6 半端者は何処にも行けない
「……」
僕はその場で立ち尽くしていた。
結局のところ、もう僕の上では血で濡れることはなかった。
あの場から逃げ出そうとした男は、僕の隣を通りすぎて、そのまま僕の背後の海に飛び込もうとしたところで、頭を破裂させ死んだ。
僕はその場で立ち尽くしていた。
カーテルはそのまま僕をじっと見つめている。ウィスペルは彼女のことを一瞬だけちらりと見たが、すぐ背を向けて歩き出した。
彼女の言いたいことは何となく分かっていた。
僕はもうここで立ち尽くすしかないのだ。彼女の世界に踏み込めない半端者だから。
「……」
カーテルは僕に背中を向けた。
そしてゆっくりと足を進めて、もう遠くにいって小さくなったウィスペルの後を追う。
僕はそれを見ていることしかできなかった。
彼女らと僕とで、同じではなかったのだ。
同じ人殺しであろうと、僕は半端者だった。
殺しては殺せず。生の光が降る道も、死の闇が立ち込める道も、僕はどちらも歩けない。
半端者だった。
ここで、僕と彼女の、短すぎる冷たくて甘い思い出は終わる。
しかし、僕の人生も彼女の人生も、まだずっと続いていくのだろう。
心の奥底でしこりを遺しながら、生きることしかできないのだから。