灯火
「あれは何の光だろうか。電気?街頭?火の玉?よく覚えていないが、確かにいるんだ。明るく私を照らす何かは。
初めて見たあの日、私は雪が降り始めて冷たくなった道をバタバタ走っていたんだ。すぐ終わるはずの用事が長引いてしまってね。かなり急いでた。
確か家にも早く帰らないといけない用事があったんだが……何だったかな。悪い、話しながら思い出させてもらおう。
まぁ雪が降ってる夜道なもんだから、車なんかこの辺じゃ走ってなかったよ。危ないことこの上ないからね。自転車は何人か見かけたが……まぁ分かるだろう?みんなコケてた。
そんなことはいいんだ。とにかくそんな道を慎重に、それでも急いで帰ってたんだ。家には家内と子供が待ってる。
あぁそうだ思い出した、その日は、なんていうんだ、クリスマス?っていう日だった。なんでもクリスマスにはみんなでケーキを食べるらしくて、私が帰るまで子供が食べるのを我慢してるって連絡が来たから早く帰ってたんだ。
いい家族だろう?君もそういう家族を作れるようになるさ、きっとね。
話がズレてしまった。さて本題に戻るよ。急いで帰ってる道すがら、十メートル先くらいにずっと何か光っているんだ。
街頭にしては位置が低い、というか光はちょうど私の頭上あたりに浮かんでいるようだった。帰り道がその道しかないもんで、奇妙に思いながら近づいたよ。
何の光かはまだ思い出せんのだよ、悪いね。でも確かに光ってたんだ。私の頭の上でね。
そうしたらそこから声がするんだ
「あったかい?あったかい?」
ってね。確かに温かったよ。雪が降ってる中頭から足先までポカポカする感じだった。ただ誰の声かは分からない。どこかで聞き覚えがあるような気はしたが。
その光は家まで着いてきた。玄関を開けたらそいつは私の影に隠れて家に入ったんだ。
その時の家族の顔ったら!みんな驚いてたよ。
「なあにそれ?」
「おもちゃなのー?こわーい」
子供たちは興味津々だったよ。家内は本当に怖がっていたけどね。
でも私も何も説明出来ない。その間光はただリビングを漂ってた。
それからしばらくは光と過ごしてたんだよ。なぜか光は私ばかりに着いてきてね。夜なんかよく足元を照らしてくれて助かったもんだ。
その光が今どうしてるか、気になるかい?
いやだなあ。とっくに見えてるだろう?君にも。
見えていないとは言わせないよ。今も後ろにいるだろう。
私には君の光ももう見えてるよ。
この光は「ある共通点」がないとただの光にしか見えないんだよ。ただ共通点があると、それはただの光じゃない、何かが浮かび上がるんだとよ。
いや、私もついこの前知ったばかりさ。こんな共通点持ってる人なかなか居ないからね。
私と君の共通点何か分かるかい?髪の色?瞳の色?違う。
君も私も人を殺めた事さ。
あーもうしらばっくれても無駄だよ。私には見えてる。君が殺した人の顔がね。光に浮かび上がってる。
もう君にも分かってるんだろう?私が殺した人の顔。まぁもっとも君が知らない人間だから私はいいんだが……。
君の場合そうはいかないね。
なんせその光には私の家内の顔が浮かんでる。
是非説明していただきたい、家内をただの灯火にしてしまった理由を。
私が納得出来なければ私の頭にもう1つ光が浮かんでしまうことになるけれども、さあ説明してくれ」
そう言って彼は話も聞かずに殴りかかってきたんだよ。
いやあおっかなかったね。
死んじゃうかと思ったよ。
命拾いはしたけど、おかげであの日から頭が熱くてね……。
まぁでも冬はあったかいんだよ、この光。だから皆にもオススメするよ。
頭の上に光を2つ浮かべることをね