表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/139

3話「お化け屋敷?」

 モルトの町へ着くと、その入り口より手前に見たことのある怪しい店があった。


 アルストフィア村を出るときに買い物をしに寄った屋台だ。ヴィーレ達が近付いてみると、中にはやはり前回と同じ格好をした黒外套(がいとう)の少女がいる。


「あ、商人さん! こんにちはっ!」


 それに気付いたネメスが元気よく声をかける。ヴィーレが馬を止める否や、犬のように人懐こい笑みを浮かべて商人に駆け寄った。


(あいつ、いつか不審者についていきそうで怖いな。そこら辺のこともしっかり教えておかないと)


「こんにちは。偶然だね~。おお、ようやく仲間が揃ったんだね」


 心配するヴィーレをよそに、ローブの少女はニコニコと笑顔を崩すこと無くネメスに話しかける。心なしかネメスと話すときだけ彼女は優しい気がする。癒しパワー恐るべし。


 一方、エルは少女を見て「誰だコイツ」とでも言いたげな表情をしていた。彼だけ商人とは初対面だ。


「……僕達、あの子に仲間の話なんてしたっけ?」


「さあな」


 訝しげにするカズヤから小声で確認されるが、ヴィーレは考える素振りも見せずに答えた。

 カズヤはなんとか思い出そうとしているようだが、昨日の早朝にした会話なんて断片的にしか覚えていないだろう。


「それじゃあ、せっかくだし何か買っていくかい?」


 商人が我がパーティーの財布の紐を握るイズに話しかけた。まあ彼女以外でもヴィーレとエルだけは個人的に金を持っているのだが。


「一応聞いておいてあげるわ。今回は何を売っているのかしら?」


 イズがそう問うと、商人は足下から大きな箱を五つ取り出した。


 中には前回と違って共通点のない物が無造作に入れられている。本や液体の入った瓶、アクセサリーや食べ物などだ。


「何だこれ。本当に売り物かよ」


 エルが眉をひそめて箱を眺める。しかし、対する少女の笑顔は少しも歪まない。


「失礼しちゃうなぁ。まあ少し見てみなよ、お兄さん。めぼしい物が見つかるかもよ」


「確認だけでもしてみましょうか。前回みたいにとんでもない掘り出し物があるかもしれないものね……」


 イズが箱の中を探り出すと、皆もそれに続く。

 よく分からない物が多かったが、ヴィーレはその中にちょうど欲しかった商品を発見する。


「この鎧……硬度が素晴らしいな。上下に靴と籠手まで一式揃ってるし何より軽い。これを買おう」


 サイズの合った優秀な防具を買うことにした。もちろん自分の金で、だが。


 予想外の出費がかさんだせいで、もう彼の所持金は大銅貨九枚だけになってしまっていた。こんなんじゃリンゴ一つすら買えやしないだろう。


「あの、聞いていいかな? この錠剤って何なの?」


 商人の少女へ、カズヤが長方体の箱を見せる。表紙には白い錠剤が印刷されていて、他の部分は黄色い。あとは用法用量と成分が書かれているだけだ。明らかに人間国の技術によって作られた物ではない。


「馬や馬車に乗った時の酔いを防ぐことができる薬だよ」


「えっ、嘘!? この世界にも酔い止めあったの!?」


「そんな形の薬、俺は見たことないが。薬といったら粉末状のものじゃないのか?」


「私も知らないわね。本当に薬なの?」


「それはここ最近発売され始めたものだよ。需要が無さすぎて、お客さんには全然売れないんだけどね」


「い、イズさん! これ買いましょう!」


 カズヤの必死の訴えにイズもわずかに思案する。


(どんだけイズの後ろに乗るの嫌なんだよ。いや怖いのは分かるけどさ)


 ヴィーレがカズヤを哀れんでいる間にイズの結論は決まったようだ。顎に当てていた手を離して、背負っていた荷物から財布を取り出す。


「……仕方ないわね。これでいちいちあんたを後ろに乗せなくていいなら、まだ安い方だわ」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「まいど~」


 さらっと貶されているが、それでもカズヤはイズにペコペコしている。


(なんか金がない男って端から見てると猛烈に格好悪いな……。さっさと金貯めよう)


 ヴィーレは自分の軽い財布を握りしめて、固く決心したのだった。







 モルトは平野にポツンと佇む中規模の町だ。近くに山や森があるわけでもなく、日照時間が長いおかげで気温は高め。


 これといった特産品などはないが、ユーダンクを含めたいくつかの町や村へ続く中継地点になることから、安定した発展を見せている。


「嘘でしょ……」


 日がちょうど真上に来る頃、そんな町の入り口付近で、イズは絶望したように膝を地についた。その頬を汗が止めどなく流れる。


 彼女ほど疲弊しきってはいないものの、他のみんなもどうしたものかといった困り顔をしていた。


 町についたヴィーレ達は馬を預けた後、まず今晩の宿を探すことにした。

 昨晩決めた予定通りの道をこのまま進むと、次の町へ着くのは明日の明け方だ。それなら一度この町に宿泊した方がいい。


 ちなみに、こんなに午後の時間が余るのに、なぜ早朝に宿を出たのかと言えば、それはまた別の目的があったからなのだが……今はそれとは別のことに目を向けなければならないようだ。


 簡潔に言うと、部屋の空いてる宿がない。一つも、である。

 この町は人口が多いわけでも異常に宿が少ないわけでもない。にも関わらず、今日に限って宿がすべて満室なのだ。


 手分けはしたものの、町中を走り回ったことで引きこもりのイズはかなり息を切らしていて、汗も滝のように流している。


 一方、同じく引きこもりだったカズヤや、イズより年下のネメスはそこまで疲弊している様子はなかった。エルとヴィーレは言うまでもないが、全く疲れを見せていない。


「ていうかなんで徒歩で散策したの? 僕やヴィーレやエルはともかく、イズさんとネメスは一緒に馬車で宿を回ってるのかと思ってたよ」


「わたしはエルさんと一緒に宿を探してましたよ?」


 イズの近くに寄り添っていたネメスが代わりにカズヤの疑問に答えた。それに続けて、イズも辛そうに目を細めながら応答する。


「私もネメスが一緒に来たらそうしようと思ってたけどね……。あんた達が歩いているのに、私だけ楽したら気分が悪いじゃない……。だから乗らなかったのよ……」


「はは~ん? さては貴様、アホの子だな?」


「エルうるさい」


 茶化してみたもののイズに注意されてしまったエルは口にチャックをする仕草で返答した。


「と、とにかく! も、もう一度、片っ端から探して回るわよ……!」


 イズが根性だけでまだ歩こうとするが、足が思うように動かないのか、立つこともままならないようだった。


(いくらなんでも貧弱すぎではないだろうか。ていうかちゃんと水分補給しろ)


 溜め息を吐いて近くに設置されている時計台に視線を移すヴィーレ。


 ただでさえカズヤのためにとった休憩で一日分遅れているのだ。モルトに泊まる事だって今回が初である。宿を確保するためだけにこれ以上時間を無駄にすることはない。


「お前ぶっ倒れるぞ。……こうなったら仕方ないな。宿じゃないが、泊まれる場所は見つけたんだ。みんなついてきてくれ」


 そう言って、動けないイズをおぶって歩き出す。彼女は疲弊しすぎて抵抗する気力もないらしく、そのままぐったりと身を預けてきた。


(珍しく何も言わないが、まさか気を失ったのか?)


 後で逆上したイズに燃やされる恐れがあるけれど、その時はその時だ。今は深く考えないことにしよう。そうやって若干怯えながらも、ヴィーレは仲間を連れて目的地へと向かった。







「一体全体どうしてこんな事になってるのよ……」


 目覚めたイズの最初の言葉はそれだった。首を左右に回して自分の状況を確認する。


 一見すると宿屋の一室にも思えるが、それは違う。

 いかにも高級そうなカーペットやベッド、カーテン等のインテリア。大きな窓は陽光を通して部屋全体を優しく包みこむが、外の騒音は完全に遮断してくれている。


「勝手な事をしてくれたわね」


 イズはふかふかのベッドから体を起こし、ヴィーレをジト目で見つめている。受け止めるのはいつも通りのポーカーフェイスだ。


「仕方ないだろ。他に手が無かったんだ。まあ安心しろよ。放置されてたわりには、ベッドも部屋も綺麗なままだったぞ」


 ここは町外れにある豪邸だ。以前、貴族が建てたものらしいが、住んでいた者達はある事件によってここを引っ越したそうだ。その後、ここは空き家同然の状態がしばらく続いていたという。


「いやいやいや、そんな事より! ……本当なんでしょうね?」


「何が?」


「分かってるでしょ。幽霊の話よ!」


 そう、最近町の人々が奇妙な噂をしているのだ。この館には、幽霊がいると。


 聞く話によると、現在ここには誰も住んでいないのにも関わらず、夜中に何かが動いているような音が聞こえるらしい。それは館の前を通ったときにしか気づかないような小さな音だが、確かに館の中を人が走りまわっている足音だというのだ。


「その件を調査するために来たんだろ。心配いらない。警戒してれば大丈夫だよ」


「そうかしら……」


 そしてそこで、ヴィーレ達が町の入り口のクエスト掲示板に貼ってあった依頼を受けたのである。


『町外れにある館の幽霊の正体を掴むため、調査を頼む。魔物の可能性もあるので十分注意してほしい。報酬は大金貨一枚だ』


 以上が主な依頼情報。


(金も無くなってきていたし、ちょうどいい。このパターンは初めてだが、宿を借りられて、おまけに金もがっぽり貰えるんだから、メリットしかないな)


 腕を組んで一人頷くヴィーレ。そんな彼へ、イズが少しだけ不安そうに自身の服の袖を掴みながら質問を投げる。


「そういえば、あの子たちはどこへ行ったの?」


「お前が目覚めるまでもう少し時間がかかると思っていたから、先に買い物に出かけたよ。ここに泊まるなら、食べ物だけじゃなく、ランプも要るからな。夕飯の材料以外にも色々買ってきてもらう」


「……そう。じゃあ、なんで残ってるのがあんたなわけ?」


「エルはお前以外で唯一まともに金を持ってる奴だったからだ。しかも調理が好きらしいから、本来だったらあいつに晩飯を作らせるつもりだった。でも今日は、カズヤがエルと協力してニホンの料理を作ってくれるようでな。あいつも付いていったよ」


 果たしてカズヤの世界にあった調味料や材料はこの町にあるのだろうか。彼は「似たようなものを探してみる」とは言っていたが……。


「それなら、ネメスはなんで付いていったの?」


「あぁ、あいつには色んなものを見せておきたいからな。どうやって買い物をするのか。どういう場所に何が売っているのか。そういうのを学ばせるために連れていってもらった」


 そしてヴィーレは、イズが目覚めた時に寂しくないよう残ってあげてくれと、ネメスにお願いされてここにいる。


「そう……。結構あの子のこと、考えてあげているのね」


「まあな。何も考えてないように見えてたか?」


「ええ……。そ、その……ありがとう」


「は?」


「運んでくれて……だ、だからお礼を言ってるのよ! もう!」


 イズは恥ずかしくてじっとしていられなくなったのか、急にベッドから立ち上がろうとする。しかし、慌てていたせいですぐにバランスを崩してしまった。


「危なっ」


 倒れる寸前に彼女の体を受けとめ、再びベッドに座らせる。

 イズは格下と思っているヴィーレに無様な姿を晒したのがよほど屈辱的だったようで、顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。


(ヤバい、間もなく噴火しそうだ)


 敏感に危機を察知して避難を図るヴィーレ。イズから迅速に離れて立ち上がり、踵を返した。


「まだ疲れが残ってるんじゃないのか? 水分足りなくて倒れたんだろうし、ひとまず水飲めよ。お前の水筒に注いで持ってきてやるから」


 そう言い残して自然に部屋から立ち去った。廊下に出るといくらか外の音が聞こえてくるようになる。館の中も昼間は至って普通だった。


(カズヤ達が帰ってきたら、できるだけ早めに出かけたい。イズをそれまでに回復させておかなければ)


 彼はその中をゆるりと歩いていく。


 ヴィーレ達が今朝早くにユーダンクを出た理由。それは午前中に宿をとり、午後を全員の魔力上げ時間に費やすためだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ