるからだ。なので退学手続きのため明日学校に向かう。
親にもある程度伝えてある。
あとは。
「由衣。俺引っ越すことにした。あと学校もやめて探索者一筋で生きることにした」
うんうん。報告することは大事だよね。そんな「は?」みたいな顔しないで。
「は?」
ああ。本当に言った。
「親にも言ってあるぞ?住所は教えるから」
「そう…ならいいわ。どこに引っ越すかは決めてるの?」
「まだだけど、大きいダンジョンの近くがいい」
そういうが、どのダンジョンも何階まであるのか未だにわかっていない。
できれば渋谷か新宿のダンジョン付近に住みたいが高すぎて手がつけれない。
まぁ家はいつでもいいからな。
「明日はどうするの?」
「明日は退学手続きをしに学校に行く。そういえば由衣ここにいていいのか?今日平日だし学校か仕事は?」
「…仕事ほっぽりだしてきたわ」
まじか。スケジュールとか大丈夫なんだろうか。
「行かなくていいのか?」
「今日はもう間に合わないし明日から行くわ。色々な人に頭下げないと。帰りたくないけど今日は帰るわ」
「そうか。心配してくれてありがとな。またいつでも来い」
「ええ。そうするわ」
見送りをする。
「………よし!穴掘りじゃ!!!」
この前隠した〜秘蔵コレクションを〜ほりほりほりほり…ん?
どういうわけか宝箱の蓋が空いている。
(まさかあの女……)
恐る恐る中身をみると、全てが灰になっていた。
「………おわった……」
膝から崩れ落ちる。
全てを燃やされた。本もDVDも何もかも。
白い一枚の紙が入っており
『ばーか』
と書かれていた。
(くっそぉぉぉぉぉ!!)
まず見つかったこともそうだが燃やされるなんてこれっぽっちも思わなかった。
着信があり見てみると
『ばーか』
と送られてきた。
タイミングが完璧すぎる。
「俺の行動よみやがって…くそっ!」
やられた。あいつがただで帰るわけないじゃないか。
(…今日はスマホで調べるか)
後になって埋めていなかったものも父の書斎にあるものも全てがなかったことに気づいた。
(すまない父さん…守ることができなかった)
そう思うばかりだった。
読んでいただきありがとうございます。
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