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6話「新たな試練」

 ヴィーレは町に帰ってから一旦みんなと別れ、依頼主に任務達成の報告をしに行っていた。

 魔物を倒した証拠になるかは分からないが、奴の歯形がついた野菜を持ち帰っていたので、ついでにそれも見せる。


「おお、君達ならやってくれると思っていたよ! ありがとう!」


 館の主は大喜びですぐに報酬を渡してくれた。確認はしていないけれど、重さはそれなりにあるから、結構な額を貰えたことだろう。


 それにしても奇特な貴族であった。彼は一度もヴィーレ(赤い瞳の勇者)を見下すこともなく、あくまで対等な関係として接していたのだ。王権の支配力が強いユーダンクから離れ、アルストフィアで会ったような人々が減ってきているのだろうか。


 ヴィーレは慣れない大金を大事に大事にリュックへしまって館の主の家を出る。


 初めてこんなに硬貨を持ったために、今の彼には周りの人間がすべて敵に見えていた。狙われてないか。盗まれやしないか。そんな疑心を抱いて、かえって自身が不審になっている。


 ビクビクキョロキョロしながらモルト町の入り口へ行くと、そこでは約束どおりイズとネメスが待っていた。

 ネメスはこちらに気付くと元気一杯に手を振ってくる。ヴィーレは返しに軽く手を挙げて合流した。


「それで、報酬はどうだったの?」


「ああ、十分もらえたよ。あの男はかなり懐が深かったらしい」


「よかった~。ヴィーレお兄ちゃん達にホームレスの生活術を教えることにならなくって」


 ニコニコしながら恐ろしいことを言うネメス。そんな生活、想像したくないなとヴィーレも内心で肝を冷やした。


 まあ、イズがいる限りは絶対にそんな事態になり得ないから安心なのだが。

 ヴィーレはネメスの発言への反応をせず、代わりに別の質問を投げかけた。


「お前らの方こそどうだったんだ? 今日は宿、ちゃんと取れたのかよ?」


「え、ええ……。でも……」


 イズはなにやら言いにくいことでもあるかのように口ごもる。


「お部屋、一つしか借りられなかったの。ベッドも二つしかなくって」


 彼女に代わってネメスが説明してくれる。なるほど、それはなかなかに窮屈そうである。


「じゃあカズヤとエル、そしてお前達で二つのベッドを使えばいい。俺は床で寝るよ」


 適材適所でいこうと続けるヴィーレ。しかし、彼が譲るのを見て、ネメスは首を大きく横に振った。


「ダメダメ、ダメだよっ! 体痛めちゃうでしょ!」


「硬い寝床には慣れてる」


「それでもダーメ! 風邪引いちゃったらどうするのっ!」


「……だが、男三人で一つのベッドに寝るとなると、かなり厳しいぞ? 絶対に誰かが落ちてしまう」


(というかそれ以前にそんなむさ苦しい状況で寝たくない。あいつらと密着した状態で寝るとか誰も得しねえだろ)


 ヴィーレにはエル達とベッドの奪い合いになる未来が簡単に想像できた。

 他の二人にも迷惑であると分かればネメスも引かざるを得まい。完璧に論破してやったぞ、と変なところで勝ち誇る勇者。


 だがしかし、足りない頭で絞り出した答えは、案の定あっさり破られてしまう。


「じ、じゃあ私達のベッドで寝ればいいじゃない!」


「……は?」


 ここ最近で一番とぼけた声が出てしまった。その原因であるイズは胸の辺りで軽く手を握り、(うつむ)きがちにこちらをチラチラと見てくる。


(どうしちまったんだ、お前……)


 いつもとはまた勝手の違う彼女のワガママに戸惑うヴィーレ。


(そもそもだけどな、そんな台詞をこんな人通りの多い場所で言わないでくれよ、頼むから。俺がそういうヤバい人と思われちまうじゃねえか。しかも瞳の色で個人情報もクソもないというオマケ付き)


 コソコソと周囲から冷ややかな話し声が聞こえる。彼の懸念どおり、イズの発言は怪しい方向に解釈されたらしい。


 ヴィーレが以上の状況を察知した時にはもう遅かった。無垢なる少女によって、そこへ更なる追撃が加えられていたからだ。


「そうだよっ! わたし達ならお兄ちゃん達より小さいし、三人でも一緒に寝れるよっ!」


「とは言ってもだな……。イズ、お前それで本当にいいのかよ?」


「良いも何も無いでしょ。いくら私でもネメスのこの頑固さには勝てないの。他の男二人も信用してない訳じゃないけど、ほら、さっきの洞窟のことがあるし……。しょうがなくよ、しょうがなく!」


 キレ気味に返すイズは、頭から湯気が出そうなほど真っ赤だった。


 彼女も頼みたくて頼んでいるわけではないのだ。ただネメスの説得にはとても数時間じゃ足りなさそうだったから、イズの方が妥協して折れたまでなのである。


(消去法でしたか。まあ洞窟でのあいつらのスケベ心は警戒するよな)


 先の件を思い返す。エルとカズヤからしたら冗談のつもりだったのだろうが、イズに若干の不信を抱かせるには十分だったようだ。


(……仕方ない。なんか色々マズイ気もするが、多分もう俺に選択権はないのだろう)


 ヴィーレはこういう時の諦めの早さだけが異常に優れていた。どこかの唯我独尊なお嬢様との冒険で身に付いた悲しき性である。


「分かったよ。今夜はお前達のとこにお邪魔させてもらう。とりあえず、早くここを離れて宿に行こう」


 できるだけ周囲を見ないようにして小声で言うヴィーレ。ネメスは首を傾げていたが、イズはその意図を悟ったようだ。紅潮した顔を手で覆い隠している。


 そうしてヴィーレは周りから好奇の視線が浴びせられているのを感じながら、宿まで早足で逃げ去ったのだった。







 宿に着くと、エルとカズヤが部屋でくつろいでいた。幸いにも空いている宿は高級なところだったようだが、それでもやはり五人が入るにしては狭い。


 ちなみに、ここへ来るまでに聞いた話だと、エル達もヴィーレがネメス達と寝るのは了承済みらしい。


(っておいこら。どっちか止めろや)


 一人心の中でノリツッコミをする無表情勇者。

 入口のドアを閉める音で、エル達の視線がこちらへ向いた。


「やっと帰ってきたか。……ヴィーレ、それにイズとネメスちゃんも。ちょっと相談があるんだ」


 ベッドに腰かけるエルは急に真面目な声色で話しかけてきた。いつもの小うるさい雰囲気は鳴りを潜めている。

 カズヤもその件については知っているらしい。窓際で成り行きを静観している。逆光で顔色は窺い知れない。


 ヴィーレはイズに目配せするが、「私達は知らないわ」と視線で答えられる。少し考える素振りを見せてからヴィーレは観念したように手近な椅子へ腰かけた。


「相談されるような事なんて無いと思うんだが……。何についての話だ?」


「変更してもらいたいんだよ、明日からの予定を。三日ほどヨーン村周辺に留まりたい」


 彼の提案に眉をしかめるヴィーレ。視線を逸らせば、カズヤも部屋の壁に寄りかかってこちらの顔色を窺っていた。


「……どういうことだ?」


 尋ねると、エルは一拍置いてから事情を語りだした。


「昨日来たときからこの町の宿ってやけに混んでただろ?」


「ああ、それで幽霊屋敷の依頼を受けたんだしな。今もそうだ。モルトの宿が軒並み全部埋まってるせいで俺達はここにいる」


「そうそう。で、さっきカズヤ達と宿を借りたときに、ここの宿主のオッチャンにその理由を聞いてみたんだよ。そしたらこんな答えが返ってきた」


『なんだ、知らないのか? この町の隣にヨーン村ってのがあるだろ? あそこに三日後、盗賊どもが略奪をしに行くって予告を出したのさ。それで避難してきたのが、今いる俺達の客だよ』


「盗賊って、最近勢力を拡大しているっていうあの……?」


 イズが誰に尋ねるでもなくそう呟く。


 ヴィーレも少しは耳にしたことがあるかもしれない。初めはただの小さな違法団体だったが、今となっては軍も無視できないほど大きな存在になりつつあるという話だ。


 何故わざわざ犯行予告をするのか。どういう目的で略奪を繰り返しているのか。明かされない多くの謎を持つ不気味な集団である。


ヨーン村(その場所)には既に兵士が送られてきているらしいよ。でもその数は多くないみたい。それに、まだあそこに残っている村人も少なくないようなんだ。もしかしたら、彼らも戦いに巻き込まれてしまうかもしれない」


 腕組みを解いてエルの隣に腰を下ろすカズヤ。その言葉を引き継ぐのはエルだ。ここからが本番だと言わんばかりに曲げていた腰をピンと伸ばす。


「さっきカズヤから持ちかけられたんだよ。ヨーン村へ加勢しに行こうってな」


「魔王城へ着くのが遅れることは理解しているよ。でも、お願い」


「ああ、それに危険すぎることも分かってる。デメリットだらけなことなんて百も承知だ。……だが頼む。そいつらを助けに行かせてくれ」


 そう言うとエルとカズヤは頭を下げた。イズとネメスは隣でヴィーレがどういう決断を下すか見守るつもりのようだ。口を挟まずにただ傍観している。


(もしかして、この二人がネメス達と寝るのを許可したのって、これが目的だったりするのだろうか。俺の機嫌を取ろうとした?)


 ヴィーレは心の中で笑った。


(だとしたら、馬鹿らしい話だ。エルの過去についてはよく知ってるし、カズヤはビビりだけど、それ以上に優しい奴だってのも把握している)


 二人の肩を掴んでこちらを向かせ、それぞれの顔を交互に見る勇者。答えは考えるまでもなかった。


「駄目なんて言うと思ったのか? 人々を救うのが勇者の役目だぞ。ちゃんと仕事はやり終えるさ」


 彼が快諾すると、カズヤ達は安堵したように顔を見合わせた。イズとネメスも満足そうに微笑んでいる。異論はないようだ。


「ありがとう、ヴィーレ」


 礼を言うカズヤに続いて、話を聞いていたイズが再び会話に参加してきた。


「でも三日後って、それまで何をするのよ?」


「うーん。……ギリギリまでここにいたいな。できるだけこの周辺で魔力上げをして、当日ヨーン村へ行こう」


「あそこの村周辺の魔物はクソみたいに手応えがないもんな。魔物狩り始めたばっかの時には世話になったぜ」


 そう。相手が弱ければ弱いほど魔力レベルは上げにくい。モルト周辺の敵は確かに強いが、ヴィーレやイズ、エルがカバーすればネメスとカズヤも安全に戦えるはずだ。


「じゃあこれで決定だな」


 張りつめていた空気を完全に消し去るように手を叩く。みんなの視線が集まったところで、リュックから袋を取り出した。


「よし。そうと決まれば、ひとまず今日は疲れをとることに専念しよう。金はある。今からみんなで飯を食いに行くぞ!」


 ヴィーレが先ほど受け取った報酬金を掲げると、仲間たちは沸いて喜んだ。

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