二十九話 命がけの鬼ごっこ
このプレッシャー。こいつが原因か。
「良い反応だね」
「…お前はなんだ?」
「僕?僕は魔物だよ」
急激に圧が増した。
(…!? こいつは無理だっ!逃げることだけを考えないと!!)
直感が―――俺の本能がこいつには勝てないと告げている。
「…話せる魔物なんて聞いたことないんだが?」
あくまで平静を装いながら話す。
チャンスを待て!!
「そうだね。僕みたいな魔物はダンジョンに危機が訪れないと召喚されないんだ。今まで危機に陥ったダンジョンはここだけなんじゃないかな?」
「召喚?危機?何をいってるんだ?」
「ふふっ。危機は君のことだよ人間。ダンジョンが攻略されそうになるとダンジョンという意志が僕たちを召喚するんだ」
「…そうか。攻略されそうになって化け物召喚するとか反則だな」
「化け物とは限らないよ。運次第だし1回しか使えない。ある程度強いものが出るけど僕のようなのは確率だと1%もないだろうね」
(うん。詰んだな。逃げれそうにない。命乞いしてみるか)
「勝てる気が全くしない。見逃してくれ。このダンジョンには来ないと約束する」
「実力差を感じて降伏か。賢い選択だね。でも召喚されたからには役目を果たさないといけないんだ。覚悟はいいかい?」
話は通じない。
(どうする!?どうする!?)
「考えても無理だよ。この階層に入った時点で君の死は確定だ」
―――この階層?
「お前はこの階層から動けないのか?」
「動けない…と言いたいところだけど残念。どこでもいけるよ」
「…なら俺と鬼ごっこしないか?俺が逃げる側。お前が追う側だ。勿論走ってだ。どうだ?楽しいと思うが」
(のれっ!!のってくれ!!)
「君の悪足掻きもここまでくると滑稽だね。いいよ、のってあげる。階層間の転移はなし。約束しよう」
(よしっ!20階に行けば希望はある!!)
「2時間ここで待ってくれ。どうだ?」
「いいよ」
(ありがたい!!それでも追いつくと思ってるのだろう。20階層までは全力で行けば2時間ぎりぎり行ける!)
「確認だが20階の転移は使えるだろうな?」
「うん。あれはダンジョンの仕様じゃなく神が用意したものだからね」
「わかった。そこまでいけば俺の勝ち。行けなければお前の勝ちだ」
「単純でいいね。さぁ、悪足掻きの時間だ。いつでもどうぞ」
そう言うと地面から時計が現れる。
!?
「追加ルールいいか?ダンジョン内の改造は禁止だ」
「うん。そんなことはしないよ」
「わかった…スタートだ!」
こうして全力も全力、超全力の鬼ごっこが開始された。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
はぁ…はぁ…はぁ…!
今21階層を走っている。
2時間まで残り5分ほど。
(急げっ!急げっ!!)
思った以上にぬかるみでスピードを上げることができなかった。その結果転移場所まであと10分ほどかかる。だが、
(5分でここまでは来れないだろっ!)
そう期待を持ちながら走るが嫌な予感もする。
2時間を過ぎた。
(はやくっ!もっとはやくっ!)
身体強化をずっとかけ続け全力で走るのを2時間。
これが命の危機に瀕した馬鹿力なのか。普段なら1時間すら走れない。
足を動かすことに集中し転移部屋があと少しのところでそれは起こった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
………ドォォンッ!ゴォォンッ!バンッ!ゴギュッ!ザァァンッ……ドォォォォォオンッ!!!!!!!
地震の後ダンジョンの壁が破壊されそこから
「間に合ってよかったよ。ちょっと本気出しちゃった」
と言って化け物が出てきた。
ーーーーなんだこいつは。2時間になって1分だぞ。ふざけるな。ふざけるな。
必死に足を動かすが目の前の部屋が遠く感じる。
「良くここまで逃げたね。でももうここまでだ」
「……ははっ。お前名前なんだ?」
「それを聞いてどうするの?」
「そんなの呪いながら死ぬためだ。お前の顔は一生忘れない。来世でもお前の顔を忘れない。絶対に。いつか必ず殺すためにな」
絶対だ。こんな理不尽を強いられて情けなく死んでたまるか。
「最後まで執念がすごいね。そうだね、教えてあげる。ルキフェル・イール。それが僕の名前だよ」
「ルキフェル…イール。はは…。魔王じゃねえか」
(…ルキフェル。ルシファーとも言うんだっけな。反則だ)
「じゃあね。鬼ごっこ楽しかったよ」
そう言い俺の心臓に手を突き刺した。
「かはっ…ふぅ…ふぅ…ぅ……………」
それだけを漏らし意識がなくなった。
なくなる寸前
『心肺活動の停止を確認。これにより【炎竜王】が発動します』
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いやー魔王つよw




