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5話「中ボスで分かる、みんなの性格」

 洞窟の最奥に着くと、これまた大きな空間が広がっていた。ここだけは異様に臭いことから魔物の糞尿がどこかに溜まっているのだと推測される。


 生殖活動は勿論、食事や排泄もする。寿命はとびきり長くて魔力量も高い。それが魔物という生命体だった。


(だが、そんな魔物は初め、どうやって生まれたんだろう? 進化の枝分かれや突然変異であんなものができるもんなのか?)


 ヴィーレがどうでもいい疑問を抱いていると、空洞のさらに奥の方で何かが潰れるような音がするのに気付く。


 音はグチャグチャというかニチャニチャというか、とにかく下品なもので、それが洞窟に反響することで一層不快さが増していた。


「あれか……?」


 前方にうっすらと毛深い背中が見える。音から察するに、何かを食っているのだろうか。


 目を凝らすと、毛むくじゃらの前には人里から奪ってきたのであろう農作物が山を作っていた。


(おいおい、大損害じゃないか)


 ヴィーレが驚いていると、彼が先にこぼした言葉へ返事が投げられる。


「だろうな。きったねえ音たてやがってよ」


「クチャラーは嫌だよねぇ」


 同調するのはエルとカズヤだ。カズヤの世界にあるよく分からない言語も、ヴィーレらはニュアンスで大体の意味が分かるようになってきた。


 ふと、遠くで陰口を叩いている勇者達の話し声が聞こえたらしく、大猿の魔物は勢いよくこちらを振りかえった。


「やるぞ。灯りを絶やさないよう気を付けろ」


 ヴィーレの指示と共に戦闘の幕が開けた。お互いの邪魔にならないように少し離れ、五人はそれぞれ行動を開始する。


 ヴィーレはとりあえず大剣を構えた。イズやエルだけで事足りるだろうと油断してしまっているため、所作は随分と緩やかで余裕がある。


 イズは魔物の分析を始めた。魔物はその形態に応じた攻撃を仕掛けてくる。彼女はそれにどう対応するのかを考えているのだろう。


 カズヤは小さくチェックの呪文を呟き、出現した文字を見つめて一人でうんうんと頷いている。レベルの確認は魔物相手であればかなり有効な手段だと言えるだろう。


 ネメスは弓矢を構え、真剣な表情で魔物を見据えている。真面目に戦闘準備を始める彼女にヴィーレも感心しているようだ。「順調に強くなっているみたいだし、何か今度ご褒美にオモチャでも買ってあげようか」などと悠長に考えていた。


 エルは短剣でジャグリングしている。遊ぶな。


「キェェァァァッ!!」


 猿は甲高い鳴き声をあげる。空間一杯に広がった、逃げ場のない音の弾幕がヴィーレ達を襲う。


「くっ……! 鼓膜がはち切れそうだ……!」


 ヴィーレは顔をしかめながら人差し指だけで耳を塞いだ。


 イズは「やかましいわね」と言いながら優雅に耳栓を取り出して装着する。備えあれば憂いは無いのである。


 カズヤは「どっかのゲームでこんな攻撃見たよ~!」と謎の主張をして両手のひらで耳を覆った。


 ネメスは辺りの小石を拾ってせっせと耳栓を作成していた。モデリングの活用だ。親切に他のメンバーの分も作ってあげている。


 エルは猿の大声を聞いて負けじと吠え返していた。対抗するな。


 魔物はヴィーレ達があまり怯まないのを見ると、今度はさっきまで食べていた作物の山を掴み、こちらに投げてきた。カラフルな弾幕が高速で迫ってくる。


「なんてことをするんだ! 野菜や果物の気持ちを考えろ!」


 ヴィーレは慌てて剣を鞘に戻し、素手で可能な限りすべての作物を回収した。農家の血がそうさせたのだろうか。普通の人なら手首が吹っ飛んでもおかしくない速度の農作物を、潰すことなくキャッチしている。


 イズは例のごとく、自分の前に氷の壁を作って攻撃を防いだ。万能すぎる防御壁である。


 カズヤは「ネメスちゃん、射的の時間だよ!」と言って彼の呪文『スロウ』を唱えた。迫りくる野菜や果物の速度がガクッと落ちる。しかし、それらにかかっている慣性はそのままのようだ。


 ネメスは「任せてっ!」と自信満々に返して野菜たちを矢で撃ち落としていった。


(いやいや、そんな高度な遊びはいいから。あとであの二人には説教しとかないとな……)


 ヴィーレが眉間を押さえる横で、エルは全ての作物を見切ると、完全に避けきってみせた。最後は自慢げにポーズを決めていたが、ヴィーレ以外は誰も見ていない。


 大猿は五人がそこらの町人レベルではないことを悟ったようでのっそりと立ち上がった。こちらがそれだけ大きな脅威だと認識されたのだ。


 遊ぶつもりでもなければ、敵が本気になる前に倒した方がいいだろう。ヴィーレは魔物が立ち上がるまでに高速で近づくと、足を切りつけ、ダメージを負わせた。


 転ばせるつもりだったのだが、そう上手くはいかなかったらしい。魔物はよろめいただけで未だ膝をつかない。


 しかしヴィーレに続いてイズが巨大な炎の球体を作り上げ、魔物へと放った。大猿は業火に包まれたが、それでも倒れない。悲鳴と思われる叫び声を発するのみだ。


 カズヤはスロウで相手の動きを遅くする。勇者一行の中ではスロウとエクスプロージョンしか使えないということになっているカズヤ。嘘を吐いていることを隠すためにも、他の呪文は不用意に使用できない。


 次はネメスの(ターン)である。鈍くなった魔物に狙いを定めて矢を放ち、相手の両目を的確に撃ち抜いた。


(ちょっと、ネメスさん? 誰にこんな残酷な戦い方習ったの? いや、戦法としては的確なんだけどね?)


 ヴィーレが密かに引いている横で、エルは再び短剣ジャグリングを始めていた。アサシンズナイフを唱えて武器を強化すると、落ちてきた剣から次々に魔物へ向けて投げ飛ばす。それらは全て猿の頭を貫通し、魔物はようやく倒れ、消滅した。


 戦いが終わると、ヴィーレはみんなの様子を確認する。戦闘の最中も彼だけは味方の行動へ注意を向けていた。


(みんなの力を十分に引き出すためにはもっと彼らのことを知らなければならない。これからも観察を怠らないようにしなければ)


 そういう思惑のようだ。苦労の絶えない役回りである。


 他方で、イズはみんなに怪我は無いかと呼びかけていた。皮肉にも、メンバーに一番怪我を負わせることの多い彼女が、最も仲間の体を気遣う回数が多いのだ。


 カズヤは手強かった敵に勝利できて自信がついたようだ。召還されたばかりの彼も、段々とこの世界に馴染み始めている。


 ネメスは自分の成長を素直に喜んでいた。できなかった事が日々を重ねるごとにできるようになるのは、彼女にとっては大きな喜びみたいだ。


 エルはどこかに消えていた。おそらくさっき投げた短剣を拾いに行ったのだろう。彼だけはどうも格好がつかない。







 洞窟を出ると、外はもう夕日が差していた。枝葉を潜って紅色の光の糸が乱れ降りている。洞穴から出てきたヴィーレ達はその煌めきに目を細めた。


(想像以上に時間を使ってしまったな。他の魔物が目覚める前に早く帰らないと)


 ヴィーレは仲間を連れて馬達の墓にもう一度挨拶をする。一つ黙祷を終えると、それぞれが別れを告げてモルトへの帰路につこうとした。


 しかし、彼らが墓から振り返るや、誰もが想像していなかった事が起こる。


 さっきまで何もなかった山道に一つの馬車が現れていたのだ。あまりにも自然で静かな登場だったため、ヴィーレも最初からそこにいたものかと錯覚したほどだ。


「おっと、お兄さん達。奇遇だね」


 御者はいつか出会ったローブの商人だった。馬の手綱を握り、首だけこちらに向けて微笑んでいる。顔はやはり口元だけしか見えない。


(ぐぬぬ、気になる……)


 冒険を繰り返しているヴィーレすらも彼女の正体は知らないのだ。少し身を屈めてみたりするが、中身はやはり確認できない。


 先日の件以来、カズヤも商人が気になっていたようで、彼女のことをじっと見ている。目を細めすぎて、まるで睨んでいるみたいだ。


「おう、いつかの若い商人ちゃん! こんなとこで何してんの?」


「ちょっと借りてた馬車をモルト町まで返しに行こうと思ってね。お兄さん達こそどうしたの?」


「ああ、実は魔物退治に来る途中で馬を亡くしちまってなぁ。魔物は倒したんだけど帰る手段が無いんだわ」


「なるほど~。そういう事なら乗ってく? 勿論、お金は貰うけどね」


 そう言って少女は人差し指と親指で丸を作ってみせた。


(ちゃっかりしてやがる。けれど、こちらとしては助かるのも事実だ。ここは提案に乗らせてもらうか)


 ヴィーレは即決して荷物から財布を取り出した。


「このまま歩いて帰るのはこいつらもキツいだろう。金ならある。悪いが乗せてくれ」


 彼が独断でそう決めたものの、特に異論は無いようで、みんな素直についてくる。


 かくして、勇者一行は無事に再びモルトの町に戻ったのだった。

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