三十一話 テイマーになりたい人生でした
魔王と竜王の壮絶な戦いが終わった後、
竜から人間に戻ったなぎがいた。
『身体中に異常あり。竜王の涙で回復します。回復ができない箇所を発見。ただちに縫合します。
縫合完了。生命活動を確認しました』
そう言うとその声は聞こえなくなった。
魔王と竜王の闘いは地球にも影響を与えた。
ダンジョンは地球と繋がっている。
闘いの起きた川越ダンジョンは無残な状態になりまた川越にもその余波は届いた。
潜っていた探索者、ダンジョンの近くの住人は地震が起きた時に異常を感じ探索者が指揮をとることで1人を除いて避難した。
だが川越ダンジョンのあった場所は巨大な穴が空き、中を確認できないほどには深かった。
◇◇◇◇◇◇
「どうなっている!? どうしてダンジョンが消えた!!それになんだあの穴は!」
そう言うのは探索者協会会長だ。
「現在確認を急いでいますが、穴が深く何が起こるかもわかっていない状況で難航しています」
そう応えたのは奥崎 じん。 川越支部長だ。
「はやくしろっ!」
「わかりました。失礼します」
(ふぅ。まいったねこりゃ)
「状況を教えてください」
「はっ! ダンジョンで地震が起きたと同時に探索者が指揮をとり、周辺の住民の避難は間に合いました。犠牲者はゼロですが探索者が1人行方不明となっています」
直径1キロほどだろうか。あれだけの穴が空いたのに犠牲者ゼロはすごいね。
「わかりました。今から川越ダンジョンのあった場所まで向かいます」
(僕の管轄でこんな大惨事…。胃が痛い)
少しばかり覚悟を決め川越に向かった。
「うぅ…。頭が…痛い」
なんだろう。悪い夢でも見てた気分だ。
具体的に言うなら魔王に殺された夢だ。
そのあとなぜか生き返って闘ったのも覚えてる。
ご都合主義な夢だった。
「何も見えない。なんだ?ここ」
上を見るとかすかに光が見えた。
しかし
(どうやって登んの?)
「というかこの状況はなんだ!なんでこんなとこにいるんだ!拉致されたのか?」
とにかく登れないか試してみよう。
暗すぎてどこが壁なのかわからない。
手を前にしてぶつからないように歩く。しばらくすると壁に触れることができた。
「よしっ…! …このあとどうしよ」
この壁壊せるかな?
ちょっとバッドで殴るか。
(……荷物どこ?)
無理だ。さっきの場所には戻れない。
暗すぎて何もわからないし…。
!!!!!
炎弾使えるじゃん!!
「炎弾!」
すると
ボォォォォォォォオォォッ!
手の平では収まらない俺よりも大きい炎がでた。
「なななんじゃこりゃぁぁぁ!!!」
(まず炎弾じゃないし! 砲弾みたいな大きさしてるし!何があった!?)
思い出せ思い出せ思い出せ…。
たしか、
21階層から探索して順調に降りて行って……。
24階層で魔王とあって……ん?魔王…?あれ現実?
「嘘だろ…。なら鬼ごっこして俺死んだよな…?」
でも…。
夢だと思ってたのに続きあるし…。
俺が竜になって魔王倒すの覚えてるし。
まさか…本当なのか?
「ええい! ステータス見りゃわかる! ステータスオープン!」
奥崎 なぎ
職業 魔人
Lv1430
HP. 143000/143000
MP. 143000/143000
筋力 28600
耐久 28600
敏捷 28600
器用 28600
知力 28600
ユニークスキル
『炎竜王』
派生スキル
炎弾Lv3
『雷帝』
派生スキル
雷弾Lv2
スキル
刀剣術Lv3
派生スキル
飛斬Lv3
斬鉄Lv2
居合Lv1
鑑定妨害Lv5
身体強化Lv2
気配探知Lv3
魔力探知Lv3
HP自動回復Lv2
MP自動回復Lv3
称号
魔を討つ者 覚醒者 人外 英雄
殲滅者
川越ダンジョン5階
川越ダンジョン22階
スキルポイント14160
取得可能スキル
ユニーク
炎矢
炎爆
炎獄
炎纒
竜装
雷矢
雷放
雷獄
雷纒
スキル
無詠唱
天歩
全属性耐性
全状態異常耐性
縮地
「わーお。強くなりたいとは思ってたけど。俺魔王倒してないじゃん。いや、倒したのは俺だけど違うやつっていうか。というか魔人ってなに。ほんとやめて。テイマーになりたかったのに」
嫌なことがあったら寝るに限る。
(はぁ…おやすみなさい)
◇◇◇◇◇◇◇◇
今、私は川越に来ている。
マネージャーさんに無理いって連れてきてもらった。
ついさっき大地震が起きツブヤイターで情報を集めたところ川越ダンジョンが消滅したという情報を知った。
行方不明者が1人いるだけで犠牲者はいないみたいだけど。
「…どうして電話に出ないのよっ!」
なぎに電話をかけたりメッセージを飛ばしているが反応がない。
嫌な予感がどうしても拭えない。
(無事でいてっ!!)
◇◇◇◇◇
「ここからは立ち入り禁止です!入らないでください!」
という声が前方から聞こえる。
「すみません、探索者協会の者です。通りますよ」
そう言って遮られたテープを通るのは奥崎じんだ。
会長との話の後からここまで車を飛ばしたが2時間かかってしまった。
それまでにギャラリーは増え続け収集がつかなくなってきている。
「川越支部長の奥崎です、今ここにいる者で行方不明者の捜索、この穴に入る人を決めます」
そう言うが、皆黙ったままだ。
それもそうだろう。深さもわからない、生存者の命があるのかも。さらにはこの現状を引き起こした存在との遭遇もあるかもしれない。
たった1人のためにリスクを犯して行こうとは到底思えない。だが、
「俺が行こう」
と立候補する者がいた。
村中優斗だ。
「いいんですか?」
この疑問には感情が込められた。
死ぬかもしれないぞ?と。
「構わない。この前拾われた命だ。何より…恩人が行方不明なのに黙って指しゃぶれるか」
「私も行きます」
「…僕も」
甲賀翼と藤田光も立候補した。
だが奥崎には気になることがあった。
この3人からは先日ダンジョンでなぎ君に助けられたということと18階層のことを報告された。
先程の「恩人が行方不明なのに黙って指しゃぶれるか」ということは。
「…もしかしなくても行方不明者はなぎ君ですか?」
「ああ」
そんな…。
これだけの大惨事で生きていられる可能性は万に一つもないだろう。
だが
「どうかなぎ君のこと頼めるかい?」
1%なくても奇跡を信じたい。
「まかせろ」
そう強く頷き3人はヘリに乗り込んだ。
「じんさんっ!!」
そう声を発したのはテープの先にいる1人の少女だ。
「あれ奥崎由衣じゃないか?」「なま由衣ちゃんだ!」「すごいきれい」「写真撮ってもらえるかな」
などといった声が聞こえる。
「その子を通してあげて」
そう言いテープを潜らせる。
「じんさんっ!なぎは…なぎは無事よね!?ちゃんと生きてるよねっ!?」
必死に懇願するかのように聞いてくるが生憎、僕は気の回ることは言えない。
苦い顔が出てしまっていたようだ。
「…そんな…そんなことって…!なんでよ!なぎはどこにいるの!教えてよはやくっ!!ドッキリなんでしょ?そうっていってよ!」
「落ち着いて。今捜索中だよ。まだ生きてる可能性もあるし…その逆もある。今は待つことしかできないんだ」
「…!!なら私も行くわ!」
(そうきたか!)
「その子を捕らえてくれ!!身動きできないようにしてもいい!」
「はっ」
そう指示を出すと自衛官2人が由衣を抑えに行った。
「離しなさいよ!…約束したんだから!!わた(ドンッ)………」
「気絶までさせてよろしかったんですか?」
「構わないよ。僕が責任を取るから」
(どうか…この子のためにも無事でいてくれ)
読んでいただきありがとうございます。
もし、この作品が面白いと思ったら下にある評価を押していただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。