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30話「お別れ」

 翌日の夜、もうアルルも軍のもとに戻っていってしまい、男部屋には現在、ヴィーレ達四人が何をするでもなく佇んでいた。


「うっ……うっ……」


 ネメスの嗚咽だけが室内に響く。悲しみに暮れているのは何も彼女だけではない。あまり口には出さないが、ヴィーレ達もこの事態を未だ飲み込めないでいた。


 端的に言うと、朝起きたらカズヤがいなくなっていたのだ。

 誰かに出かけてくると伝えたり、荷物を置いて外出したりした訳ではない。


 初めは散歩にでも出かけたのだろうと思っていた。何か急用でもできたのかもしれない、と。


 しかし彼は昼を過ぎても帰ってこない。そして今、日が沈み夜を迎えても、いよいよカズヤが戻ってくることはなかった。


 それから四人は部屋の中や村中をよく探し回ってみた。そこで、彼のベッドと枕の間に置き手紙が隠されていたのにエルが気付く。封を開けると中の紙にはたった一文、『探さないでください』とあった。


(昨夜カズヤと交わした会話……断片的にではあるが、覚えているぞ。やはり、最初に確認した時のレベルといい、途中の怪しい動きといい……)


 ヴィーレは口元に手を添えながら、地面を睨むように見つめていた。今になって裏切られたような気持ちになるのは彼の甘さが招いた怠慢だろうか。


(……はぁ、やめておこう。俺達があいつに助けられた事だって何度もあった。カズヤが大切な友人である事に変わりはないはずだ)


 首を振って先までの考えを否定する。彼にはカズヤと過ごした日々が全て嘘だったとは到底思えなかったのだ。


 一方、ベッドに腰掛けて泣くネメスの隣では、エルが腰を曲げて心配そうに彼女を眺めていた。


「ネメスちゃん、大丈夫か?」


 尋ねられたネメスは、目をゴシゴシと擦りながら「ううん」と頭を横に振る。


 本当に悲しそうだ。他にも様々な感情が混ざりあい、爆発して、抑えきれなくなっているのだろう。


 そんな彼女を元気づけるためか、エルは勢いよく立ち上がると、拳を握って演技くさい叫びを発した。


「くっそー、カズヤめ! 帰ってきたらネメスちゃんを泣かせた罰として、イズに火炙りの刑を執行してもらおう! な?」


 涙を拭ったネメスはブンブンと勢いよく首を縦に振る。


(あ、やるんだ)


 ヴィーレは密かに驚く。存外彼女は怒ってもいるようだった。


「まったく。どこほっつき歩いてるのかしら……」


 イズは彼らのやり取りを横目で見ながら溜め息を吐く。部屋の隅にある椅子に脚を組んで座り、寂々(じゃくじゃく)とした憂鬱感を纏っていた。おふざけにツッコむ余裕もないらしい。


「数日の間だけとはいえ、ずっと一緒にいたんだ。あいつが悪い奴じゃないことは分かる。急に出ていったのも何か事情があるはず。いつか帰ってくるさ。俺達は、前に進まなければならない」


 泣いているネメスの涙を拭いて、頭を撫でてやるヴィーレ。


 ネメスにとっては特に辛い出来事かもしれない。こんなに泣いているのだって、彼女の過去を考えれば当然のことだと言える。


(だが、何もカズヤは死んだわけじゃない。相手が死んだのならそれを受け入れなければならないだろうが、まだ彼はどこかで生きているんだ。それなら、俺達が諦めない限り、いつかはあいつと再会できる希望がある)


 勇者はもう挫けなかった。これまで皆から受け取った勇気と、自分の築いてきた絆を信じて、前に進むと決意したのだ。


「魔王を倒したら俺がちゃんと探すから、今は我慢してくれ」


 立ち上がり、努めて穏やかに約束する。

 そこで初めてネメスが顔を上げた。目元を真っ赤に腫らしながらも、期待と不安を兼ね備えた眼差しをこちらへ向けてくる。


「俺も探すぜ。まだまだ料理の話とか異世界の話とか、全然語り足りないからな!」


 この機を逃すまいとエルが即座に便乗する。


「ええ、きっと見つけるわ。勝手に消えて私達を待たせた事、謝ってもらわないと」


 二人の狙いを察したイズも流れに乗ってくれた。笑顔を作ってこちらに向けてくる。


「……うん。みんなで、カズヤお兄ちゃんを迎えに行こうね」


 ネメスは静かに、だが確かに強い意志をもって応えた。涙はいつの間にか止まっている。どうやら彼女も前を向く覚悟を決めたようだ。


(本当に強くなった。この姿をあいつに見せられないのが残念でならないな)


 ヴィーレはネメスの成長に目を細める。そしてこれまでの旅を振り返り、改めてカズヤは信頼に値すると確信した。


 勇者同様、カズヤも四人それぞれと独自の関係性を構築していた。ヴィーレとは兄弟のように、ネメスとは兄妹のように、イズとは師弟のように、エルとは悪友のように接していたのだ。


 だからヴィーレは、再び五人で笑いあえる日がきっとまた来ると信じることにした。自分達の冒険が欺瞞に満ちたものだと疑わないようにした。


「ああ。また会って、必ず全員であいつと話そう」


 改めて交わした約束を口にする。途端に暗く閉ざされた道がパッと開けたような気がした。


(そうだ。どこにいようが絶対に迎えにいく。待ってろよ、カズヤ)


 ヴィーレはそう念じて、最終目的地である魔王城が(そび)える方角へと目をやった。

【お知らせ】


黛クロナ様より本作のヒロイン「イズ・ローウェル」のイラストを頂きました!


第一目標の2話に掲載しましたので是非ご覧下さいm(__)m


あとまだしていない方はブクマ、評価、感想、レビュー等も是非よろしくお願いします!


作者のモチベが上がって執筆速度が上がったり、他ヒロインのイラストを依頼したりできますので(。-∀-)

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