エイプリルフール小話
「今日でお店閉めるから」
と、蓮華。
「あ、そーなんだぁ? 俺も、今日で仕事全部辞めるんだー」
と、奏汰。
「私、家出するから」
「ゆかりちゃん、一人暮らしでしょ?」
蓮華が笑い出し、奏汰も笑い、ゆかりも笑った。
仕事は休みの蓮華がライヴを見に来た帰りがけに、奏汰とも三人でエイプリルフールならではの嘘を楽しんだ後、ゆかりは二人と別れ、そこから近い優の家に向かった。
もう仕事は終わっている時間だ。
彼はどんな嘘を付くのだろうか? ちょっと楽しみである。
「今日って、エイプリルフールだったのね」
優の家で、ゆかりは、わざとらしく言ってから彼を見た。
振り返った優が、にこっと笑う。
「うん、そうだね。ゆかりさん、大好きだよ」
「……エイプリルフールなのに、そんなこと言うの?」
愕然とするゆかりを見ても、優は、けろっとしている。
「だって、エイプリルフールについていい嘘は、午前中だけだって言うよ」
「えっ! そうなの!?」
「だから、今言ったことは本当だよ」
にこっと微笑む優を、忌々しそうに見る。
「わざとね?」
「あはは、まあね」
「もう、心配になるようなことしないで」
「ごめんね」
肩を抱き寄せ、優が、ゆかりの額にやさしく口づけた。
見つめ合うと、ゆかりは、優の首を包み込むように抱きしめる。
「大好きだから」
「僕も大好きだよ」
耳元で甘くささやき返し、優もゆかりを抱きすくめた。
余韻と心地良さに、しばらくそのまま浸っていると、優が口を開いた。
「ちなみに、『午前中だけ嘘OK』っていう風習は、イギリスだけみたいだけどね」
「もうっ! 優くんたら!」
顔全体が赤くなったゆかりが、ぽかぽかと軽くぶつのを、優は腕で躱しながら、面白そうに笑っていた。
*
一方、奏汰たちのアパートでは――
「ねえねえ、奏汰くんは、あたしのこと、好き?」
「ううん、好きじゃない」
奏汰がにっこり応えた途端、蓮華の表情が変わった。
「もうエイプリルフール終わったのにー」
「えっ!?」
急いで奏汰が時計を見ると、夜中の十二時を過ぎていた。
「ひどーい!」
蓮華が両手で顔を覆った。
「ご、ごめん! まだ四月一日かと思って! 今の嘘だから! 蓮華大好きだから!」
焦った奏汰が、必死に、ぎゅーっ! と抱きしめた。
蓮華は、うふふふと小さく笑った。




