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24話「一騎当千」

 何もかもが驚くほど手際よく進められた。全員が負った怪我の回復、盗賊組の捕縛、そして短く挟まれた兵士側の事情説明。


 アルルから受けた話によると、彼らはヨーン村の近くを通りかかった商人からの情報でカズヤ達の窮地を知ったらしい。大規模な呪文をいくつか使ったから、それが発見されたのかもしれない。


 本来ならばもっと早くに到着できるはずだったのだが、途中で五百の盗賊と戦闘になったため、多くの時間を消費した上、救援に駆けつける人数も少なくなってしまったのだとか。


 それから間もなくイズとエルは意識を取り戻す。兵士達が盗賊幹部の二人を拘束しているうちに、カズヤはイズ達に事の経緯を説明した。とは言っても、嘘の混じった報告であるが。


「そう、兵士の方達が助けてくれたのね……」


 兵が固まっている位置から少し離れた木陰で休んでいたイズがそう呟く。


 カズヤはまだ自らの素性を話していない。『エルに助けられた後、一人で粘っていたら救援が来て何とか助かった』という、限りなく真実に近い説明をするに終えている。


「さあ、あまりグズグズとしてられないわ。早くネメス達を追いましょう!」


 お腹の刺された部分を擦りながら立ち上がるイズ。


 信じられないほど早く切り替えて先を急ごうとする彼女の姿はひどく哀れだった。(さら)われた二人のために強くあろうとしているのだ。


 しかし、今の状況では何の実も結ばない努力である。カズヤは落ち着くよう身振りをしながらオドオドと言い聞かせた。


「だけどね、イズさん。ヴィーレ達が連れて行かれたのがどこなのか、まだ分かっていないんだ。今の僕達は待つしかない」


「でも……! 今だってあの子達がっ!」


「落ち着けよ、イズ。俺達だってヴィーレやネメスちゃんのことはお前と同じくらい心配なんだ。向こうで兵士が盗賊幹部(あいつら)から潜伏先を聞き出している。呪文を使ってな。だからきっとすぐに見つかるさ」


 イズは二人がいなくなって平常心を失っているようだった。

 連れ去られたのは彼女が特に気にかけていた二人だから、そうなるのも頷ける。けれど、不安になっていても現状は解決はしないのだ。


「エル……。あんた、屋敷の時もそうだったけど、緊急事態にだけは静かでいるのね。ちょっと見直したわ」


「おいおい、勝手に惚れてくれるなよ?」


「ハハッ。それはないわ~。調子に乗って勘違いしてんじゃないわよ?」


「マジトーンで返されんの本当怖い」


「ていうか、あんたはふざけてないで、早く着替えてきなさいよ。半裸でシリアスな顔をされても気持ち悪いだけだわ」


「燃やされたんだよチクショウ! 一張羅だったのにっ!」


 エルは泣きながら馬車へ向かって走っていった。いつも通りの道化っぷりだ。


 彼が作ってくれた空気を無駄にするまいと、カズヤは必死にイズへと語りかけ続けた。

 不安を紛らすことはできなくとも、ヴィーレ達の居場所が判明するまで彼女をここに繋ぎ止めておかなければ、と。


 そうしていること数分間、エルも服を着て戻ってきた頃。

 突如、張りのある声が辺りに響いた。全体の指揮を執っていた男が、カズヤ達を含め、全員に呼びかけたのだ。


「潜伏している盗賊と連れ去られた勇者は近くの洞窟にいるそうだ! おそらく、そこにも幹部クラスが控えていると考えられる! 気を引き締めてついてこいッ!」


 言い終えるなり返事を待たずに馬を走らせた。兵士達も低い声で応答し、素早く準備を整えて彼に続く。

 バレン達を村へ連行するためにこの場で離脱するようで、十数人ほど動く気配がない者もいた。


「ほら、君達も乗って!」


 カズヤ達は突然誰かに呼びかけられる。

 声の方に視線をやれば、アルルとその仲間が二人、馬に跨がってこちらに手を差しのべていた。


「ありがたい! お邪魔します!」


 手を掴んだ瞬間、再び楽々と持ち上げられる。

 彼女達は後ろにカズヤら三人を乗せると、ヴィーレのいるであろう山中へと駆け出した。







 洞窟を隠す滝まで辿り着くと、兵士達はランプを用意し、中へ入っていった。他の抜け道から逃走されないように半数以上は洞窟を包囲し、戦闘に特化した者のみが侵入するようだ。


 イズ達は荷物を馬車の中に置いてきたため、離れないように後ろをついていく。


(待ってなよ、二人とも。もうちょっとで助けに行くからね……!)


 カズヤは強い想いを胸に、黙々と通路を進む。

 たまに部隊のトップと思われる男性が指示を出すだけで、他は一切私語をしない。


 そんな緊迫した空気の中、彼らのもとにアルルがコソコソと近寄ってきた。口に手を添えて小声で話しかけてくる。


「君達、ヴィーレの仲間の人?」


「ん? おう、そうだぜ。それどころか親友よ。もうすっかり仲良しだから『歩く歯ブラシ』っていうあだ名まで付けられてるんだ」


 唐突な質問にも気さくに答えるのはエルだ。

 ツンツン頭を触りながら自慢げに答える彼を見て、彼女はクスッと小さく笑った。


「そうなんだね。……あ、そうだ。自己紹介が遅れてごめん。あたしはアルル。ヴィーレの幼なじみなんだ。よかったよ、あの人が良い仲間に巡り会えたみたいで」


 通路に彼女の明るい声が反響する。声量が控え目とはいえ、完全に私語である。しかしそれを周りが咎める様子はない。


(ヴィーレのこと、心配してくれてたのかな。彼の事情はイズさんから以前こっそり聞いたけど、ちゃんと仲良くしてくれてる人もいたんだね)


 彼が冒険へ出る前に受けた酷い仕打ちを思い出したカズヤは、他にもヴィーレに友人がいた事へ密かに胸を撫で下ろした。


「……ねえ、何か聞こえない?」


 そこで三人の会話をイズの言葉が止めた。誰にでもなくそう尋ねる。いや、もしかすると独り言だったのかもしれないが。


 しかし、耳を澄ますと、確かにボンヤリと聞こえてくる。辛く苦しげな、叫び声とも慟哭(どうこく)ともつかない声が。


 そしてカズヤ達は気付くだろう。それは間違いなく勇者ヴィーレのものだという事に。


「マズイな……。急ごう!」


 先導している男性兵士に倣って全員が歩を早める。


 けれど、それはすぐに阻まれることになった。

 少し進んだところで兵士達が悲鳴をあげだしたのだ。先頭から後ろへ流れるように、彼らは地面へ倒れていく。


「何かの呪文だわ! 《フローズンスノウ》!」


 一番後ろにいたカズヤ達へ被害が及ぶ前に、兵士達より前の通路を氷で塞ぐイズ。

 前方の通路が氷で覆われる頃には叫喚がおさまった。相手の視界から身を隠せたようだ。


 謎の激痛にのたうち回っていた者達は体の様々な箇所に手を当てながらゆっくりと起きあがる。


(イズさんの判断に救われたみたいだけど……)


 カズヤは口に手を当てて呟く。


「どうするの、これ。ヴィーレ達が酷い目に遭ってるっていうのに……」


 立ち往生せざるを得ない状況となり、途方に暮れる一同。


 相手はどうやら大勢の人数にも対応できる高い魔力レベルがあるらしい。


 それでいて、洞窟の最奥へ続く道は一本だけ。ここを突っ切るしか方法は無かった。


「上官、あたしだけでも勇者の救出に向かわせてください!」


 まだ姿を確認できていない敵の対応に困っていると、アルルが先頭の男に進言する。

 先ほどまでの笑顔は嘘のように消え、一人の女兵士アルル・シェパードの表情になっていた。


 上官と呼ばれた男は困ったように頭を掻いて反論する。


「だがアルル、それは」


「お願いします!」


 上官であるはずの彼の言を聞く前にダメ押しする。断ることなど認めないと言外に告げているようにも思えた。


「……一人で行けるのか? 今の呪文、多分幹部のクスカが使う激痛の呪文(メガルギア)だし、勇者の周りにもかなりの数の敵がいると思うぞ?」


「千の呪文使いがいても、あたしならやれます!」


 ピシャリと言い切ってみせるアルル。『やってみせる』ではなく、本当に可能だと信じているような口振りだった。


 対する男は部下の目を気にするような素振りを見せるが、それでも折れない彼女を見て、諦めたように溜め息を吐いた。


「はぁ、また上に怒られるよ……」


 彼女の熱意に押された男はそう愚痴をこぼして、手振りで「行ってこい」と伝える。


「ありがとうございますっ!」


「あっ。ま、待って!」


 上官に礼を言うや否や、すぐさま駆け出そうとするアルルにカズヤが慌てて声をかける。せめて勇気だけでも受け取ってもらうために、と。


「魔力が回復していない僕は足手まといになるだろうから、君にはついていけないけれど……。でも、僕達もすぐに敵を倒してヴィーレ達のところに向かうから!」


 そこにイズとエルが続く。


「アルルと言ったかしら。単身でも任されるって事は、実力については心配する必要もないのよね? ……あの二人を頼むわよ、お願い」


「こっちの敵は俺達がやっておくぜ。ヴィーレ達の周りにはまだ強力な見張りがいるはずだ。気を付けろよ」


 激励を受けたアルルは「わぁ……」と薄く声を漏らし、弾けるような笑みを浮かべた。洞窟の暗がりを全て照らし出すような眩しさだ。


「うん、任せてっ!」


 そう言って前を向くと、彼女は蟻の這い出る隙間も無いような分厚い氷の壁を、いとも簡単に蹴り壊した。

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