織姫と彦星が出逢う夜
七夕。
その日は年に一度、織姫と彦星が逢える日だという。
そして、織姫と彦星の願いが叶う日にあやかってなのか、笹の葉に願い事を吊るす習慣があった。
幼い頃の七夕の願い事は、何も知らなすぎる願い事だった。
『おりひめさまとひこぼしさまが
あえますように』
小学生低学年の頃の七夕の願い事は、気が早すぎる願い事だった。
『すてきな人とけっこんして
こどもがたくさんできますように』
小学生高学年の頃の七夕の願い事は、現実を見ていない願い事だった。
『作家になれますように』
中学生になると、七夕の願い事などしなくなった。
馬鹿らしくて。
笹の葉に紙切れを吊るすだけで願いが叶うなら、楽でいいだろう。でも、そんなことは起こりっこないのだ。
高校生になると、夢さえ捨てるようになった。
こんなに文章が下手くそなのに、語彙力もないのに、作家なんてなれるものか。作家になる努力すらしてないくせに、下手くそな小説を書いて自己満足をしてるなんて。馬鹿野郎。
大学には、行かなかった。
行く意味を見出せなかったから。
書店でバイトを始めた。
その傍ら、小説を書くことだけはやめていなかった。
「捨てたはずなのに」
捨てた夢のはずなのに。
趣味として、残ってしまった。
ある日、好きなレーベルの文庫が小説投稿サイト内で作品を募集すると知った。
思わずそのサイトに登録し、作品の投稿を始めた。そして、応募した。
「馬鹿みたい」
思わず呟いた。
捨てた夢のはずなのに。
心の何処かに種が残っていたのだろうか。
「……まさか」
思わず呟いた。
夢が、叶ってしまった。
あの日の夢が、叶ったのだ。
一度は捨てた夢が。
そして同じ頃。
街中を歩いていたら……。
「あの、落としましたよ」
振り返った先にいたのは、同じ書店で働いている、異性の人。
「ありがとうございます」
それがきっかけで仲良くなり、2人は付き合うようになり、結婚した。
「何だかんだ言って、あの頃の夢が全部叶っちゃったわけか」
たくさんの子供に囲まれて、新刊の締め切りに追われながらも、幸せに暮らしている。
「それなら」
一番最初の願い事も叶っているのだろうか。
織姫と彦星は今日、天の川を渡って出逢えるのだろうか?
「かざり、できたよー!」
「お願い事も書けた?」
「うん!」
「よし、じゃあ飾ろう!」
笹の葉に願い事を吊るす。
「おねがいごと、なんてかいたのー?」
「内緒だよ」
「ずーるーいー!」
短冊は、三枚ある。
一枚目は子供たちが吊るしたのと同じ高さに。
『健康第一』
二枚目、三枚目は、子供たちの目には届かない、高い位置に。
『いつまでも幸せが続きますように』
『織姫と彦星が、今年もまた出逢えますように』